3-1 神様だってスク水着るんだ

「神様、神官さん!

 今日はこれを着てください!」


またいつもより早い時間にレッちゃんは、

神様とアーリィの元へやってきた。

体操服が入っていたのとはまた違う袋が差し出される。


「やけに軽いも~。本当に服が入ってるも~か?」


「中を見てもいいですよー」


妙な予感を感じていた神様に言われたレッちゃんは、

ニヤニヤしながら言った。


神様は妙な予感を恥ずかしい予感に差し替えて袋の中身を出す。


「水着も~! なんなのこれ~!?」


袋の中には神様の体型と比べて

やや小さめの紺色の水着が入っていた。


最初に渡された体操服と同様に、

胸には古代言語で『ミノリ』と書かれている。


「古代文明の時代にー、

 今で言う学校の授業で使っていたとされる

『旧スク水』でーす。

 もちろんレプリカですけどー、

 この水を弾く不思議な素材を再現してるんですよー。

 すごいですねー。

 あ、でもがんばっている神様にプレゼントですので、

 お気になさらず受け取ってくださいねー」


レッちゃんの説明を聞いて、

アーリィはすぐに自分の受け取った袋の中を確認した。


バッと勢いよくウェットスーツが外に出てきて、

アーリィは大きなため息をつく。


「あ、残念ながらこの『旧スク水』は女性用ですねー。

 もちろん、心は女性という方や紳士は

 これを着ていたという言い伝えもありますよー。

 神官さんも、神様と同じのがよ――」


「これで結構です。

 いえ、こういうのをご用意したということは、

 今日は水泳でしょうか?」


「そうでーす」

「えっ!? じゃあ準備運動と移動も水着で……」


「いえー、さすがにそんな羞恥プ――神様の

 お体を必要以上に晒すようなことは、

 いたしませんよー。

 大変紳士な牛さんのホロがついてる牛車を手配しましたー。

 そちらに載せてもらって、

 街の南を流れる川までいきましょー」


「まあ、そうですよね」


アーリィは安心したような、少し残念そうな、

そんなため息まじりな声でぼやいた。


レッちゃんに連れられて神殿の外へ出ると

見覚えのあるオス牛が(牛なりに)カッコつけている。


「なんだ、ニューじゃないかも~」


――なんだかんだと言われようと、

オイラはレッちゃんさんに頼まれて来たんだ。

ささ、短い時間かもしれませんが、

快適な移動をプレゼントしますぜ。


「こいつこんなキャラだったかも~?」


「俺には牛の言葉が分からないのでなんとも」


そんなおかしなニューの引く牛車に乗り、

神様たちは川へ向かった。


川は東の山を通り、

街を迂回するように流れている。


大きな街であればこの川に沿って

建物や運河などが発展するはずだが、

神様の街はそこまで開発が進んでいない。


川底が深く流れもあるため遊ぶには向いてないと言われ、

さらに飲水にできる水質ではないこともあり、

不人気と言われている川だった。


「だけどー、レッちゃんが運動にちょうどいいポイントを探したらー、

 街の南側にいい感じの場所があったというわけでーす」


レッちゃんは川についてそんなコメントをした。

神様はピンと来ないので首を傾げ他人事のような顔をしている。

アーリィはなにかに気がついた顔をしたが、すぐに首を振る。


「アーリィ、どうしたも~?」


「不人気川を活かすビジネスチャンスを

 思いついたんですが、ダメでした。

 気にしないでください。

 不人気川はまだまだ不人気川です」


「不人気川って言うなも~」

「名前がついてないので仕方ないじゃないですか」


そんなやりとりをしているとニューは、

レッちゃんの指定した場所までやってきた。

レッちゃんは元気に馬車を出て、

ぽいぽいと服を脱いでいく。


「ちょっとレッちゃん!?」


神様はレッちゃんから離れる服を見て顔を真っ赤にした。

アーリィはすでにレッちゃんのいる方に背を向けていた。

レッちゃんをガン見しているニューはドワーフみたいな声をあげる。


――エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッろくない、だと?


「裸になっちゃうと思いましたー?

 レッちゃんは水着を着てきたんですよー!」


言いながらレッちゃんはくるっと回った。


レッちゃんはセパレートタイプの白い水着を着ていた。

川で遊んだり、真面目に泳ぐというより

川で運動するのに向いているようなデザインだ。


――だが似合う……。

このために牛車を引いてきたと行っても過言じゃない。


(ニューはああ言うけど、

 暗い色のほうがレッちゃんに似合う気がするも~)


神様はそう思って川に浸かるレッちゃんを見つめていた。

ちらりとアーリィはどうしているか気にする。

アーリィは神様の隣にはおらず、

今丁度牛車からウェットスーツを着て出てきた。

神様の視線に気がついて声をかける。


「先に着替えました。

 俺が見張ってるので神様も着替えてきてください」


「分かったも~」

そう言われて神様は、牛車へ入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る