第4話 ダンジョンを進む高齢者

 次の日、同じく自衛隊員の人が付き添ってダンジョンへと入っていく。各々のスキルを理解したのか皆の目はぎらついている。


「昨日あれだけの量が出てきたので、今日も大量に来る可能性は低いです。ただし警戒は怠らないようにしてください」

「鈴木さん、今度敵対生物に出くわしたら儂らに任せてくれんかね」

「えっ、でも」

「一週間も待っていられんのですよ、力は試さねば意味がない」


 儂の後ろのみんなも頷いている。浅い層でも活躍しなければ家に帰ることも出来ないのだ。


「……分かりました。私は索敵のみということで」

「感謝します」


 鈴木隊員も上からの命令で仕方なくやっているのだろう。全員が全員高齢者に当たりが強いわけではない。


「っ! 来ます」


 そう鈴木隊員が指す先にゴブリンの群れがこちらに向かってきていた。昨日に比べれば少数だろう。儂が前に出ようとして哲二に止められた。


「なんだ? 哲二、儂を止めて」

「まあ見てろよ、後ろの奴らやる気だぜ」


 そう言われて後ろを見ると、警棒をパシパシと鳴らし今にも飛び出さんとする皆がいた。後ろは魔法でも打とうというのか、杖のように構えているものもいる。


「あいつらも自分のスキルを試したい、自分の身くらい守れるようにならないとな」


 確かに、つい自分たち優先で物事を考えすぎていたようだ。儂は一歩下がり、突撃してくるゴブリンと、後ろから走ってくる皆を待った。


「死にさらせぇえええええええ」


 おおよそ聞くことでないであろう絶叫と共に、ゴブリンと高齢者の戦いが始まった。警棒は剣のようにゴブリンを裂き、頭上からは炎が飛んでいく。前線では肉弾戦を行い、相手の何も出来ない後衛を魔法で削っていく。


 儂は不思議に思った。これほどのことが儂らに出来るのなら自衛隊はなぜ戦わないのか?


「鈴木さん、どうして自衛隊はスキルを使わないんだ?」

「私たちもこれほどの威力が出るなら使っていますよ、ですがこんな……まるで夢のようだ」


 ふむ、どうやら個人差があるようだな。儂らの中でも差があるのだ。数少ない自衛隊の中でいいスキルに恵まれなかった者が多いと言ったところか。


 前回は撤退を余儀なくされたゴブリンの群れ、小規模ながら殲滅に成功した。個人差はあるが、まだ元気なもの、肩で息をしている者もいる。

 戦闘不能となったものはいないようだ。

 ケガを負った物に何人かが近寄り回復している。いわゆるこれも魔法なのだろう。よく分からない原理で傷が塞がっていく。血はどうなのだろうか、幸い大きな怪我を負った者はいないので検証は出来ないな。


「それじゃあ鈴木さん、儂らは先に進むが、どうするかね」

「……同行させていただきます。記録も取りたいですし」


 そう言って鈴木隊員は手元から小さな情報端末を取り出す。恐らく映像として儂らの戦闘を記録として残そうということだろうか。そんなことをして何の意味があるのかは分からないが、ついてきてくれるというのならそれに従おう。

 鈴木隊員がヘルメットにその端末を付けて儂らは進んでいく。

 戦闘には儂らの四人パーティー、後ろにまだ余力のある仲間が続いていく。


 このダンジョンは石造りで出来ていて高さも横幅もかなりの広さを誇っている。そして入ってからずっと一本道だ。横道から奇襲されないことを考えるとありがたい通路だ。

 しばらく進んでいくと、三又に分かれた道が現れた。儂らは悩んだ。このまま一本づつ調べてもいいが、後ろから敵が来た場合は撤退が出来なくなる。とりあえず先程戦闘に参加した者たちをここで待機させ、儂ら四人が先頭に進んでいくこととなった。鈴木隊員も同行する。


