第11話 sengoku51

 儂らは坑道の中を進んでいく。どういう原理か、道中にあるランプは付きっぱなしで道は明るく照らされている。鉱物を運ぶように線路まで整備されている。まるでここで鉱物を採取しろと言わんばかりに。


 儂らは慎重に進んでいた、しかしどこまで行っても敵と会敵せず気付いたら坑道を抜け、広い空間に出てしまった。その拓いた空間の壁にはいくつもの坑道が見受けられた。ここが最終地点か? そう思っていると穴の中からわらわらと敵対生物と思われるモンスターが出てきた。


 犬のような顔をして二足歩行で移動する、ゴブリンよりは大きく、オークよりは小さい、中学生くらいの背丈をしている。しかしその体は筋肉で盛り上がり、やわな攻撃は効きそうになかった。


 儂はこのまま囲まれてはまずいと皆に指示をだす。


「一旦引くぞ! 来た道を戻れ」

「その前に、私が援護します」


軍師賢者和子が魔法を唱える。


「水魔法 大津波」


 発声と共に、突如頭上に現れた水の奔流が地上にいた敵対生物に襲い掛かる。儂らは高台にいたので問題はないが、それ以下にいた敵は溺れ死ぬか圧殺されていた。


「……これ逃げる必要ないんじゃねええか?」

「一旦だ、一旦は下がろう」


 同じ高さかそれ以上にいた敵は未だ無傷だ。ここまで来た坑道にも横道があったかもしれないし油断は出来ない。


「多分あれはコボルトですね。私の知っているコボルトはもっと弱そうでしたけど」


 こんな時も冷静に記録を取り続ける鈴木隊員、一体彼は何のためにここまでしてくれるのであろう。「仕事ですよ」と彼は言う。しかし彼には他に意図があるように儂は思えて仕方がなかった。


 来た道を警戒しながら戻っていると、先程のコボルトがこちらに向かってきた。手にはスリリング、つるはし、ショートソード、かぎ爪などを付けている。あまり広くない坑道内で、一対一を強いられる。

 儂が前に出てコボルトと戦う。正直強さで言えばトレントの方が強かったように思う。剣聖剣豪になったせいか剣の切れ味も鋭さを増したように思う。今もこちらに攻撃を仕掛けてきたコボルトの片腕を切り落とし、心臓を一突きして倒す。しかしゴキブリかのように次々と後ろから湧いてくる。さすがに数が多すぎる。


 軍師賢者和子に範囲殲滅を頼むには狭い、暗殺者忍者徹には後方の警戒を頼んでいる。さすがに儂も疲れてきたというところに教皇枢機卿哲二の回復魔法が飛んでくる。


「体力気力回復」


 先程までの疲れが嘘のように元気になり、くる敵くる敵すべてを斬り伏せていく。そしてようやく入ってきた入口付近まで後退し終えると、コボルトたちが後ろを向いて帰っていった。

 山からは出てこない? つまり入ってきた敵を排除するのが役目? 何のためにだ。分からないことは分からない。ただ奥へと進むだけだ。


「お疲れさまでした。皆さん明日も早いでしょう。今日はここまでにしましょう」


 珍しく鈴木隊員が儂らに提案してきた。いつも影のように儂らに連れ従っていただけなのに。実際今日はここまでだ。再度山の中に挑む余裕もないし、かといって森はもう狩りつくしてある。


 儂らはダンジョンホームへと帰っていった。


「必ず、救い出して見せます」


 小さな声で鈴木隊員が何かを言っていたようだが耳が遠くなったせいでよく聞こえなかった。










 次の日、テレビをつけるとどこもかしこも特番が組まれていた。


『高齢者特例法の実情がmetubeにて公開され話題になっています。世間ではアトラクションゲームのように報道されていますが、実際は簡単な装備を持たされ危険なダンジョンに追いやられる高齢者、そして簡単に人を殺しうるモンスターとも呼べる存在がいます。そんな中で現在ダンジョン産の特産物の実用化に向けての研究が進んでいますが、このような非人道的な行為から生まれ出るものだとは私たちは驚きを隠せません』


 儂は他のチャンネルに変える


『sengoku51というアカウントから公開された動画には、実際にダンジョンへと探索している者たちへのインタビューや、殺人事件の実証動画、命がけで戦う高齢者たちの戦闘シーンが盛り込まれています。これに関して政府は沈黙を守っていますが、この動画がフェイクかどうか検証が進んでいます。すでに動画の再生数は1000万回を超え、海外でも大きな反響を生んでいるようです』


 そういえば今日は鈴木隊員の姿が見えない。欠勤とは珍しい。

 事の真相は置いておくとして、これで世論がいい方に傾くといいなと儂は思った。ここまでくれば嫌でも政府は動かざるを得ないだろう。これを黙殺出来るようならもう儂らは一生このダンジョンの中に取り残されてしまう。


「いくか」


 儂らはいつものように、何もなかったかのようにダンジョン探索へと向かっていく。山の手前まではいつも通りに、七十人近くの人間がトレントの木を運んでいく。この作業もあと何回やればいいのやら。


 儂はそんなことを考えながら、次の作戦を話す。


「前回は敗走したが、今回は戦ってみようと思う。敵は大して強くない。儂と徹が二手に分かれて攻撃する。和子は同じように下にいるコボルトの殲滅を、哲二は回復に専念しててくれ。自分たちの身は自分で守ってくれ」


 儂は簡単な作戦を皆に伝え、了解を得て坑道の中に入ってく。

 坑道に入ると、前回まではいなかったコボルトが闊歩している。それを一体一体斬り伏していく。極力体力は使わない、避けて一突き、避けて、一振り。段々と体に染みついてきた刀の扱いと体捌き、いくらコボルトが出てきたも負ける気はしない。

 いや体力は有限だから、いくらでもは言い過ぎか。


 そして儂らはまたあの拓けた空間へとたどり着く。前回と同じように湧いてくるコボルトたちに軍師賢者和子の魔法が突き刺さる。


「水魔法 大津波」


 ざばーんと水に押し流されるコボルトたち。しかし残った敵は儂らに向かって襲い掛かってくる。儂は教皇枢機卿啓二たちを守る様に刀を構える。暗殺者忍者徹は自由に動き回り敵を倒してもらう。

 目の前にコボルトが迫る。正中線に持っていた刀をわずかに傾け、敵の切っ先を逸らすとそのまま喉を突き刺す。そして蹴り飛ばす。致命傷を負った敵はそのうち絶命するだろう。


 飛来する石礫を首を傾けて躱し、一気に手前のコボルトたちに斬りかかる。順調だ。


「体力回復」


 教皇枢機卿哲二の回復が入る。

 これでまだまだ戦える。


「水魔法 霧の雨」


 軍師賢者和子の範囲魔法がコボルトたちに突き刺さる。


「忍法 霞の陣」


 暗殺者忍者徹が濃霧を生み出し、その一帯が包まれる。するとどさどさと何かが落ちる音が聞こえる。しばらくして霧が晴れた後には大量のコボルトの死体と佇む暗殺者忍者徹の姿があった。


 戦うこと数時間、儂らはコボルトの殲滅に成功した。教皇枢機卿哲二の回復魔法を受けながら今後の予定を話し合う。この先は何かがあるのか、それすらも分からない。そもそももういいのではないか、コボルトからは魔石以外に使えそうなものはなかった。


 そんな話をしていると、突如轟音と共に地面が揺れ、空間が歪みだした。儂らはお互いの安否を確認する間もなくその奔流に飲み込まれていった。


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