13.「夢十夜」

 この時庄太郎はふと気がついて、向うを見ると、はるかの青草原の尽きるあたりから幾万匹か数え切れぬ豚が、群をなして一直線に、この絶壁の上に立っている庄太郎を目懸けて鼻を鳴らしてくる。庄太郎は心から恐縮した。けれども仕方がないから、近寄ってくる豚の鼻頭を、一つ一つ丁寧に檳榔樹びんろうじゅの洋杖で打っていた。不思議な事に洋杖が鼻へ触りさえすれば豚はころりと谷の底へ落ちて行く。覗いて見ると底の見えない絶壁を、逆さになった豚が行列して落ちて行く。自分がこのくらい多くの豚を谷へ落したかと思うと、庄太郎は我ながら怖くなった。けれども豚は続々くる。黒雲に足が生えて、青草を踏み分けるような勢いで無尽蔵に鼻を鳴らしてくる。

 庄太郎は必死の勇をふるって、豚の鼻頭を七日なのか六晩むばん叩いた。けれども、とうとう精根が尽きて、手が牛酪バターのように弱って、しまいに身体からだ全体が牛酪となり、すっかり豚に舐められてしまった。









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