第8話
『グギャァァァ!』
炎に包まれたコボルトキングたちが悲鳴を上げる。炎の中のコボルトが崩れ落ちるのを柊は見た。
「コボルトはモンススターの中じゃ雑魚扱いだけど、召喚されたコボルトがそれとは思えない。でも
通常のコボルトであれば
『グゥァァァァァ!』
炎が消え去った後、唯一立っていたコボルトキングが柊に殺意を向ける。2本の剣を振りかざし突貫してきた。柊は左に逃げつつ迫る剣をショートソードで斬りはらう。引き戻す剣でコボルトキングの腕を斬る。体毛が硬く斬った感触が浅い。
「硬い! でも動きはそこまで速くない」
柊はコボルトキングとの距離を保ちながら小さな傷を与えていく。2本の剣でも捕まらない柊にコボルトキングは苛立ちに吠えた。
『ワオォォォォォォン!』
遠吠えをしたコボルトキングの周囲にはまた複数のコボルトが迫り上がってくる。
「こいつの召喚で呪文の回数が減るのはヤバい気がする」
呪文は回数制限があり、
「
炎の柱がコボルトキングたちを焦がす。炎の中でコボルトが崩れる中、大きな影が炎から飛び出してきた。
「同じ手は食わないってか!」
飛び出してきたコボルトキングが剣をふるう。柊は盾で流そうとしたが予想以上の力で盾を破壊され腕もあらぬ方向へ曲がった。
「があぁぁぁ、なんて馬鹿力だ!
柊は斬られた勢いを利用してコボルトキングから距離を取り回復呪文を唱えた。見かけ腕の損傷はなくなったが激しい痛みは消えていない。
まともに食らうと致命傷だ。
柊の背には冷たい汗が流れる。壊れた盾は投げ捨てた。
コボルトキングも無傷ではない。体のあちこちから煙が出ている。ダメージはお互いに大きそうだった。
呪文は使用者と対象者のIQに影響される。コボルトキングのIQは柊の半分程度だ。その分、与えるダメージが上がっているのだ。
「
柊は
『ガゥガアガゥァァ!』
コボルトキングは激高した。ちょこまかと逃げては呪文を使ってくる柊に激怒したのだ。剣を大きく振りかざして襲い掛かる。
だがモーションが大きくなった分、柊も避けやすくなった。剣が振られるたびにその持ち手を狙って斬っていく。一撃必殺の攻撃を避けながら柊はカウンターで応じた。じりじりとだがコボルトキングにダメージが蓄積されていく。
『
コボルトキングが呪文を唱えた。コボルトキングの表面の空気が陽炎のように揺らぐ。障壁をまとい、防御を上げたのだ。
「ウソだろ、こいつも呪文を使うのかよ! しかも防御を上げやがった!」
柊の攻撃が通じにくくなるか、それはコボルトキングが追い詰められたことも意味する。これ以上のダメージを許容ができなくなっているのだ。
『ワオォォォォォォン!』
「またかよ!
召喚されたら即
『グゥァァァァァ!』
コボルトキングは剣を振りかざし炎を突破してきた。召喚した仲間は捨て駒の様だ。
「ち、折れても使えるんだ!」
柊は間合いを逆に詰め、腕をかいくぐり折れたショートソードをコボルトキングの喉元に押し当てて力の限り横に振り切った。
手ごたえはあったが、柊はコボルトキングの盾に殴り飛ばされた。地面を数回バウンドし、広間の端に転がった。
『グゥァ、グァァァ!』
首から血を吹き出すコボルトキング。だがコボルトキングは倒れている柊に向かいよろよろと歩き出した。柊はせき込み、血を吐いた。腹の中が痛む。
かすむ視界に近づいてくるコボルトキングを認めた。
回復よりもこれで仕留める!
激痛を押して柊は立ち上がり、コボルトキングに向かって駆ける。
「
『グギャァァl!』
コボルトキングが最後の
「とどめだこの犬野郎!」
柊は血を吐きながらコボルトキングの首に剣を突き刺した。首を貫通し、床に剣先が刺さる。
『ゴゴボゥグリュゥ…・・・』
コボルトキングの絶命する音を聞きながら、柊も背中から倒れた。コボルトキングの体が崩れ、スライム状になり床に溶けていった。ソフトボールほどの赤い核だけがそこに残された。
「イデェ、腹が、焼ける……
呪文を唱えた柊の身体が鈍く光り、剣で刺された腹からの出血が止まった。だが激痛はそのままだ。
「もう一回、
再度の中回復で立てるまでには回復した。柊はよろけながらコボルトキングの核に歩み寄る。膝から崩れるように床に座り、核を手に取った。
「死にかけたけど、勝ったあぁぁ!!」
勝利の雄たけびを上げた柊だが痛みに顔を歪ませる。
「限界まで中回復をかけておこう」
残り3回の
「無事に帰りました」
「全然無事じゃねえぞ! 服は血だらけだし顔もだぞ! 盾はどうした、剣もないぞ!」
「壊されました」
「怪我は? 大丈夫か? 痛いとこはあるか?」
「回復呪文を使ったので多少痛みが残ってる程度です」
「じゃ、じゃあこれを飲め」
茜がバッグから薬を取り出し柊に握らせた。柊も言われるままに飲み干す。
「で、帰ってきたってことは、勝ったってことでいいんだな?」
「えぇ、これがコボルトキングの核です」
柊が持っていた核を見せた。
「これが核か……」
茜は柊のヘッドカメラをとろうとしたが壊れているの見てしまい、自分のスマホを取り出して動画を撮り始めた。
「茜さんも食べてみます?」
「あたしがか? あほなこと言ってるんじゃないぞ柊!」
「物は試しですよ」
柊は核を少しだけ齧り、その破片を茜に渡した。渡す方も渡す方だが受け取る方も受け取る方である。
「割と甘いんですよ」
柊は見本とばかりに核にかぶりつく。口の中にはほんのりとした甘味が広がる。例えれば、味が薄い洋梨だ。
「……毒じゃないよな。毒消しは、あるか」
ふーっと大きく息を吐いた茜は核の破片を口に放り込んだ。咀嚼する茜の顔がどんどん険しくなる。涙目で餌付きながらもなんとか嚥下し、盛大にせき込んだ。
「便所の匂いを凝縮した味がしたぞ」
「……吐き出さないでよく食べましたね」
「柊がくれたものだからな……しかも口移しと同じだ」
茜はぼそぼそと小声で何かを言っていたが柊は核の最後のひと口を放り込んでいて聞こえなかった。
核を食べ終えた柊の体が熱くなり、仄かに光った。柊は目をつむり、静かに息を吐いた。
「これがスライムイーターの力か……」
茜が感嘆の声を上げる。今のところ日本では柊だけが持つ力だ。
「で、ステータスはどうなった?」
少年のようにわくわくを隠せない茜が急かす。
職業 スライムイーター
レベル --
HP 590(+320)
ST 151(+85)66
IQ 110(+40)
PI 110(+40)
VT 147(+80)
AG 180(+80)
LK 20
「……なんかありえない上がり方してますね」
「ずいぶん冷静だな柊少年?」
「とても我が身のこととは思えないので」
柊も驚いたのだが驚きすぎて冷めてしまったのである。
「あ、それとコボルトキングのステータスを見れたので、あとでメモして渡します」
「助かる。報告書に添えるが、もしかしたら柊の上がったステ―テスと関係があるかもしれないな」
「アイツの使ってきた呪文を覚えたので、それはありそうです」
「なんにせよ、帰ってきてくれてよかったよ」
茜はにかっと笑った。
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