向日葵と太陽

私の名前は、向日葵。

夏に生まれ、母親が向日葵が大好きだったということ、向日葵がたくさんの種をつけるように、周りの人たちの為に、たくさん良いことをできる子になって欲しいと、名づけられた。


だけど、私は、この名前が好きではない。


身長も同年代の女の子より小さく、雰囲気も暗く、花咲く向日葵のような凛々しさも、綺麗さも、力強さもない。


名は体を表すと言うけれど、私は、そんなことない。


名は体を表すとは、クラスの中心で、笑顔で周りを照らし、誰からも好かれ、頼りにされる太陽君のような人だよね。っと、私は、彼に視線を向ける。


私の視線に、気がついたのか、太陽君の視線が私に向けられる。周りのお友達と楽しく雑談している中で、こちらを見ている。


私は、急いで視線を机に向けた。自意識過剰だと思うが、ふとした瞬間、彼に視線を向けると、彼も視線を向けてくれる。


彼は、誰に対してもきちんと接する人。私にも、いつも挨拶をしてくれる、話しかけてくれる。


きっと、クラスに馴染めない私を気にかけてくれているんだと思う。


「向日葵さん、眠いの?」


「え…、え…。」


太陽君に急に話しかけられ、私はパニックになり、「え」しか、言えない。


「あ、急に話しかけてごめんね!」


悪いのは、私なのに太陽君は、自身がいけなかったのだと、反省している。本当にいい人。


「大丈夫です…、眠くはないよ。平気です。」


「そっか!なら、よかった!」


なんとか、会話を成立させ、安心する。それにクラスの人たちも、いい人ばかり。こんな私にもよくしてくれる。



帰宅する為に、校舎をでると7月の暑さが身体を纏う。花壇には、凛々しく高々と花咲く向日葵が。


花咲く向日葵と自らを比べ、私は、大きなため息を吐く。明日からは夏休み。だから、この花咲く向日葵を見ることは、なくなる。

そんなことを思い、花咲く向日葵を見上げていると、


「向日葵さん!帰るの早いね!

帰りの会終わってすぐ教室でていく、向日葵さんが見えて、追いかけてきたんだよ!」


「太陽君…な、なにか用事ありましたか?」


私は、急な太陽君の登場に焦る。


「えっと、明日から夏休みになって、向日葵さんに会えなくなるから、連絡先交換して欲しいんだ!」


「私の連絡先、なんて聞いてもいいことないよ?」


そんな返答しかできない、私は、私自身がとっても嫌いだ。すると、太陽君は、少し怒った顔して、


「なんでそんなことを言うの?向日葵さんは、とっても素敵な人だし、魅力的だよ!」


と言った。私は、唖然として返答する。


「え…?私のどこが素敵なんですか?」


「なら、今から向日葵さんの素敵なところ、言っていくわ!」


太陽君が宣言する。

私は、何が何だかわからないが太陽君の勢いに押され、その場を離れることができない。

太陽君は、深呼吸し、後ろに手を組み、私を見つめ、


「じゃあ、始めます。えっと、めっちゃ緊張するんだけど…。」


「私の方が緊張してます…。」


「だよね!けど、聴いて欲しい。」


「手短にお願いします…」


「え?たくさんあるんだけど?」


「たくさん…あるの…?」


「うん!んじゃ、いくよ!

向日葵さんって、名前が素敵。

向日葵さんは、小柄でかわいいのが素敵。

向日葵さんの透き通る声が素敵。

向日葵さんの踵を踏まずに靴や上履きを履くのが素敵。

向日葵さんの廊下や階段で、必ず相手に道を譲るのが素敵。

向日葵さんの整理整頓された、ロッカーや机の中が素敵。

向日葵さんの放課後、みんなの机の上をテーブル用の箒で綺麗にしてるのが素敵。

向日葵さんの自転車置場で倒れてる自転車を直すのが素敵。

向日葵さんの、」


「ま、まだあるの!?」


「え?まだまだあるけど?聴いてて!」


「恥ずかしいです…」


「向日葵さんの借りたペンとかを相手の利き手に返すのが素敵。

向日葵さんの集めているプリントに名前を書いていない人がいたら、ちゃんと伝えるのが素敵。

向日葵さんの部活の大会とかが近くて大変な人の日直の仕事とか、代わってるのが素敵。

向日葵さんの移動教室の場所が黒板に書かれていないときに、こっそり移動場所を書いてるのが素敵。

向日葵さんの綺麗な字が素敵。

向日葵さんのたまに、見せるはにかんだ顔が素敵。

向日葵さんの集めたノートの向きを揃えるのが素敵。

向日葵の、」


「太陽君、も、もう大丈夫です!わかったから、わかったから!ありがとうございます。私のこと、見てくれて。」


「向日葵さんは、わかってないよ。いつも、下を向いて過ごしてるけど、もっと自信持ちなよ!クラスのみんなも、いつも向日葵さんに感謝してるんだよ?クラスの雰囲気が悪くならないのは、向日葵さんみたいな素敵な人がいるからだよ!」


「だけど…、向日葵って名前だけど、あそこの花咲く向日葵の凛々しさや力強さに比べたら…」


「そんなことないよ!俺は、向日葵さんに上を向いて過ごして欲しいから、頑張れるんだよ!」


「どういうこと…?」


「向日葵さんが大好きです。ありきたりだけど、花の向日葵って、太陽の方を向くっていうでしょ?だから、素敵な向日葵さんに振り向いて欲しくて、俺の方を見て欲しくて、いろんなこと頑張れる…。」


私は、太陽君の真摯な告白に自然と顔を上げて、太陽君の方を見て、嬉しく恥ずかしく、はにかんでしまった。


「その、はにかんだ顔…花咲く向日葵みたいに素敵だよ…。てか、俺さっき告白してたよね!?」


太陽君は、頭を抱えてしゃがむ。そんな太陽君を見るために私は、下を向く。



やっぱり、向日葵は、太陽の方を向いちゃうんだ。


そして、頭を抱えしゃがむ太陽君に、


「太陽君…。太陽君が燦々と輝けるように、曇らないように、

私、もっと自分に自信持って頑張ります。付き合うとかは、まだ、わかりません!」


と、私は一方的に話しを切り、走り出した。


「え!?ちょっと、向日葵さん!待って、連絡先聴いてないよ!?」
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る