第9話 木はよく燃える

 ダンジョンの敵対生物はその日に倒すと一日は再出現しない。そしてその総量は倒せば倒すほど減っていく。これは毎日倒しているのでもしかしたら倒さない期間を置くと大量に出てくるようになるかもしれない。

 実際最初の自衛隊員とダンジョンに入ったときはものすごい数のゴブリンと相対したのだ。その仮説は多分間違っていないだろう。


 なのでダンジョンの手前から段々と敵を倒していき、今日も森の手前まで敵を殲滅する。ここまでは全員の共同作業だ。ここからは残った魔石と素材を回収していく仲間と、前に進む儂らで別れる。鈴木隊員は相変わらず付いてきてくれている。


 森の中は何が出るかは分からない。慎重に歩を進めていく。


「そういえば俺のスキルに「枢機卿」ってのが追加されたわ、全体的に効果が上昇したみたいだ」

「私も「賢者」が」

「……「忍者」」

「儂も「剣豪」だと」


 この謎のスキルというものは不思議なものだ。何かが儂らの体に作用しているのは分かる。しかし気味が悪い。

 まあ分からないものは他にもいっぱいあるのだ。今更気にしてもしょうがない。


「来るぞ!」


 教皇啓二の声に儂らが反応する。そこには木に擬態した敵対生物が枝を鞭のように振るってきていた。それを草原の馬の角から加工された刀で防ぎ、流れるように追撃を行う。

 葉がひらひらと舞い、ボトリと枝がその場に落ちる。


「GYAAAAAAAAAAA」


 物言わぬ木ではなく、何と言っているか分からない言葉で叫び声をあげる敵に、軍師和子の魔法が突き刺さる。


「炎魔法、日輪」


 真っ赤な輪で出来た炎が相手の木に向かって放出される。それは加速して、真ん中に収束していき、火の球となって炸裂した。

 ボン、という音と共に敵対生物の顔面らしきものが焼け焦げ、視界を失ったのかむやみやたらに枝を振り回している。そこに儂が攻撃を仕掛ける。


「一閃」


 ひび割れた木に斬撃を飛ばし、横に両断する。

 崩れ落ちた木は何も言葉を発しなくなった。


「奇襲には驚いたけど、それほど強くねえな」


 そう言いながら切り傷の付いた儂に回復魔法を掛ける教皇哲二。

 森の中の戦いは神経を使いそうだと思った。


 その後も敵対生物である木を、様々な方法で倒していく。教皇哲二による防御力低下や攻撃力上昇、拘束や俊敏低下、暗殺者徹による急所狙いの攻撃。木には小さな穴が存在し、そこをつくことで絶命させることが分かった。


 余裕があれば急所で、そうでなければ後衛の支援を受けながら儂が倒すといった感じで何十体の木を倒し続けた。鈴木隊員は木の一部をサンプルとして持ち帰り、何かに使えないか検討してもらうようにした。


 そうやって森の中で戦い続けていて三か月が経過した。ここに連れてこられて半年が経った。

 その間にまた三人老衰で亡くなった。人は減るばかりだ。一年もしたら補充されるのだろう、嫌な話だ。


 そして世間は年末、さすがに年末年始は休みを貰えた。外泊も認められ儂は半年ぶりに健吾たちのいる家に戻ることが出来た。


「おじいちゃん! 大丈夫? 元気だった?」

「おお、元気も元気! なんて言ったって儂は強いからな」

「父さん……」

「何をしけた顔をしている。お前がもっとしゃきっとしないからいかんのだぞ」


 暖かい家族に囲まれ休み、おせちを食べ、お年玉をあげ、孫と遊んで、英気を養っている日々はあっという間に過ぎていった。


「おじいちゃんもういっちゃうの?」

「ああ、まだ仕事が残っているからな。何心配するな、すぐ戻ってくるよ」

「父さん、俺今度のデモに参加するよ、それまで……頑張ってくれ」

「当たり前だ、絶対に帰ってくるさ」


 儂は家族に別れを済ますと、家の前に来ている政府の職員の車に乗りダンジョンホームへ向かう。一時の再会は儂に強く思い出させた。平和な日常、失い難い生活を。

 しかしこの休みはいいことばかりではなかったようだ。


「何か人数が少なくないか?」


 儂が先に来ていた教皇啓二に尋ねると衝撃的な言葉が返ってきた。


「ああ、自殺したらしいぞ」

「はあ!?」

「緊張の糸が切れたんだろうよ、非日常から日常に戻って思い出しちまったんだよ」


 確かに分からないでもない。儂は奥に進むことしか考えていないが、毎日の魔石取りに必死な仲間は苦しくてしかたなかっただろう。

 そこに平和な日常が帰ってきてしまう。もうこちらに戻りたくない。なら……と。馬鹿野郎! 政府の思惑に乗っかかってるんじゃないよ。あいつらはこの状況ですらほくそ笑んでいるだろう。


 でも光はある。デモは日に日に増加し、国際世論もついに動き出している。国連が介入するのも時間の問題ともいえる。しかしそんなものに確証はない。それにダンジョンの探索をしている時点で命がけなのだ。止まらない、これからも。


「儂たちは進むぞ」


 四人がコクリと頷く。森の中はもう十分だ。次の舞台は山の中だ。


 七十人強に減った仲間たちと共にダンジョンの探索へと向かう。

 もうゴブリンやオークは数体程度しか出なくなった。

 草原の敵対生物も大分数を減らしている。

 森の中も全員で進んでいく。奇襲を受けないように円形に陣を取り、慎重に行く。これは研究で分かったことだが、敵対生物の木はよく燃える。そして二酸化炭素が出ない。火力発電に非常に有用だと結果が出て、優先的に回収していくことになった。

 なので山に挑むまでは森の狩りを積極的に行い、残った仲間たちに運搬を頼むようにしている。


 そして今日から始めて山に挑む。

 近くで見ると木も生えていない禿山だ。そしてご丁寧に坑道のようなものが掘られている。こちらへこいということか?いいだろう行ってやろうじゃないか。


「いくぞ、皆」

「おう」


 教皇哲二の声が大きく響いた。

 

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