第2話 事新しい朝
西暦二千三十五年、第三次世界大戦が勃発した。
それは、人類が自ら築き上げた英知と傲慢が、ついに臨界点を越えた瞬間だった。
先進各国が競うように開発していた衛星兵器、そして数多の核兵器が一斉に解き放たれた。まるで神の怒りを買ったかのように地上は紅蓮の炎に包まれ空は鉛色に染まり生命はわずか七日間で滅びの淵へと追いやられた。
だが、その終末の只中で人類はある「光景」を目の当たりにすることとなる。それは滅びゆく世界の中で確かに刻まれた、忘れえぬ記憶。今なお語り継がれる、その逸話が静かに息づいている。
『…… その
その光を仰ぎ見し人々は悟った。これこそ、主の御言葉なり。
『悔い改めよ』と、神は語られ給うたのである。 ……』
この未曾有の大戦により人類は人口の約99%以上を失う。
三千万人を切った頃から混沌の時代へと突入し滅亡の道を進み始めた。
疫病の蔓延、地球規模の大地震、環境破壊が重なりさらに人口は激減。
さらに人々は暴力、略奪、殺人、凌辱を繰り返し弱者から順に死んでいった。
大戦から約五十年が経過し人類の人口はついに一万人を切る。核兵器や衛星兵器による二次被害が比較的少なかった「元日本」の地に、生き残った人類は次第に集結していった。
そんな絶望の中、十七人の才能ある若者たちが現れる。
彼らは元日本の『
この発見を皮切りに技術は急速に発展していった。
やがて地下一千キロメートル付近のメソスフェア内に巨大な空間が発見されると、そこに居住区を含むさまざまな施設を建設し地下都市が築かれた。さらなる研究と技術革新により土壌や水、大気の浄化も進み地上での生活も再び可能となった。
この地球再生の時代は『
そして地球を救った十七人の若者たちは『
そして大戦から百年後、地球上で唯一の国家が誕生した。その名も『ガイア』である。
* * *
『 GA歴八十七年 四月二日 八時十分 』
外はまだ春の冷気が残るが、台所の中だけは温もりに包まれていた。
そんな静寂を破るように、リビングの扉が勢いよく開いた。
「トカ婆ぁ! ごはん、ごはん!」
赤いリボンでツインテールに結んだ
どこか焦ったような足取りで、
「
鍋を見つめたまま、
「うん、寝不足だったから途中で引き返してきた……みたいです」
「みたい……変な子やなぁ?」
(でも、無事でよかったわ……)
そう思いながら、
「まあええわ。すぐ用意するから、はよ座りぃ」
「はいでーす!」
――そのときだった。
「おっとっ!」
ちょっとした足のもつれに、
「大丈夫かい?
低く、どこまでも優しい声。耳元にすぐ近く、温もりすら感じる距離。
(
自然と身体がその胸元へと傾いていく。
(チャンスです……触れ合えるチャンスです……。あぁぁぁぁ、今、わたし、
その一方で、表情はまるで無垢な妹のような微笑み――のはずが、気づけば頬は緩み、目元はとろけ、口元には明らかにニヤけた笑みが浮かんでいた。
(いけません……気持ち悪いくらいニヤついてます、わたし。でも幸せです……うふふ……)
そんな
「本当に
優しい声に頷きながらも、
『…… 先ほどから
中学時代に自作のAIで頭角を現し、高校は十七歳で卒業。その後、『
「ミコよぉ、お前らやっぱ双子だよな、キモいとこマジでそっくりだよ」
『…… 口の悪さが目立つこの青年は二男の
現在は『
幅広い知識を身につけ、それらを自在に組み合わせて応用できる才能を持ち、『応用力の天才』とも評されている。 ……』
「ほら
(名残惜しいけど……朝からこんなにくっつかれてしまうと、キリがないからね。まったく、相変わらずだなぁ、
妹への深い愛情を隠すことなく、その瞳はどこまでも優しかった。
「はいです、
その顔には
(あぁ……幸せです。朝からこんなご褒美……今日一日、もう何があっても乗り越えられます)
しかし、そんな浮かれた
「みーーーこーーーとーーーっ!!」
突如として背後から飛び込んできた声に、
(……この声、この気配……最悪です、また来ました)
振り向く間もなく、
「ふんっ……!」
瞬時に身体をひねり、右足を軸にするりと一歩踏み出す。
(……わたし、今すごい動きしたです)
振り向いたその顔は、喜びではなく怒りに満ちていた。目は鋭く吊り上がり、眉間には深い皺、怒りで頬がわずかに紅潮している。
「おい、イチぃ!! 触るなよ、マジでキモいんだよ、大っキライだっ!!」
