第10話 フレイムグリズリー

 レッドベアを討伐しに俺達はティモワールの付近の集落ではない北側のほうの森を探索していた。この森は魔物が多く潜んでおり、すでにゴブリンを何匹か見つけていた。だが、目当てのレッドベアがなかなか見当たらない。


「見つからないな」

「さすがに夜になるのはまずいからここらへんで引き返したほうがいいんじゃないか」

「そうでもないと思います。レッドベアは夜に活動するので夜に出歩いた方が遭遇する確率が高くなります」

「夜間の戦いか」

「こういうことだから俺がついてきたのさ。魔物の習性はなり立ての冒険者だと掴みづらい。それで命を落とす若者が多いんだよ」


 夕日が出ている。夜にはもうすぐなるのだろうが、夜間の戦いは父さんに訓練してもらったことがあるが他の面子は大丈夫だろうか。


「ああ、俺夜に戦ったことねえな。大丈夫かね」

「やっぱり戦ったことがない奴がいるか」

「何だよ。昼間はお前とも互角だろクリフ」


 ボッツがぽつりとつぶやいてそれに不安を覚える。夜と昼では視界が全く異なることをこいつは理解できているのだろうか。


「まあ、無理はするな、ボッツ」

「ちっ、俺も夜には戦ったことはねえけどよ。そんなにやばいもんなのか」


 そんな話をしながら探索を続け夜になった。静まり返る森の中、突然獣の咆哮が森中に鳴り響いた。


「これは、レッドベア?にしては声が大きい」

「フレイさん。あれはレッドベアではないんですか」

「あれは違う。レッドベアはもっと小さい鳴き声の筈だ」


 会話を遮るようにまた咆哮が森中に鳴り響く。さっきよりも近くなっている。


「相手はどこにいるのかちょっと見てくる」

「クリフ。大丈夫なのか」

「気配を隠していけば大丈夫なはずさアルマ」


 俺はそうアルマに言い、音の聞こえた方向に隠れながら走っていく。数ある木々を通り抜けた先に焼け野原があった。その中心で方向を上げる熊型の魔物。それは毛に炎を纏っており巨体で木一個分の身長くらいはあった。その横では焦げたレッドベアの死骸が何個もあった。


「この魔物は一体」

「グガー」


 気づかれてはいない。だが、早急に皆の元へと戻るべく森林を駆けた。俺は魔物に詳しくないが、ネルなら何か知っているかもしれない。後ろ側では熊型の炎を纏った魔物が森を燃やして暴れている。あれは放っておくとまずい気がした。そして、5分くらい後、元いた仲間たちの場所へと戻る。


「クリフ。何がいたんだ」

「フレイさん炎を纏った一本の木くらいの大きさの熊の魔物が奥にいました。そのそばにはレッドベアの死体があってそいつがいるところの周りは焼け野原にされてました」

「フレイムグリズリーですか。今の私達では対処できますかね」

「ネル。その魔物は俺達で何とか出来るの?」

「普通ならゴールドランクの依頼ですね。多分対処できないと思います。クリフ君の暴走した状態かアルマさんだったらできるかもしれないですが」

「分かった。俺とアルマで行動するから。ネルたちは逃げていてくれ」

「あん、俺が逃げるとでも思うかクリフ。お前が暴走状態になってからどうなったのかは知らねえが仲間を置いて逃げはしねえぜ」

「私ならそいつを倒せるのか。ならクリフはいい。私が行く」

「俺もあの暴走した時からあの力を試してはいるんだアルマ。お前一人で大丈夫だとは思えない」

「それはクリフも同じだろう」

「おいおい。俺等も連れていけ。パーティ仲間引きおいて何勝手に一人で戦おうとしてやがる。俺等は仲間同士協力し合っての襲撃之反逆レイドレジスタンスだろうが。お互いに協力し合うって約束しただろ」


 ボッツの言葉にはっとするが、それでボッツ達に戦わせることはきついのではないかと思ってしまう。


「何も、俺達は戦わなくってもやれることはやるからよ」

「分かった。みんなで行こう」

「そうだ。クリフ。ネルの知識も役には立つと思うし、俺達全員でこの難関を突破しようぜ」

「私の知識が役に立つかは分かりませんけどフレイムグリズリーに関する知識はあるんで何なりと質問してください」

「クリフ。お前も戦うのなら私の後ろで戦え。お前が傷つくのを見たくない」

「傷なんかつかないさ。それよりアルマの方こそ気を付けてね」

「お前ら行くのか......正気か。まあいい俺もついて行ってやる」

「ああん。正気だよ。行くぞ。まずは急いで作戦を立てようぜ」


 ボッツがボサボサの黒髪の頭を掻きながら仕切る。フレイさんも渋々だがついて行ってくれるようだ。レッドベアからフレイムグリズリーへと標的が変わったが、この面子でやり切って見せようと思い、俺等は急いでどう攻めるか考えるのだった。

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