2-4 神様だって気になるんだ
「っも~……。はぁはぁ」
もう息が続かないと言ったところで、
神様は息を吸った。膝に手を付き、息を荒くする。
「すごいいい声がでましたねー。
それじゃ次は神官さん!」
レッちゃんは小さく拍手を神様に送って、
次にアーリィにお誘いの手を差し出した。
アーリィは自分を指差して聞く。
「俺もやんないとだめです?」
「もちろんでーす。
神様もがんばったんですから、
神官さんも好きなもの教えてくださいよー」
「それって趣旨変わってません?」
おねだりするようなレッちゃんに、
アーリィはツッコミを入れるように言った。
そこに神様はねだるような上目遣いでアーリィを見つめる。
「わたしも、アーリィの好きなもの聞きたいも~」
思わぬ聞かれ方をされたからか、
アーリィは神様を見つめて固まった。
ドキッとしたのを隠すように顔に力を入れている。
アーリィはまだ大声を出してもないし、
好きなものを叫んでもないのに、
顔がほんのりと赤くなった。
そこにレッちゃんがニヤニヤした顔を突っ込む。
「どーやら、神官さんは好きなものを思いついたようですねー」
「そーなのかも~?」
「……分かりました。俺も発声練習します」
アーリィは観念したように息を吐き、
レッちゃんから教わったように足を肩幅に開いた。
まっすぐと神殿に目を向けて、
息を吸って、声を上げる。
「俺はこの街が好きだあああああああああああああああああああああああああああ」
「もおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
指示されたわけでもないのに神様まで大声をあげた。
レッちゃんに『すごいいい声』と言われたよりも
さらに大きくて牧場に響く声に、
アーリィとレッちゃんは目を丸くする。
「ど、どうしたんです?」
「なにかありましたー?」
「あっ、もっ、なんでもないも~」
神様は自分が驚いた声をあげたことに、
アーリィとレッちゃんの顔を見て気がついた。
すぐに身を縮めるように肩や腰を丸める。
神様はどうして自分がこんな声をあげたのかすぐに答えが湧いた。
(街が好きって、それってほとんど
『わたしのことが好き』
って言ってるみたいなものだも~)
考えていると神様はさらに恥ずかしさでうつむいた。
自分でも分かるほど顔は赤い。
(アーリィは前に
『神様は街をひとの姿にしたようなもの』
『大体同じようなもの』なんて、
わたしに説明したの覚えてないのかもぉ……?
アーリィみたいな頭のいい子なら
自分の言ったことくらい覚えてるでしょ~)
そんな文句を思いながら、
神様はちらりと顔をあげた。
そこには神様の予想と違う
キョトンとした顔のアーリィがいる。
すぐに顔を下げた。
アーリィはキョロキョロしながら聞く。
「な、なんなんですか……?」
「神官さーん、街のどんなところが好きですかー?」
するとレッちゃんはウッキウキの声でアーリィに聞いた。
至って平凡な質問に聞こえるが今の神様にとっては
『神様のどこが好きですか?』という質問と同じ。
これは街を自分の体の一部ように捉える神様特有の感覚だ。
レッちゃんはこの感覚について知っているのか、
知らずに質問をしているのか、
なんにしても神様のリアクションを楽しんでいるのは確かだと、
神様は感じた。
感じたところで恥ずかしさのあまり抵抗はできない。
そのうえでアーリィの答えが気になる。
「アーリィ……」
(恥ずかしいけど、
も~すっごい恥ずかしいけど、聞きたいも~)
神様は物寂しさを感じているような声で名前を呼んだ。
アーリィは息をつまらせて神様を見つめる。
なにか理由があって言いづらそうだ。
もちろん神様にその理由は分からないので、
アーリィが言ってくれることを期待して見つめ続けた。
するとアーリィは不足していた息を一気に吸って、
街に顔を向ける。
「俺は、この街の牛乳が好きだああああああああああああああああああああああ」
すると神様よりも牧場の(メス)牛たちから
黄色い鳴き声があがった。
レッちゃんはそれを聞いてアーリィではなく、
神様に顔を向ける。
「これってー、神様的どうなんですー?」
「わっ、悪い気はしないも~。
わたしも神になる前は普通の牛で、
乳搾りしてもらってたらしいも~。
まったくと言っていいほど覚えてないけど」
レッちゃんからもアーリィからも
目をそらしつつ曖昧な返事をした。
アーリィの答えを聞いて
神様は本当に曖昧な気分になっている。
(アーリィが牛乳好きなのは知ってるも~。
街の名産とかわたしと同じものが好きなのは嬉しい、
嬉しいけど、聞きたかった答えじゃない……。
じゃあわたしはどういう答えだったら納得したも~?)
考えていると段々と自分自身に疑問が浮かんでいた。
神様は答えを探してアーリィを見ると、
アーリィは恥ずかしそうな顔をしている。
柄でもない大声を出して照れているようだ。
レッちゃんは神様とアーリィを交互に見て偉そうに言う。
「神官さん、今の叫び方だと喉を痛めますよー。
しょうがないですねー。
レッちゃんが好きなものを叫ぶお手本を見せてあげまーす」
レッちゃんはまた教えたのと同じ姿勢をとりながら言った。
だが神様とアーリィにやり方を教えたときと違った感じがする。
戦士と同じ力強さで、
龍が炎を吐く前触れのようにお腹を膨らませて、
小さい体のどこから出ているのか
分からないほど大きな声を上げる。
「レッちゃんは! イケメンで!
特別な男が好きいいいいいいいいいいいいいい」
――それは、オイラのことだああああああああああああああああああああああああ。
未だにレッちゃんをそばで見ていたニューは、
返事をするように大きな声で鳴いた。
もちろんニューの言葉はレッちゃんに通じていない。
それでも神様は思うところがあった。
レッちゃんとニューを羨ましそうな顔で見る。
(わたしは、自分の好きなひとのことを話すのって、
恥ずかしいことだと思ってる。
なのに、ふたりとも堂々と言えてすごいも~)
するとレッちゃんは汗を払うように爽やかに体を回し、
神様に顔を向けた。
「じゃー、次は神様が好きなものを叫ぶお手本を、
神官さんに見せてあげてくださいー」
「な、なんで? レッちゃんがやったも~」
「神様がやらないと意味ないじゃないですかー。
神様自身のための運動なんですよー。
もちろん、神官さんもすることなんですからねー」
「そ、そうだったも~。これは運動だったも~。
告白大会じゃないも~ね」
「忘れてました……」
レッちゃんに言われて神様とアーリィは思い出してつぶやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます