1-3 神様だって教わるんだ

その後神様は街にある全ての本屋を回ったが、

参考にできそうな本は見つからなかった。

疲れた神様は芝生いっぱいの公園に寝転がる。


「うう、街の貿易がもっと盛んだったらなぁ……。

 こんなときも神様として

 ちから不足なのが恨めしいも~」


傾き出した日を見上げながら神様はぼやいた。

東側には牛神様の街より大きな街があるが、

間に山があり行き来が大変なので、

その街との貿易はそこそこにとどまっている。


それ以外の方向にはひたすら草原や丘が広がり、

さらにその向こうは森で今のところ街はないらしい。


「ないものねだりしてもしょうがないも~。

 でも今ないのは体力……」


少ない店舗数でそこまで散らばった場所にない

書店めぐりをしただけでも、

今の神様はかなりの疲れを感じていた。

神殿に帰るにはしばらく休憩がほしいと体が感じている。


「あのー、この街の牛神様でございますかー?」


すると神様の顔に女の子の影が差した。

この世界では皆平等といっても、

神様を見下ろすのは少しためらいがあるのか

やや斜めから声がかかる。


「もぉ――」


「あっ、急に起き上がらないほうがいいですよー。

 足とかつっちゃったりするのでー」


神様はすぐに起き上がろうとしたが、

声の主は細いが力強い手で神様の両肩を押させた。

続けて教えるように言う。


芝生に寝かされた神様は、

隣でしゃがむ声の主を改めて見つめた。


体型は細く小柄だが、

健康的でキレイに見せようとして整えられたように見える。


動きやすそうなパーカーに下はスパッツ。

スラリとしているが簡単に折れない、

今の神様からは魅力的な足が見える。


そして銀のショートヘアからぴょこっとでる細い耳があった。

神様はそんな女の子を見て思い出す。


「さっき本屋で小説を見てた」


「はーい。

 西の森から来たエルフのレッツと申しまーす。

 気軽にレッちゃんって読んでくださいね」


夕日に負けない眩しい笑顔でレッちゃんは名乗った。

神様は少し首をかしげる。


「あれ、この街から西は誰も住んでないんじゃ?」


「まーまー、

 レッちゃんのことよりも、神様のことです」


レッちゃんはそう言って神様の耳元に顔を近づけて、

「神様、ダイエットしたいんですか?」


「もぉ!?」


思わず大きな声をあげて、

体がビクッとした勢いのまま腰を上げた。

どうしてそれを知ってるの?

そう思う神様に対して、

レッちゃんは思った通りだとニヤニヤして見つめてくる。


「他のひとに秘密にしたいかなって思ってー、

 こっそり聞いたんですよー。

 驚かせちゃってごめんなさーい」


「もぉ、恥ずかしいから神官のアーリィ以外には

 秘密にしたかったのに」


早速ばれちゃったと、

神様は目線を落として小さく言った。

それを聞いたレッちゃんはさらに小さな声でつぶやく。


「神官さんの名前、アーリィって言うんですね」

「それがどうしたもぉ?」


「ううんー、

 覚えておこうって思っただけですよー。

 それよりも神様のお悩みなんですけどー、

 レッちゃんが教えましょーか?」


「教えるってダイエ――運動のことかもぉ?」


神様はまた思わず言ってしまいそうになるが、なんとか言い直した。レッちゃんは神様の言いたいことは分かっているといったニヨニヨした笑みを見せる。


「レッちゃん、こう見えても

 運動インストラクター

 っていうお仕事をしてるんですよー。

 運動を教えるのはもちろん、

 そのひとにあった運動メニューをプランニングもしちゃいまーす」


レッちゃんは遊びに誘うような言い方で神様に説明した。

聞き慣れない言葉は多かったが、

神様は救世主と出会ったかのように目を輝かせる。


「も~! ぜひともお願いしたい……もぉ」


テンション高く返事をした神様だったが、

すぐにしぼむように声を小さくした。

レッちゃんは悩みを聞いてくれるように

神様の顔を覗き込む。


「ダイエットのこと、

 アーリィはともかく、

 街のひとたちには知られたくないも~」


「もちろん秘密厳守ですよー。

 やぶったらレッちゃんをえっちなことさせるお店に

 売り飛ばしちゃってくださーい」


「わたしの街じゃそんなことできないも~!」


神様はレッちゃんのは恥ずかしい例えに、

顔を真っ赤にして声を上げた。


えっちなことをするお店は牛神様の街にもちゃんとある。

もちろん営業には許可が必要で、

レッちゃんはそんなことも分かった上でからかっていそうな、

ニチャニチャした顔をする。


「知ってますよー。

 神様のご加護のおかげで、

 人さらいはできないんですよねー。

 ですけどー、冗談でもこれくらいは覚悟してるってお話でーす」


「……レッちゃんがそれほど言うなら、

 お願いしたいも~。

 あと、アーリィがいいって言ってくれたらになるけど」


「はいー!

 じゃーさっそく、

 神官さんにご挨拶しにいきましょうか。

 レッちゃんも神官さんに会ってみたかったですしー」


「な、なんでアーリィにあってみたいもぉ!?」


「だってー、

 神官って特別な素質を持ったひとだけがなれるんですよー。

 しかもしかもそれが若いヒューマンの男性でー、

 頭も良くて仕事がいっぱいできるなんて、

 聞いただけでみんな気になるじゃないですかー?」


「……確かに、アーリィは仕事ができるからか、

 よくいろんなひとに声をかけられるもぉ」


神様は複雑な顔をしてレッちゃんの言うことを認めた。

自分の神官が優秀な存在であることは、

神様として誇らしいことだ。なのに、


(よくわからないけど、

 レッちゃんの言い方はいやらしい気がするも~。

 でもこういうことはアーリィにちゃんと話さないと、

 怒られるし……)


どうしても迷っていた。

ダイエットをしたくないわけじゃない。


ダイエットをしないとアーリィに嫌われるかもしれないから。

でもそれ以上に変な感じがして、

それを説明できず、神様はもじもじする。


「大丈夫ですよ。

 レッちゃんがちゃーんと話ますからー」


レッちゃんは神様の手を取って引いた。

スラッとした見かけから信じられないほど力強く、

太ったと思っている神様を軽々と立ち上がらせる。


「さ、行きましょう。

 レッちゃんに神官さんを紹介してくださーい」


レッちゃんは好きな男の子と

デートをするかのようなテンションで、

神様を神殿に引いていった。

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