 儂が先頭に立ち、敵からの攻撃に備える。

 その後ろの暗殺者徹、さらに後ろに軍師和子に教皇哲二を配置する。後ろの守りは哲二に任せている。

 右の道に入り、進んでいく。するとゴブリンが数体たむろしている。儂らには気づいていないようだ。儂は先手を取って攻撃を仕掛ける。


「縮地」


 足に力を込め、一瞬で間合いを詰める。相手のゴブリンはこちらを認識する間もなく首と胴が別れて絶命する。まだ残りが、と横を向くと暗殺者徹がゴブリンの心臓を貫いていた。

 まだ残っている数匹のゴブリンを難なく倒した儂らはそのまま道を進んでいく。

 すると開けた場所に出たなと思ったら青く生い茂った草、草原に出くわした。


「ダンジョンってのはなんでもありだな」

「儂も驚いた。見ろ、空まであるぞ」


 教皇哲二とそんな会話をしつつ、周囲を警戒する。敵対生物の存在は見受けられない。軍師和子によれば距離感から言ってどの道からでもここに到着するだろうとのこと。


 儂らは来た道を戻り、今度は左の道を進んでいく。敵は散発で出現するが、儂と暗殺者徹によって難なく倒されていく。まだこの程度の敵だから楽に済んでいるが、どのような強敵が急に出現するかも分からない。気を引き締めて探索を続ける。


 左の道も先程と同じく草原に出た。右の道との距離は分からないが、そう遠くもないだろうと思えた。儂らはまた来た道を戻り、今度は全員で真ん中の道を進んでいった。真ん中の道を進んでいくと中央に大人の人間くらいの大きさで豚の顔をした敵対生物が出現した。数は十。相手の力がどの程度か分からない。そう思っていると鈴木が銃で攻撃を開始した。


パパパパパと小気味よく打たれた銃だが、相手の皮膚を貫通する程度で表皮で止まっている。恐らく先程のゴブリンよりもかなり固いようだ。すると教皇哲二が魔法を唱える。


「防御力低下」


 哲二がそう唱えると、先程まで皮で止まっていた銃弾が貫通して豚に致命傷を与えることに成功した。


「哲二、そういうのがあるならもっと早く使ってもよかったんじゃないか?」

「これにも制限がある、そうほいほいつかえねぇよ。試しに使ってみないと本番じゃ危ないから試してみたんだよ。結果は上々ってとこだろ」

「すごいですね、哲二さん。これほど見事なデバフは見たことありません」


 デバフ? というのか。鈴木隊員はダンジョンのことに詳しい。きっと最前線で探索に駆り出されていたのだろう。教皇哲二の防御力低下はすべての豚に効いたようで、鈴木隊員の放つ銃弾で次々と倒されていく。空になったマガジンをリロードして打ち尽くすころには十体いた豚はすべて倒されていた。


「オークの殲滅を確認。これより周囲の警戒に移る」


 鈴木隊員が一人声を上げる。指差し確認と同じか、記録として残すためなのか、どちらかは分からないが意味のあることなのだろう。倒したオークを置いて儂らは真ん中の道を進んでいく。出たのはやはり草原だった。


「どの道も草原だったな、どうする? このまま進むか?」

「いえ、今回はここまでで十分です。帰りに魔石を回収したいですし、残っていれば素材も」


 そうそう、儂らの目的はこのダンジョンが何なのか見極める事。

 そしてこのダンジョンに深く潜り成果を上げる事、しかし魔石とは?


「魔石は仮称でダンジョンで敵対生物を倒すと出てくる謎の石です。生物がダンジョンに吸収されると魔石としてその場に残ります。敵対生物の体内に内包されているので死体から剥ぎ取ることも可能ですが、時間や効率を考えて今回はそのままにしています」


 そういえば前回ゴブリンを倒したところで鈴木隊員がゴミ拾いをしているかと思ったが、あれは魔石を回収していたということか。ふむ、これは比較的安全な手前のところで魔石を回収するものと、儂らのように中に進んでより大きな成果を得ようとするもので別れるといいだろう。


 果たしてこの魔石や敵対生物の素材が何に使えるかは科学者の方に任せるとして、早めに良い結果が得られると嬉しいんだがな。


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