1-5 神様だって体操服を着るんだ

次の日、神様とアーリィは

神殿の謁見の間でレッちゃんを待った。


昨日、レッちゃんから

準備するものはなにもないと言われたので、

本当になにもしていない。


「でも、レッちゃんが用意してくれる

 服ってどんなのかも~?」


「俺も検討がつきませんね」


「おまたせしましたー」


レッちゃんは飛び込んでくるような勢いとテンションで、

謁見の間にやってきた。


レッちゃんの格好は先日と同じような

動きやすそうなパーカーとスパッツだ。

違うのは袋を手にふたつ持っていること。


「早速ですけどー、

 これに着替えてくださーい。

 こっちが神様でー、こっちが神官さーん。

 靴も入ってますので履き替えてくださいねー」


その袋をずいっと差し出してきた。

神様とアーリィは渡された袋を見つめる。


「このふたつは違うものも~」


「とーぜんでーす。

 サイズはおふたりに合わせて用意しましたしー、

 おふたりに似合うものをご用意したんですよー」


理由は分からないがレッちゃんは早く着て、

自分に見せてほしいと言いたげな様子だった。

神様とアーリィはそれを感じて、お互い顔を合わせる。


「じゃ、じゃあ、着替えてくるも~」

「少々お待ち下さい」


神様とアーリィはそう言って奥に引っ込んだ。



「きゃー、神様お似合いですよー!

 かーわーいーいー!」


着替えた神様を見て

レッちゃんは耳に響く黄色い声をあげた。


対して神様は、

身を小さくするように内股でもじもじする。


「なんか、恥ずかしいもぉ……」


神様は袖や裾が赤くなった白地のシャツに、

短パンをさらに短くしたような赤いパンツをはいていた。


白地のシャツには『ミノリ』と

古代文字で神様の名前が書かれており、

さらに普段ひらひらで分かりづらくなっている

神様の大きな胸がよく分かってしまう。


靴は軽い紐靴ではあるが、

普段履いているサンダルよりは重い。


そして下を見ていくと神様は恥ずかしく感じ、

レッちゃんに声を投げつけるように言う。


「そもそも下、

 短すぎてふとももの太さが分かっちゃうもぉ」


「ふとももは太いからふとももって言うんですよー!

 それにこうして神様の体型を見ると

 とても健康的で魅力的だと思いまーす。

 神官さんもそう思いませんー?」


レッちゃんは自分の好きなことを語るようなテンションのまま、

アーリィに質問を投げた。

神様は上目遣いでアーリィの様子を見る。


「……まあ」

答えに困ってか、

アーリィは鳴き声のように口癖をつぶやいた。


アーリィは白いワイシャツに

膝上ほどのショートパンツをはいている。


「うう~。わたしもアーリィみたいなのがいいも~」


「いいえー、女の子はブルマと、

 古代叙事詩から相場が決まってるんでーす。

 神官さんだって、こういう格好は魅力に感じますよー」


(レッちゃんはそう言うけど、

 アーリィはなんだか

『見てられない』って感じだも~。

 それってわたしがダイエットしなきゃいけないくらい、

 太ましいって思ってるからかも~?)


神様は不安に思ってアーリィを見つめた。

アーリィは気まずそうにそっぽを向いたまま。

本音を聞き出したいところだが、

神様は予想が合ってしまうことが怖く、

聞くことができない。


そこでレッちゃんは両手をパンと叩いて、

神様とアーリィの視線を奪う。


「さて、おふたりともー、

 早速運動を……とはいきませーん。

 必ず準備運動をしましょー」


「も~? 運動するための運動って変だも~」


神様はレッちゃんの言うことを聞いて、

ダルそうだと眉を潜めた。

レッちゃんは神様に同じような顔を見せて説明する。


「いえいえー、神様そういうわけにはいきませんよー。

 準備運動を怠ってひどい怪我をしたひとを

 レッちゃん見たことあるんですよ―」


「具体的には?」

「はい! 神官さーん、よくぞ聞いてくれましたー!」


アーリィの質問にレッちゃんはウキウキの声で反応した。

自分の体操服姿にしていたのとは違った

テンションの高さを見せたレッちゃんに、

神様は潜めた眉をさらにひそめる。


「準備運動は自分の体に

『これから運動をしますよ』と伝えるためですよー。

 頭で分かっていても体はついてこないですからねー。

 体の準備ができてないのに急に運動を始めると、

 足のスネの裏が『ブチッ』って悲鳴をあげたりしまーす」


「もぉ!? そんな糸みたいに言うもぉ?!」


「筋肉も糸みたいなものですからねー。

 そして神官さんのようなヒューマンもー、

 レッちゃんみたいなダークエルフもエルフもー、

 神様だってー、体の構造はだいたい同じなので、

 ちゃんと準備運動しないと

『ブチッ』って言いますよ『ブチッ』って」


レッちゃんはニッコニコの笑顔に影を落として、

神様を脅かしてみせた。

神様はビクリと震えてから、コクコクとうなずく。


「お分かりいただけてなによりでーす。

 では中庭に出ましょー」


「中庭でやるもぉ?」


「はいー。だってー、

 あんなに運動にいい場所があるのに、

 使わないなんてもったいないじゃないですかー」


「でも、神殿で働くみんなに見られちゃうも~」


神様はレッちゃんの提案にもじもじしながら反対した。

アーリィは首を振って神様に言う。


「俺はレッツさんの言うことに賛成です。

 むしろ、住民に見てもらいましょう」


「あ、アーリィまでぇ……」


ヘタれるような声で神様は恥ずかしい困り顔を見せた。


レッちゃんは意見が一致したことに

デレデレした嬉しそうな顔を見せる。


アーリィはレッちゃんの反応を気にせずに話を続ける。


「ここ最近神様は外に出ていませんでした。

 なので、街の住民たちに神様の様子を

 見せてあげるのがいいと思います」


「そっ、そっか……。

 でも神様がダイエットなんて――」


「それも大丈夫だと思いまーす。

 一見したらその運動がダイエットのためかどうかなんて、

 分かりませんよー」


レッちゃんは食い気味に、

でも優しげな声で神様を励ました。


アーリィはレッちゃんの言葉を聞いて、

腕を組みうなずいている。


「そういうことなら……、中庭でやるも~」

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