怒鳴りつける声は鋭く、台所の空気が一気に凍るようだった。
(いったい何回言えば分かるんですか……! 朝から
その言葉を真正面から浴びた
まるで世界が崩れ落ちたかのような表情で、彼の頬はほんのりと赤く、目元には今にも涙が浮かびそうなほどだった。
(な……なんでじゃ……さっきの“いってらっしゃいませぇ~ん♡”との温度差がエグい……)
心の中で呟きながら、
その背中は、どこか哀愁すら漂っていた。
リビングを出ようとドアに手をかけた
小さくため息をつきながら、彼はふと振り返る。
「こら、
その一言に、
表情は一瞬でとろけ、頬はほんのりと赤く染まり、目元は潤んでいく。
「は……はいです、
まるで愛の告白を受けた乙女のように、
(
「
その声音はやわらかだが、芯のある兄としての指導が感じられる。
「はっ!
だが、彼の心の内には波立つ感情があった。ちらりと横目で
(……
そんなふたりの様子に、呆れたようなため息が部屋に響いた。
「まったく……お前らは……」
「おい兄貴、さっさと行けよ。時間ねーだろが」
口調はぶっきらぼうだが、内容は的確だ。
兄弟の朝の儀式とも言えるこのやり取りには、もう慣れきっている。
「悪いね、
軽やかに微笑むと、彼は背を向けてリビングを後にした。扉が音もなく閉まる。
その瞬間、
両手は胸の上、
「……あぁ、
夢見るような声と陶酔した瞳。彼女の頭の中では、すでに花が舞い、音楽が流れているに違いない。
その隣で、
「……むぅ……
その声は小さく、誰にも届かない。しかし
* * *
ひと騒動の余韻も冷めぬまま、
八人掛けの大きなダイニングテーブルには炊き立ての白米と味噌汁、焼き魚に小鉢の煮物が並び、香ばしい香りが部屋を満たしている。
先ほどの抱きつき未遂事件など、なかったかのように。
(ふぅ……やっと落ち着けたです。
一方、
「……しかしよ、
箸を動かしながらジト目を向ける
それは呆れにも似た、しかし長年の“兄弟あるある”としての温かみすら感じる突っ込みだった。
すると、それまでしょんぼりしていた
「それは“セット”でござるゆえ!」
その力強い声に、
「……セットぉ? てか、切り替え早すぎんだろ、お前」
苦笑を漏らしながらも、内心では(こいつ、ほんっとブレねぇな……)と感心している。
「よろしゅうござるか、
その語り口はもはや武士というより詩人。いや、求愛を捧げる騎士にも似ていた。
「……いや、そこでバレるっつってんだろ」
すかさず突っ込む
「されど、それこそが儀式! 呼びしその名は、己が魂の咆哮にてあり、愛の始まりにてあり……その後、全身全霊をもって
真顔で言い切る
「はぁ~……もうさ、ミコのことになるとお前完全に壊れるよな」
「はっ! 申し訳ござらぬ、
一方の
(いちいち反応してたらご飯が冷めます……それに、今は
本当に聞こえていないのか、あえて無視しているのか、それは本人にしか分からない。
だが、表情は一貫して真剣そのものだった。
(……ミコ、お前もだいぶ強くなったな)
朝の光が差し込む
* * *
「ところでよ、ミコ。それ……お前のペッポッドだろ?」
「そうです、可愛いでしょ?」
彼女の隣――空中には、丸っこいクマのようなフォルムのペッポッドが静かに浮かんでいた。長い耳がふわりと揺れ、ゆっくりと滑るように
(……すげーな、なんだあれ。顔はクマっぽいけど、耳がやたら長ぇし。選んだの、お袋か……)
「そっ、そうだな。可愛いと思うぞ。で、名前はつけたんだろ?」
「名前です? もちのろん! つけましたよぉぉ〜……聞きたいです?」
(うわ、きたよこの感じ。絶対面倒くさいやつだ)
「あぁ、ぜひ教えてくれ」
「仕方ないですね。では、発表します……ドゥルルルルル……!」
自分で口でドラムロールをしながら、ほっぺを伸ばしたり、唇を尖らせたり、変な顔のオンパレード。
(……顔芸、どんだけ持ってんだよ)
「ジャァァァン……名前はぁぁぁぁぁ……!」
そして、右手を空高く掲げて高らかに宣言する。
「バクマです!!」
その瞬間、
「ご紹介にあずかりました。わたくし『バクマ』と申します。
バクマの低く穏やかな声が、室内に心地よく響く。その礼儀正しい佇まいに、一瞬、場の空気が凪いだ。
(……うわ、口調まで執事だし。名前は……やっぱそのセンスか)
「おぉぉ、可愛い名前じゃねぇか? なぁ、
「そ、そうでございますなっ!
