第28話 気を抜いたら駄目だよ
切り落とされた
そしてそれを為したのは、ローズだ。炎を纏わせた“ブレイブドライグ”を構えている。
「ローズ、どうしてここにっ?」
「一緒に戦うって言ったでしょ! 子供たちが逃げられるまでの時間は私とホムラ君、二人で稼ぐの! 隣は任せたわよ!」
ローズはニィッと笑い、ギラギラと闘志を燃やす黄金の瞳で僕を射抜く。その眩しさに、僕は頬を緩ませた。
「二人で最強だったね。なら、時間を稼ぐどころか、ヴィクトリアさんが来るまでに倒しちゃおうよ!」
「いいわね、それ!」
軽口を叩きあいながら、僕とローズは
「ガキどもがッ! お前たち、全力で暴れなさい! 壊しつくすのよ!!」
「「アオォオオン!!」」
「シャアアアッ!」
「ホムラ君、私の後ろに!」
走りながらローズが〝竜鱗〟を発動し、雷と炎の矢を防ぐ。だが、四方八方に放たれたそれらは、ショッピングモールの壁を、柱を、天井を打ち抜き、破壊した。
瓦礫が落ちてくる。
その瓦礫を避けながら、ローズと僕は
「アナタたちの相手は私たちよっ!」
「よそ見しないで!」
僕は“焔月”を、ローズは“ブレイブドライグ”を振るう。
ローズがそのまま
「≪
僕も
「面倒だから眠ってて」
「いつの間にッ!?」
「なっ!?」
鞘に納めたまま“焔月”を振るい、セラムとアラムを気絶させる。テレポートの力も
用意していた紐で二人を縛り上げ、ショッピングモールの隅に放り投げておく。
そして〝
本格的な戦いが始まる。
「グッ」
「ホムラ君っ!」
「大丈夫! 僕を信じて!」
薄氷を履むが如く、少しでもミスれば僕の命の灯はかき消える。されど、僕には鼠人族が無数の失敗と命の果てに積み上げた技術がある。そしてローズがいる。
だから、僕の命の灯は決して消えない。高だかDランクとCランクの
「シッ」
「「ガルッ!?」」
挟む込むように攻撃してきた
流石は身体能力の高い
「ハアァアア!!」
「「ガァアアっ!?」」
〝竜翼〟で飛翔するローズはグッと“ブレイブドライグ”を握りしめ、煌々と燃え上がる炎を纏わせる。
そして
≪
霊力が足りないからだ。
けど、ローズは違う。
〝竜翼〟による最高飛翔速度は秒速二百メートルを超える。そこに摂氏二千度を優に超える≪イグニス≫の炎と、ここ一ヵ月で急激に成長した剛の剣技、そしてAランクの霊力が加わる。
Dランクの
「ホムラ君!」
「ローズ!」
ローズと共闘するのは今日が初めてであるがゆえに、最初はちょっとぎこちなかった。危ない場面も多かった。
けれど、僕たちは一ヵ月以上も一緒に鍛錬を続けてきた。互いの剣と異能を知り、互いの強みと弱みを知ってきた。
言葉一つで、互いに意志疎通ができるほど。いや、言葉すらもいらない。
一撃、一秒を重ねるごとに、僕たちの連携は高まっていく。僕たちの強さを想像以上に引き出すことができる。
「シャア!!」
「灰鉄流――木葉流し」
まるで時速百キロメートルを超える自動車のよう。その
手首を捻り、“焔月”を爪撃に滑らせれば、冗談のように攻撃が横へと逸れていく。
“焔月”を納刀しながら
「灰鉄流――烈風斬」
「「ガゥウウァア!!」」
周りの空気を絡めとるように抜刀し、その衝撃波を
一体の
「紅蓮流奥義――
その進行方向に待ち構えていたローズが、炎を纏わせた“ブレイブドライグ”を大きく振り下ろす。
両断、とはいかなかったものの、
二体目、撃破。
「ガウッ!!」
「チッ」
それと同時に、
「シャアアアア!!」
