8.「金の斧 銀の斧」
「お前が落としたのは、この金のバターか、それとも銀色の包み紙か?」
神様から問いかけられて、木こりは何となく嫌な予感がしました。
(これは引っかけ問題ではないか?)
そこで頓智を働かせて、
「いいえ、私が落としたのは雪印の紙の箱だけでございます」
と、あえて別の選択肢を作り、しかも正直者をアピールするためにグレードを落として回答しました。大学時代はクイズ研究会に所属し、テレビのクイズ番組にだって出演したことのある経験が生かされたのでした。
「正解です。正解者にはWチャンス問題にチャレンジするか、または景品の雪印のバターを一年分のみゲットして留まるか、いずれかを選ぶ権利があります」
「では、一年分の方で」
「よろしいですか? Wチャンスで正解すれば景品は2倍になりますが?」
テレビ番組ではないので、挑戦したり盛り上げたりする義理も義務もまったくないのでした。
それに、ここで欲張って次の罠に引っかかってからでは遅いのです。Wチャンス問題の難易度すらはっきりしない状況なので、避けて通るのが無難なのでした。
「結構です」
神様はがっかりしたような表情を見せましたが、それでも無理に笑顔を作って、
「また挑戦してくださいね!」
と、木こりの背中に声をかけるのがやっとでした。
しばらくすると次のカモが通りがかったので気を取り直し、また水面から姿を現しました。
「お前が落としたのは、この金のバターか、それとも銀色の包み紙か?」
欲張りな男は、ここぞとばかりに目を輝かせて、
「金のバターです!」
と、何も落としていないのに答えました。
「この欲張り者め。お前はバターにでもなるがよい」
そう言い終わらないうちに、欲張りな男はバターと化していました。
一日に一度は誰かを嵌めてバターにしなければ、この神様はちょっと落ち着かないのでした。
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