やや慌てつつも、
「でしょ、でしょ! 名前考えるの、瞬殺でしたよ。すっごいでしょ?」
(……悩めよ。ちょっとは悩んでつけろよ)
「そうだな。すごいな……ミコは、すごい! かわいい!」
「へっ!」
(……ほんと、お前らは疲れるわ)
そんな
「そんなことよりミコ! 時間ねぇぞ、早く食え!」
「その通りにございますっ! 本日は入学式でござるゆえ!」
「ごちそうさまですっ! では、行ってくるですっ!」
立ち上がるやいなや、茶碗を丁寧に洗い場に置き、そのまま風のようにリビングを駆け抜けていく。
その後を、バクマが空中をすいっと滑るように追いかけた。身体は一切揺れず、無音で、静かに――だが凛とした存在感を残して。
「ま、待ってくだされぇぇぇ!
「ぶふっ!!」
口に残っていたご飯を盛大に噴き出す。
飛び散った白い飛沫は、完璧な放物線を描いて、真正面の
「うあっ!? てめぇ
「ぁぁ……大変申し訳ございませぬ、
顔を真っ青にして、ぺこぺこと頭を下げる
「……まず座れ。まだ残っているだろ。一口ずつ、落ち着いて食え」
「はっ……申し訳ござりませぬ……」
だがふと、手を止め、きょろきょろと周囲を見回した。
(……あれ?
いつもは台所に立ち、黙って全体を見守っているはずのあの人が、どこにもいなかった――。
* * *
春の朝、まだ冷気の残る山の空気は清々しく、木々の間から差し込む光が、道の斜面にまだらな模様を落としている。鳥のさえずりがどこか遠くで響き、小さな虫たちが目覚めの羽音を立て始めていた。
* * *
その背後――木立の影の中に、ひとつの影が潜んでいた。
ぴたりと動かず、ただ
「……なぜ、生きている……?」
低く、深い呟き。
その直後、影は輪郭を曖昧にしながら風へと溶け込むように、静かに姿を消した。
* * *
そんな異変にはまだ気づかず、
軽く汗ばむ額を手の甲で拭いながら、彼女は斜め上に浮かぶ相棒へ問いかける。
「バクマ、今は何時です?」
バクマは
「現在、八時四十分でございます。このままのペースで下山を続ければ、『
「ありがとうです」
本人もその自覚があるのか、心の中でふと自問する。
(……そういえば、わたし今朝、本当にランニングしてたんでしょうか……?)
