4-4 神様だって走れるんだ
中庭をあっという間に抜けると、
神様がひいひいしながら上り下りしていた階段がある。
「神殿の階段ってこんなに簡単だったも~?」
と感じるほど神様は軽快に階段を下っていた。
神様が運動に必死になっている間に改装されていたり、
短くなっているなんてことはない。
変わったのは神様の方だ。
階段を降りきったあと、
神様は足を止めずに街の東に走った。
自主トレのときは休憩と思考のために
一度足を止めていたが、今はその必要はない。
神様は牛車の道に沿って走った。
荷物を運ぶ牛車を追い抜くと後ろから声が聞こえる。
「「おっ、神様だ!」
「俺たちも自分で歩くようにしたんですぜ!」
後ろを振り向くと、
先日も同じところですれ違ったドワーフがふたり、
手を振っていた。
神様はドワーフたちに手を振って返し、
すぐに前を向く。
(あのふたり、わたしに影響を受けてくれたのかも~?)
走りながら神様は、先日のことを思い出した。
あのふたりも猫系女子と同じように
自分に影響されてくれたのだと分かると、
神様は足取りが軽やかになるのを感じる。
調子良く神様は走り、住宅街へと入った。
ここに来ると目的地の山が見えてくる。
「あっ、かみたまだー」
「がんばってるときのかっこー」
「こんにちはー」
「こんにちはだもぉ~」
神様はあまり息を乱さず挨拶を返した。
前にここを走って同じことをしたときは、
息を乱しながらの挨拶だった。
それを思い出すと、
自分に体力がついたことへの自覚が増えていく。
「きょうもかけっこだー」
「しんでんから走っててすごーい」
「がんばえー」
「応援ありがとだも~」
今日もまた子供たちはついてきてくれる。
神様は子供たちに明るい声でお礼を言った。
子供たちに負けじと神様は走り続け、
前にあったことを思い出す。
――神様とは応援する側であり、される側なんです。
前にここを走っていたとき、
アーリィはそんなことを言っていた。
それを思い出して、
神様はまた子供たちに声をかける。
「みんな、今日も元気に過ごすんだも~」
「「「はーい」」」
神様の言葉に、子供たちは元気に返事をした。
応援されているんだから、
自分も応援してあげたいと思う。
多分これがアーリィが言いたかったことなのかもしれない。
胸がポカポカして暖かくなるのを感じた。
足取りもより軽く、
神殿から走って溜まった疲れが少し消えたようにも思える。
同じような気分になったということは、
これであっているはず。
同時に神様はレッちゃんの言葉も思い出す。
――ちゃんと前を向いてないと危ないですよー。
神様はもう一度前を向き、走り続けた。
まだレッちゃんに追いついていないが、
今は走り続けることが最善だ。
#
「牧場まで走ってこれたも~」
いっしょに走っていた子供たちが飽きて
別の場所に行ってしまったころ、
神様は牧場エリアへ入った。
今までのことを考えると、
ここで牛たちに歓迎されると思う。
だが走ってきたのはこの牧場の持ち主だ。
慌てた様子で走りながら、
わざわざ神様の横に並んでくれる。
「おお、神様!
うちのニューを見かけませんでしたか!?」
「ごめんも~。わたし急いでるけど、
向かってるとこにニューはいると思うも~」
「おお、心当たりがあるのですね。
ところでどちらに向かってますか?」
「あの山だも~」
神様は牧場主の質問に目線で方向を示した。
それを聞いて牧場主は目を見開き、
がんばって神様の半歩先に出る。
「なんと! 神様にご足労いただくのは大変です!
牛車を用意しましょう!」
「牛車じゃ間に合わないも~。
それにそっちも無理しないでほしいも~」
神様は牧場主に気を使った言葉をかけた。
牧場主は神様と並ぶためにひいひい走っている。
――そうだぞご主人。
――神様に任せましょうも~。
――私達じゃニューには追いつけないし……。
「ほら、牧場のみんなもそう言っているも~」
そこに牧場主のそばに牛たちがよってきて、
柵越しに鳴き声をかけた。
神様にはなにを言っているのか分かるので、
牧場主に分かるよう伝える。
「分かりました……。神様、おまかせしまぁす」
力尽きたように牧場主は言って、
へろへろと足を遅くしていった。
神様は頼もしくハキハキ答える。
「任せるも~」
――任せましたよ、神様。
――変なエルフについってった
ニューになんか言っておいてくだせぇ。
――がんばってー。
牛たちは続々と柵沿いに集まり、
もおもおと神様を応援した。
神様はなるべく手を振って、牛たちに答える。
(みんなが背中を押してくれてるみたいだも~。
おかげで、前にここを走ったときより余裕がいっぱいあるも~。
これなら休憩なしでも走れ……
ううん、お水飲むくらいはしよう。
どうあれここを通るには話をしないといけないも~)
神様は石造りの関所を見てそう思った。
ゆっくりとペースを落とし建物に近づく。
前にマラソンでここに来たときは、
警備員が何事かと思ってやってきた。
だが今日は誰も顔を出さない。
変なところはそれだけじゃない。
山から吹いてくる風が建物に阻まれて弱まるはずなのに強く感じる。
「門が開けっ放しも~!」
神様は原因が分かると驚きと文句の大声をあげた。
すると建物の奥からバタバタバタと騒がしい足音が聞こえてくる。
「かっ!? 神様!? いついらしたんですか!?」
「今来たところだも~」
前に水をくれた関所の警備をする狼系の男子がやってくる。
慌てた警備員に、神様は息を整えながら答えた。
「なんで開いてるのか分かりませぬが、
とりあえず閉めます……」
「あっ、門は閉めなくて良いも~。わたしが通るから」
「なんででしょ……」
警備員は理由を聞こうとしたとき、
立ちくらみのようにふらっとして、
石の壁に手をついた。
神様は元気をなくして犬耳を垂らした
警備員に近づいて優しく声をかける。
「多分、レッちゃんの魅了魔法にかかってて、
頭がクラクラしてるんだも~」
「レッちゃんさん……、
ああ、神官さんと牛車でやってきて、
ここを通るって言って、理由を聞いたあたりから記憶がなく、
なぜか自分は門を開けてしまいました。情けない」
警備員はそう言って、申し訳無さからか、
だるいからか、頭を下げた。
神様は山の方に目をそらして、
今も利用されてるであろうオス牛ひとりを思い出す。
「まあ、そもそもわたしが加護を弱くしちゃったのが原因だし、
レッちゃん魔法強そうだし、魅了されちゃったのは、
もうひとりいるし、しかたないも~」
「そう言っていただけるとありがたいです。
ところでどうしておひとりでここまで?
レッちゃんさんと関係が?」
「話をすると時間かかっちゃうし、
大事になる前に済ませたくて、
急いでレッちゃんを追いかけてるんだも~」
隣にいないひとに目を向けるような
仕草をしながら、神様は言った。
警備員は神様の仕草で状況を察したのか、
真剣な顔になりうなずく。
「分かりました。協力できることがあればご指示ください」
「ありがとうだも~。お水を一杯もらいたいも~」
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