4-5 神様だって見つけちゃうんだ

「お気をつけて」


警備員は手を振って神様を見送った。

神様も振り向き手を振って走り出す。


山道は風が吹き普段から肌寒く感じる場所だ。

植物が自生できなくなるほどの山ではない。

それでも神様は、そんな寒さを嫌って

仕事でなければ来たくないと思っていた。

そんな場所を自らの意思で進んでいる。


「肌寒いけど、体が熱くなるならちょうどいいも~」


そう思いながら坂道を走った。

牛車や馬車が走れる程度の舗装はされているので、

走りづらい道ではない。


それでも神様は、思った以上に走りやすさを感じており、

ペースを全く落とさず足を進めている。


「レッちゃんが空き地に作ったアスレチックみたいだも~。

 あっちのほうが大変だったし、なんか楽に感じるも~」


あれほどの急な坂ではないからか、

神様は今までの道と同じように走っていた。


同時にスフィーの話を思い出しながら、

左側に生えている木々に注目する。


――しばらくは舗装されたとおりに道を進んで。

木の種類が変わるところに獣道があるから、

そこに入ってほしい。

神様を襲う動物は、

牛車が通ったのを見てみんな逃げてるから大丈夫。


「……これかも~」


ちょうどよくイノシシが通ったような道を見つけた。

スフィーの言うことを信じて進む。


木々の背丈は低く、枝や葉が生い茂っていた。

そのまま走ることはできないが、

這って進むことはできる。


「網をくぐるやつみたいだも~。

 これもアスレチックでやったかも~」


神様は楽しそうにつぶやいて獣道を進んだ。

すると水の流れる音がする。


――獣道を抜けた先に川がある。

でも僕の『目』からは、どうやって渡ればいいかが見えない。

ごめんね、その場で神様が考えてほしい。


スフィーの言う通り川があった。

覗き込むと流れは強いが深さはくるぶしあたり。


「足をつけて進むことができるけど……

 滑ったら大変だも~」


慌てず確認をしながら周囲を見渡すと、

川の間に岩がポツポツとあった。

岩の大きさは神様の両足がギリギリ乗りそうなものばかり。


「これも、アスレチックでやったも~。

 でも、ここは本当の川だし……」


神様は運動でやったことを思い出すと、

同時に考えたことも浮かんできた。

両手にちからを入れて、

最初に足を乗せる岩を見定める。


「これは川で、これを超えなきゃいけない。

 アーリィもレッちゃんもいない。

 自分ひとりでこの先に進まなきゃだも~。もぉ!」


一歩を踏み出し、神様は飛び跳ねた。

神様の右足は岩に向かう。

「もっ!」


右足、左足と神様は岩に着地。

ふらつかないよう足に意識をした。


「……もぉ。最初はいけたもぉ」


ひとひとりが立っていられる岩に両足を載せて、

神様は呼吸を整えた。


岩がぐらついて川に落ちることはなさそうだ。

それを確認してから次の岩を見つめる。

なんとか足が届く距離。


「も~っと」


片足ずつ次の岩に移った。

そして次の岩を確認して、ひとつずつひとつずつ。

遅くても良い。川に落ちないようにしっかりと。


――牛歩でもコツコツやるのがよいと俺は思います。


――神様は調子に乗ると失敗することありますから、

一山当てるつもりじゃなくて、

コツコツ続けてほしいですけどね。


――毎日コツコツすることが俺も、

神様も向いてるだけの話です。


岩をひとつ進むごとに神様は、

ひとつずつアーリィの言葉を思い出した。

それが正しかったことを感じるたびに前に進めている。


「最後のひとつ!」

神様は運動靴を土につけた。

振り返ることなく、スフィーの言葉を思い出す。


――川を渡ると岩場があって、

通れないように見えると思う。

でもくぐって通れる小さな洞窟があるね。

崩れる心配はないからこれを抜けて。


岩はどれも大きく、神様が登れそうもない高さだった。

神様は上でなく、下を見て岩の隙間を覗いて回る。

多くは見てすぐに入れなかったり、

行き止まりだったりする隙間だった。

あれらず確認して回ると、


「あった。これだも~」


ひとつだけ、向こうの光が見える穴があった。

すぐには入らず大きさを確かめる。


「これもレッちゃんのアスレチックと同じ感じ。

 でもわたし、ダイエットがちゃんとできてないけど、

 途中でつっかえたりしないかもぉ……」


今までの障害物以上に神様は不安に思った。

レッちゃんの用意したアスレチックは当然、

神様が通れるようなものを用意されていたはず。

だがこれは自然物で、神

様どころかひとが通れるかどうかは考えられていない。


ちょっとだけ頭から体を入れてみた。

胸のせいで進みにくいが、

トンネルは一本道で通れないことはなさそうだ。


「よし、行くも~」

神様は覚悟を決めてつぶやき、

トンネルに入っていった。


中は真っ暗ではなく薄暗い。

もし岩が突き出てたり危ない虫や動物が

いたりしても分かりそうな暗さだ。

狭く、外より少し暖かい。

サウナほどでないにしても汗がたれてくる。


「ぱぁ! 抜けたも~」


時折汗を拭いながらトンネルを這って進み、

神様はようやくトンネルから顔を出した。

足を引っ張るようにトンネルから出て、

また呼吸を整える。


――トンネルを抜けると林が広がっている。

太陽の位置が左になるように進んで。

少し曲がっても舗装された山道に出るから、

心配しなくていいよ。

林を抜けたら、レッツたちに追いつく。


スフィーの案内を思い出して、

神様は木々を避けながら林を進んだ。

斜め上を見て太陽を確認しつつ、

でも木にぶつかったりしないよう前も見て。


「これもアスレチックでやったも~」


棒を避けながら進む

アスレチックを思い出しながら、林を抜けた。

足元には牛車や馬車のために舗装された道がある。

そして右を向くと知っているオス牛と、

牛車に乗るエルフがいた。


神様は今までなら出せなかった大きな声を出す。


「見つけたも~!」

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