起きた時にはすでに着替えて家を出ていて、気づけば山道を走っていた。
走っていた、というより――気がつけば、部屋に居た、という感覚。
(やっぱり、記憶があやふや……まぁ、遅刻しなければいいです)
そう思い直し、ペースを少しだけ上げたそのとき――
「
バクマの声が、いつもの優雅さを帯びながらも、明らかに緊迫した調子で響いた。
「なっ、何です!?」
「わっ……!」
倒れる――そう思った瞬間、
「ふうっ……危なっ……もう少しで転ぶところだったです。で?何です?バクマ」
その瞳には、珍しく緊張の色が宿っている。
「『妖魔』の反応を探知いたしました」
「……『妖魔』? ああ、トカ婆が”気ぃつけるんやで”って言ってた、アレ……です?」
山の木々がざわりと揺れ、どこかひやりとした空気が頬をかすめた。
(……まさか、本当に“出る”とは……)
心の奥で、ほんのわずかに不安が芽吹く。
けれどそのすぐ横で、バクマは空中にたゆたいながら、しっかりと
「反応は前方、『
静かな山の下り道に、緊張感が漂いはじめていた――。
そのときだった。
不意に突風が
体ごと持っていかれそうなほどの猛烈な風圧。木々が一斉に軋み、山肌の枯葉が巻き上がる。
「きゃああっ!」
「
バクマの声が鋭く響く。空中で素早く旋回すると、その小さな身体の周囲に淡い光の陣が幾重にも展開されていった。陣は瞬時に
その直後だった。
「
風の中に紛れて、どこからともなく声が響いた。声の主は見えない。だが、その直後に襲ってきたものは明確だった。
――斬撃。
空を裂くような鋭い風の刃が
だがそれは、バクマが張った結界に命中すると、甲高い音を立てて弾かれた。
「っ……な、なに、今の……」
(今の……『妖魔』? まさか、本当に、戦うことになるなんて……)
内臓が冷たくなるような感覚。心臓は早鐘のように鳴り、喉の奥が張りつく。
そんな
「
再び、声が木霊する。
今度は一度きりではなかった。風が吠えたかと思うと、複数の斬撃が波のように押し寄せてくる。
斜めから、上空から、足元から――あらゆる角度から襲いかかる風の刃。
バクマの結界はそのすべてを受け止め、硬質な音を連続して響かせた。
「……っ!」
(怖い……なにこれ、死ぬ……)
「
空中で急旋回していたバクマが警告を発する。
結界の表面には蜘蛛の巣状のヒビが広がっていた。ヒビは連撃のたびに音を立てて拡大し、崩壊の予兆を
「緊急通信、発信いたします!」
バクマは宙に浮いたまま、柔らかな身ぶりで空中に片手を差し出すと、そのまま静かに通信を開始した。表情は変わらぬまま、だがその声色には、どこか緊張感が滲んでいた。
バクマの結界は辛うじて持ち堪えているが、あと数発……もつかどうか。
(早く……誰か、来て……)
* * *
窓からは春の光が射し込み、外の小鳥の声が聞こえる。だが、その穏やかな空気を破るように、突如として
映し出されたのは、宙に浮かぶバクマの姿だった。その表情は変わらぬままだが、声には焦りの色が滲んでいる。
「
「どこだっ?」
その声音は冷静そのもので、しかし内心では血が逆流するような感覚を押し殺していた。
「現在位置は――『
バクマの声は丁寧でありながらも、必死に抑えた焦りがにじんでいる。
「
「はっ!」
(
家の扉を開け放つと、
その姿はもはや人間離れしており、木々を揺らす突風のように音を残さず山道を走り抜けていく。
その背を見送りながら、
「バクマ!
「承知いたしましたっ!
バクマの声は執事らしい口調を保ちながらも、平静ではいられないほど切迫していた。
(
* * *
「……もう、結界が……」
バクマが低く苦い声を漏らした。その直後、風のような一撃が
結界の膜に走っていた亀裂が、一気に崩壊する。
鋭い破裂音が
「っ……!」
次の瞬間には、斬撃が身体を裂くのではという恐怖が全身を貫いていた。
(……ここで、終わるんです? わたし……)
そのときだった。
地面を震わせるような重圧が周囲の空気を変えた。
「――『
その男の声は、獣じみた咆哮のように辺り一帯に響き渡った。
肩幅は異常なまでに広く、盛り上がった筋肉は衣服を内側から裂き、布が引きちぎれていく。
肌の色は変化し始め、光の加減ではなく明確に――鈍い金属を思わせる光沢を帯びていた。
その直後、またも風の斬撃が襲ってきた。
正面から直線的に、容赦なく男の胸部を狙って突き抜けるように迫る。
だが――
斬撃は男の肉体に接触した瞬間、何か硬いものにぶつかったように跳ね返された。
風の刃はすべて逸れ、砕け、消えていく。
男は微動だにしなかった。
(な……何……今の……この人、もしかして……)
すぐ横では、バクマがまだ空中にとどまり、静かに
小さな体を揺らさず、冷静な視線で敵の位置を探っていた。
「
バクマが低く囁く。
その声に、
前方には、斬撃を放っていた『妖魔』の姿が、木々の合間からうっすらと浮かび上がっていた。
オブジェのような影に、明らかに異質な風の膜を纏っている。
敵はひるむことなく、再び体勢を低くし、空気を巻き込んでいる。
だが――今、
妖魔はそれをも斬れると信じているのか、あるいは、自分の刃が折れると気づかぬままか。
――戦いの主導権は、静かに、しかし確実に移ろい始めていた。
* * *
「みーーーこーーーとーーー!」
そこに
「
「えっ?師匠?分っかりましたぁぁぁぁぁ、うぉぉぉぉぉぉ!」
叫びながら
そして、
(あれが『妖魔』?……えっ?
