2-10 神様だってコツコツやるんだ
「もぉ! こんなに食べていいも~!?」
リバウンドに怯えたのがウソのように、
神様は食堂に響き渡るほど大きな声を上げた。
今日の夕飯は、きのこドリア、トマトスープだ。
二品しかないが大盛りと言える量がある。
ドリアはきのこが主張するだけでなく、
グラタン皿ギリギリまで埋まっていた。
トマトスープもキャベツ、にんじん、ピーマンなどが浮いており、
こちらもカップも大きい。
それだけではない。
アーリィの前には同じ量で同じ料理が置いてあった。
ダイエットをしていないアーリィと同じものを食べるということが、
より神様のテンションを上げる。
「ふふっ、神様、ありがとうございます。
ゆっくり、よく噛んで味わってください。
私はお昼の食べっぷりを見ているので心配はしていませんが、
残してはいけませんよ」
「も~! ご飯残したらチャーレは
デーモンみたいに怒るって聞いてるも~。
けど、お腹空いてるし、
こんなにおいしいの残せというのが無理も~」
神様はそう言って両指を合わせた。
アーリィも神様と同じように指を合わせて、
いっしょに食前のお祈りを口にする。
――この食べ物に関わる、自然、ひと、技術、
この食べ物となる命、ちからにこの祈りを捧げます。
我が糧となり、我を生かし、我らの世界のためとなることを、
願い、感謝し、喜んでいただきます。
お祈りが終わり、
神様とアーリィがフォークを手に取った。
食事が始まってから、
チャーレは頬に手を当てるような仕草をして言う。
「あらあら、私がデーモンみたいに怒るなんて、
どこのレッちゃんが言ったのかしら?」
「今日のお昼に出会ったレッちゃんも~。
本当に知り合いじゃないのかも~」
「この世には顔の似ているひとが三人いる、
なんてお話がありますわ。
双子、先祖返り、転生、ドッペルゲンガーの召喚、
変身魔法など、似ているひとに出会ってしまう理由はいっぱいあります」
「では、チャーレさんの知っているレッツさんと、
神様に運動を教えているレッツさんは別人とお考えで?」
アーリィは興味ありげに話に加わってきた。
神様はスプーンを持ったまま横目でアーリィを見つめる。
(なんでアーリィはレッちゃんとチャーレの話を気にするも~?)
神様はそう思ってアーリィを見つめた。
だがアーリィは神様の視線に気がつかず、
チャーレを見つめたまま。
(もぉ~、いっか。
わたしもレッちゃんとチャーレのこと気になるし……)
神様はそう思ってため息を飲み込んだ。
神様もチャーレに目を向ける。
チャーレは神様とアーリィの顔を交互に見てから口を開く。
「どうでしょうね? 私はどちらでもいいと思ってます」
ガクッっと、神様とアーリィは脱力した。
「変なこと言うも~」
「友達なら心配するのでは?」
「しつこく聞いたらレッちゃんもイライラしてしまいますわ。
それにもしなにか理由があって肌の色を変えているのであれば、
聞かないほうがレッちゃんのためになるでしょう」
「肌の色を変えるって、
わざわざ変身魔法を使ってるも~?
そうまでする理由なんてあるのかも~?」
「それは分かりませんわ。
でもレッちゃんは目的のためにいろいろ考えて行動します。
そこで私がなにか言ってお邪魔してはいけないでしょう。
なのでぼかしておきます。
実際に怒られてしまったこともありますし」
チャーレは楽しそうに、
でも上品に笑いながら言った。
これ以上は聞けないと思ったのかアーリィは料理に再び顔を向ける。
「そういうのであれば、
俺からいろいろ聞くのはやめましょう」
「も~、ならわたしからアーリィに聞きたいことがあるも~。
なんでアーリィはわたしと同じ料理食べてるも~」
ようやく聞くタイミングができた神様は、
スプーンの進みの早いアーリィに聞いた。
アーリィはしっかりと噛んで、飲み込んでから答える。
「おいしそうだったので」
「理屈っぽいアーリィにしてはすごい分かりやすい答えが出たも~」
「うふふ、ありがとうございます」
神様の驚きを他所に、
チャーレは褒められて嬉しそうにくすくすと笑った。
アーリィは当たり前のように、
「まあ、せっかくいっしょに食事をするんですから、
俺だって神様と同じもの食べたいじゃないですか」
つぶやいて料理を口に運んだ。
「わたしと同じもの食べたいも~。
お揃いがいいも~?」
「そりゃ、神様があんなにおいしそうに食べてるんですから、
気にもなりますって」
するとアーリィは早めに料理を口に運び出した。
『もっとゆっくり食べてください』と
チャーレがいいそうなペースだが、
チャーレはニコニコしながらその様子を見てるだけ。
アーリィに言われて神様は料理を見つめ直した。
(なんだかさっきよりおいしそうに見えてきたも~)
そう感じた神様は無意識に手を早めて料理を味わい始める。
「神様も神官さんもめっちゃおいしそうに食べるな……」
「いいな~。あたしもダイエットしてるし同じのもらいたいなー」
「うまそうに食べてるひとを見ると、いつもの飯もうまくなってきたぜ」
「おかわりもらってくる」
神様たちのやり取りを見ていた神殿職員たちは
口々にそんな話を始めた。
皆のフォークやスプーンも神様たちと同様ペースを早める。
「ふふっ、みなさんもおいしそうに食事をなさってて、
あまり関係のない私でも嬉しくなっちゃいますね」
「他の街はこういう雰囲気じゃないのかも~」
「いえ、他の街もお食事はにぎやかで楽しそうでしたわ。
ですが牛神様の街は特別、お野菜や牛乳がおいしいので、
みなさまがおいしそうに食べるのでしょう。
私が聞いたウワサ通りの場所でした」
「えへへー、街を褒められるのは照れるも~。
チャーレ、ありがと~」
神様は言いながらヘラヘラと笑った。
アーリィは手を止めて、仕事をするときの声でチャーレに聞く。
「他の街で、牛神様の街は
どのようなウワサになっているのでしょう?」
「私はこの街について
『牛乳がおいしい街』としか聞いていませんでした。
恐れ入りますが、それ以外の話題はなかなか聞かなくて……」
「そっか~」
「そうですか」
チャーレの答えを聞いて、
神様とアーリィは揃って残念な声を上げた。
するとチャーレは明るい声で話を続ける。
「ですが私は、十分訪れる価値はあると感じてやってきました。
私から改めて言う必要がある言葉では
ないかもしれませんが街の発展も運動も
『継続は力なり』『四千キロの道も一歩から』ですわ」
「はい、ありがとうございます」
アーリィは心底励まされたからか、
チャーレにとても力強い礼を言った。
神様はそんなアーリィを見て考える。
(『継続は力なり』『四千キロの道も一歩から』
アーリィも『神様はコツコツやるのが向いている』
って言ってくれるけど、それだけで本当にうまくいくのかもぉ……)
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