第12話
犬の投げた毒を塗った短刀を受けたがために柊が意識を失った翌日。スライム迷宮は通常営業に戻し、安口と里奈はギルド職員として動いている。
柊と茜はコボルトキングと戦った広間に来ていた。次の部屋への扉の上にはワーウルフ3/10と書かれている。
柊の武装は早業の短刀とダガー+2にレザーアーマー+1だ。頭には小型化されたヘッドカメラもある。
盾は壊されるのがオチと持つのをやめた。それならば短刀で受け流したほうがいい。
早業の短刀は安口が持ってきたものでギルド併設の武器屋では売っていない迷宮産だ。柊の力にも耐えられるだろうとの目論見で持たされているが調査も含まれているのは町はいない。
迷宮ギルドには武器屋、アイテム屋、飲食店、宿泊施設が併設されている。場所によっては治療を担当する寺社仏閣もある。
武器屋はボッタクル商店と呼ばれ、外で作られた武器が並んでいる他にわずかではあるが迷宮産の武器もおかれていた。主に探索者が持ち帰ってきた武具を強制的に買い上げ、それの一部を再販しているのだ。
ちなみに武器はギルドで預かる決まりになっている。迷宮を移動する場合はギルドに預けて運んでもらうのだ。全ては迷宮産の金属をすべて回収するためである。
「昨日の手合わせでいろいろ教えてもらえました」
「まぁ毒に気が付かなかったのは仕方がないがな。迷宮では毒持ちのモンスターも多いんだ」
柊はスライム迷宮しか知らいない。そしてスライムには毒の攻撃はない上に柊にも毒の認識がなかった。
ステータスに寄りかかる戦いが危険だと思い知らされたのだ。
「まぁ犬は忍者だ。師匠が手合わせさせたのは、別にあいつみたいな動きをしろってことじゃない」
「はい、わかってます」
「柊には柊の戦い方がある」
呪文を使える柊は忍者のように素早さに頼らなくても隙を作り隙をつける。圧倒的なステータスにものを言わせた攻撃もある。
だが、今まで戦った2体のモンスターは柊のステータスを上回っており、今回のワーウルフもそうであろう。
「ワーウルフはお前と同じヒットアンドアウェイの戦いをしてくると予想される。柊の上位互換的存在だ」
柊は黙って頷く。自身もそう感じているからだ。
「頼りないかもしれないが、いくつかアドバイスは出しとくぞ」
茜に言伝られた言葉を胸に、柊は鉄の扉に手をかける。
「行ってきます」
柊が腕に力を入れれば扉は軽く開く。視界に入るのは、見慣れた広間。石造りで作られたドーム状の部屋だ。
その中央にはやはりスライム状の青い物体。柊を認識したからか、盛り上がり人型を形成し始める。
「出てくるまでここで待ってるからな!」
そのセリフも二度目だな、と柊はむずがゆく、そして頼もしく聞いていた。自分の帰還を願っている人がいる。それだけで柊は前に進めた。
茜の声に背を押され柊は一歩を踏み出す。扉をくぐり、広間に入った柊の顔つきが変わる。
右手には早業の短刀。左手にはダガー+2。軽く数回ジャンプして体をほぐす。
広間の中央には、灰色の毛に包まれた狼男、ワーウルフがその赤い目で柊を睨んでいた。
「殺気って、感じられるもんなんだな」
ワーウルフから突き刺さるような圧力を柊は感じていた。強者のみが発し感ずるもの。そこの域に小指をかけた。
『ガギャァァァァァァ!!』
ワーウルフが牙をむき出しにして吠えた。柊の体に痺れるような痛みが走る。柊は短刀を構えた。
「
ワーウルフ(変異種)
HP 500
ST 250
IQ 40
PI 40
VT 100
AG 250
LK 5
対する柊のステータス。
職業 スライムイーター
レベル --
HP 590
ST 151
IQ 110
PI 110
VT 147
AG 180
LK 20
「やっぱり俺の上位互換か。上等。茜さんが待ってるんだよ!」
柊はワーウルフに向かい駆けた。早業の短刀を握りしめたその瞬間。
『
ワーウルフが呪文を唱えた。柊の胸に激痛が走り、足をもつらせて床を転がった。胸の痛みで息ができず柊は胸を掻きむしりながら転がりワーウルフから離れていく。
「………ガハッ」
呪文を
ワーウルフはその鋭い爪を光らせてこちらに向かって駆けていた。
「くそっ、