「いくぞっ!!」
「『
次の瞬間、
「ふぅぅ!手ごたえありですぞ。」
「ぐはぁぁぁぁぁ」
「手ごたえありじゃないっ!力が後ろに流れてるぞ
「……ちっ、『妖魔』め……逃げられたか……」
『
「あぁぁ、
* * *
未だ震えの残る体を抱えるようにして、
そんな
「
静かな声だった。けれど、その穏やかな響きが
「えっ……? ……終わったの?」
震える声で問い返す
「はい。残念ながら『妖魔』を完全に倒すには至りませんでしたが――追い払うことには成功いたしました」
「……もしかして、イチが……?」
「はい、
その言葉に、
「……そっか」
小さく呟き、
* * *
戦いが終わり、
「あっ! やっぱり、
「やぁ
そう言って満面の笑みを浮かべながら、上半身を誇らしげに張ってみせる。明るい口調の裏には、無事な
『…… 大胸筋をこれ見よがしにアピールしているこの
『
肌は少し明るめのアフリカ系の色合いで、ダークレッドの瞳が印象的なイケオジである。 ……』
「あっ……」
(な、なんでそんな格好してるんです……!)
照れと困惑が入り混じる中、
* * *
「十二歳の少女に大胸筋アピールは犯罪だぞ、
遅れて姿を現した
「ハッハッハッ! すまん、すまん、
「その発言もギリギリやべぇぞ! そんなことより
「
「それで、なんで『
「バカの攻撃が妖魔の後ろにあった大桜に直撃したんだよ」
「そうなんです! 敵を倒さずに『
すかさず
(……どうせ
心の奥底からこぼれたその声は、小さくて、けれど確かに、
* * *
「
ほっと息をついた
「膝、擦りむいてるです……」
赤く擦れた膝に、ほんの少し血がにじんでいる。
「どれ、『応急キット』持ってきたから見せてみろ」
「はいです……」
小さくうなずいた
「さてと、レヴィアタン!『応急キット』とデバイスリンク!」
「了解!……『応急キット』とリンクしました」
レヴィアタンが応答した。
「ねぇ、ヒサ兄のレヴィアタンって変形してロボになるんですよね?」
「あぁ、ロボになると地上を二足歩行できる。そもそも浮いてるから歩行機能いらねぇと思うんだが、まあ
「
「ほら、くっちゃべってねぇでさっさと始めるぞ」
「念のため、全身いっとくか……よしレヴィアタン。ミコにダメージスキャン、全身で開始!」
「了解! ダメージスキャン開始します」
レヴィアタンが
数秒後――
「
「おう」
「膝に軽い
表示された精神状態の数値に目を留めた
「ミコ、処置始めるぞ!」
気持ちを切り替えるように、
「処置開始」
その言葉に応じて『応急キット』が起動し、消毒薬と
「よしミコ、この薬飲め!」
「うっ! お水って無いです?」
口をすぼめて尋ねる
「ねぇよ。安心しろ、ミコの好きなイチゴ味にしといたから噛んで食え」
「ヒサ兄、ありがとう。大好きです!」
そう言って
その震えに気づいた
(怖かったんだな……でも、よく頑張ったよ)
胸の内でそう呟きながら、
* * *
その時、
(やべっ!、
とうとう
「どぅーしてだぁぁぁ、みごどぉぉぉ!敵を倒したのはお兄ちゃんだぞぉぉ」
突然、荒ぶる
「止まってください。
バクマの
「うるさいです、イチ!敵を倒さないで大桜を倒しても意味がありません。反省してください」
「……イチ、ありがとう」
その瞬間、
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