「喰らいなさい、〝
ローズは“レーヴァテイン”の≪イグニス≫で二本の大きな牙を持った炎の竜の
そのまま〝
だからその威力は先ほどと比べ物にならない。
「シャアアアアア!!」
「ここ一ヵ月、≪イグニス≫の鍛錬も重ねてたのよ!!」
炎の浪と〝
それを横目に僕は雷を纏った
「セイッ!」
「ガウッ!?」
まさか僕が“焔月”を投げるとは思っていなかったのだろう。驚きと警戒から、
残念。前足で叩き落とせばよかったのに。
「炎は我が手に! 〝
「シャアゥ!?」
ローズがそう叫べば、〝
「轟かせなさい――」
黒炎を纏った炎の竜の顎は大きく口を開け、膨大な炎を口元に集める。
その炎は高温故に、空気を燃やし熱膨張が音速を超えた事によって強力な衝撃波を生み出し、その衝撃波が更に衝撃波を生む。
その生まれた衝撃波を炎で絡めとり。
「〝
「ガゥウウァアッッ!?!?」
まるで竜のブレスのような極太の火炎を、大きく回避行動をとって隙を晒す
「グッ」
〝竜翼〟が消えローズは落ちる。どうにか受け身を取ったようだけど、霊力が尽きているせいか、それとも落下の痛みのせいか、ローズは起き上がらない。
「ふぅ」
僕は駆け寄りたい衝動を抑え、“焔月”を納刀し深呼吸した。
「シャア……」
主に自分たちに攻撃をしていたのがローズだったがために、そして
僕の存在も忘れて。
「≪
ローズが作り出したこのチャンスを無駄にするな! 全てをこの時に懸けろ!
今出せる最大出力の十パーセントを……いや! それ以上の出力で!
あの時、僕は最大出力を超えたはずだ! 音よりももっと速く駆けたはずだ!!
「ハァアア!!」
「!?」
音速を優に超え、刹那に踏み込んだ僕は抜刀し。
「灰鉄流奥義――雷斬ッ!!」
炎の壁ごと、
「シャ……」
落ちる。動かない。……絶命したのだろう。
それを確認したと同時に“焔月”が消え、僕も倒れこんだ。歩くのもままならないのか、ローズが這うように僕の隣へと寄る。
「だ、大丈夫っ?」
「……大丈夫。それよりそっちこそ大丈夫?」
「足が動かないけど、大丈夫よ」
「それ、大丈夫じゃないと思うんだけど」
僕とローズはどうにか互いで互いを支えて、上半身だけ起こした。
「ひっ」
ローズが僕を見て悲鳴をあげた。
「どうしたの?」
「うでが、右腕が……」
「右腕?」
僕は自分の右腕を見やった。グニャリと曲がっていた。あまりの事態に僕はキョトンとしてしまい、左手で右腕を触る。
「……なんか、結べそう」
「む、結べそうじゃないわよ!? 何してるのっ!? いいから治療を……ってその霊力がもうないわ! ああ、どうすれば!」
「お、おちついて。痛みはないし、“鬼鈴”でどうにかなると思う――」
青ざめパニックになるローズを落ち着かせようとしたその時。
「ガアアアッ!!」
「ローズ!?」
渦の様な黒の門が突如として現れ、そこから
僕とローズはすぐに反応できない。疲労や霊力が尽きていることもあるが、先ほどのやり取りで気が抜けてしまったのだ。
それでもどうにか僕は力を振り絞ってローズに覆いかぶさり、
「……後輩に何してる?」
「ガウゥアアア!!」
周りから数十もの巨大な氷柱が突き出して、
そしてそれを為したのは。
「……二人とも、大丈夫?」
丸眼鏡をかけた鼠人族の少女だった。同時に物凄い激痛が襲ってきて、一瞬で気絶してしまったのだった。
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