柊が唱えた呪文はワーウフルに襲い掛かり彼を麻痺させた。物理法則に従って、動けなくなったワーウルフの体は床を削るように滑る。
「俺よりIQが低い分呪文も通りやすいはず」
茜からの助言の一つだ。
柊は
ワーウルフは柊以上にSTとAGに特化している。上位互換ではあるが明確な弱点もある。勝つためにはそこをつくしかない。
ステータスの差は覆せる。
これも茜の助言だ。いかな強大なhpを誇っても首を跳ねれば即死する。柊はこの言葉を胸に短刀を握る手に力をこめた。
間合いにまで転がってきたワーウルフに柊は短刀を突き立てる。刃が刺さる直前で麻痺が解けたワーウルフはすぐさま転がり逃げたが柊の短刀は彼の右腕を深々と切り裂いた。
『ギュアァッァア!』
手負いにされ怒りで燃える瞳を向けてくるワーウルフ。柊は油断なく構える。AGで負けているためカウンター狙いだ。だがあまり離れているとまた
『
ワーウルフが唱えた呪文で彼の傷が癒えていく。
「
柊は
「攻撃呪文で削っても回復される。あいつの呪文回数がわからない」
そんな考えを見透かしたかのようにワーウルフは突っ込んでくる。伸びてくる爪を避け短刀を振るい腕を斬り裂いた。大量の血が広間の床に飛び散った。
柊は短刀から伝わる感触が軽いことに気が付いた。コボルトキングのような抵抗がない。
「割と紙装甲だな。人のことは言えないけど」
防具をつけないモンスターは皮膚や体毛がその代わりだ。コボルトキングは固いうえに呪文で装甲を増してきた。だがワーウルフはここでも柊の上位互換で、装甲は薄いようだ。
斬られたワーウルフが怒りの咆哮をした。
「真正面からの斬り合いだな。
柊は体に障壁を纏う呪文を唱え、ワーウルフに斬りかかった。短刀と爪がぶつかり合い硬質な音を響かせる。
ワーウルフの爪が柊の肩に刺さるがレザーアーマーで止まった。お返しとばかりに短刀をワーウルフの腹に突き刺す。
『グギャァァァァ!』
ワーウルフが間合いを取るためにバックステップする。
「逃がすか!」
『
追い打ちをかける柊に対しワーウルフは
だが柊はその冷気に突入しワーウルフの影を踏む。
「こんなんじゃ俺は止まれないんだよォォ!」
冷気で体が凍る中、呪文を唱えて隙ができたワーウルフの脇に短刀をねじ込む。ワーウルフの口から血が溢れる。
『ガッ、ガァァァァァ』
口から血を吐きながらワーウルフはヒイラギの左腕に噛みついた。万力のような圧力が腕にかかり柊の顔が歪む。筋肉がつぶれる音が耳に入った。
「この、これで、死んどけぇ!
ワーウルフに突き刺した短刀の先から炎が漏れ出し、内臓を燃やしてゆく。と同時に柊の左腕が喰いちぎられた。
『ギャァァァ』
「がぁぁぁあ!」
ふたりは同時に悲鳴を上げた。だが諦めていないのは柊だ。
待っている人がいる。
その人を思うと力が湧いてくる。
「くたばれぇぇぇ!」
柊は腹にさしてある短刀を力の限り上に向けて斬り裂いた。腹から胸に、そして首にまで達し、ワーウルフの首を跳ねた。
断末魔もなく崩れ落ちるワーウルフだったもの。床に落ちるのはべしゃりとしたスライム状の何かと赤い核。
柊は腕から吐き出される大量の地にきお失いそうになるが、無理やり屈み、喰いちぎられた左腕を拾った。
左腕をもとの形に添え呪文を唱える。
『……
柊は気を失う前に
「服が血だらけで袖もなくなっちゃった。また茜さんに心配かけちゃうな」
3度目になると気が抜けてくるのか、柊は足取りも軽く核に向かい拾い上げる。これを食べるのは茜の目の前でと柊は決めていた。
自分が強くなるところを見てほしい、という無意識の感情からだが。
入ってきた扉に戻り、開け放てば心配そうな顔の茜がそこにいる。柊の顔は自然と笑顔になる。
「無事に戻りました」
「ち、血だらけで袖がなくなってて無事はねえだろうがぁ!」
罵声のように叫びながら、茜は柊を抱きしめた。
職業 スライムイーター
レベル --
HP 870(+260)
ST 286(+135)
IQ 150(+40)
PI 150(+40)
VT 197(+50)
AG 450(+270)
LK 20
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