第3話 パーティー結成

 初めてのダンジョン探索は大量の弾薬の消費と剣士田中の死という結果が残った。遺体はなんとか運んだ。あのまま放置しているとダンジョンに消化されるとか吸収されるとか、とにかく消え去ってしまうそうだ。今日あれだけ倒した敵対生物——ゴブリンというらしい――も一時間もしないうちに消え去ってしまうらしい。

 身体能力もダンジョンから出たとたん元に戻ってしまった。スキルというやつはとことん嫌らしい。


 剣士田中の遺体はむごいものだった。全身には切り傷、顔面は無事だったが背中にある裂傷はひどいものだった。剣士田中の家族はいないらしい。独居老人というやつだ。

 社会問題になって久しい、孤独死をした物件の取り扱いや清掃、引き取り人や相続など未だに解決の糸口すら見つかっていない。だからか、高齢者などまとめて管理して使い捨ててしまえばいいと。


 そう言われているのに等しいのだと、薄々感じていたことが確信へと変わった。儂はこのままでは国にいいように使われて死んでしまう。まだ健吾と遊ぶ約束をたくさんしているというのに。そんなのはごめんだね。儂は生きる。しかし一人で生き抜くのは大変だ。

 仲間がいる。それに皆にもそう簡単に死んでほしいとも思わない。協力するんだ。儂はまだ戦いの余韻が残る広場にいる全員に向けて声を上げる。


「剣士田中は死んだ。これが現実だ。儂らはこのまま国の言うとおりに働いて、無様に死ぬだけでいいのか? 残してきた家族はいないのか? たとえ一人でもこんなむごい死に方で満足か? 儂はいやだね。孫にも会いたい、もっともっと長く生きたい。老人の戯言と言われてもいい。生きたいと思うことの何が悪い! 儂は戦う。そしてこの地獄から抜け出して見せる。だからみんな、協力しよう。みんなスキルを得たはずだ。使い方もなんとなくわかるはずだ。儂は「剣聖」多分すごく強い! 斬撃を飛ばせるし、雑魚なら一捻りだ。でも国が納得する成果を上げるにはもっと深くまで潜らないといけない。だから儂についてきてくれる仲間が欲しい。誰でもいい、我こそはという人は後で部屋に来てほしい。来ないものも、どう生きていくか考えて欲しい」


 長い演説を終えて儂は大きく息を吸った。

 何人に伝わっただろうか。何人ついてきてくれるだろうか。たとえ一人でも儂はやる。こんなところに永遠に閉じ込められてたまるか。


 呆然とする皆を前に儂はダンジョンホームへと戻っていった。

 食堂できつねうどんを食べて自分の部屋に戻った。誰かが来るのを待ちながら。



 ……時計が八時を回ったころだろうか、儂の部屋をノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


「失礼します」


 儂の部屋に杖をつき、腰の曲がった女性が入ってきた。


「和子、と申します。スキル「軍師」です」


 女性に年齢を聞くのは失礼だが、儂よりも随分年を召しているだろう。それにスキル「軍師」か、果たしてどんなものだろうか。


「私のスキルは集団指揮に置いて効果を発揮します。相手の弱点、綻び、隙などが手に取る様に分かるようです。あと魔法も使えます」


 魔法か、こんな世界になったのだ。ファンタジーでしかない空想の技だって使えるのだろう。斬撃を飛ばせる儂が言ってもな。


「和子さん、貴方も儂と共に深く潜ることを望んで?」

「ええ、私にも会いたい人がいますから……」


 深くは聞かなかった。これだけの人生を生きてきたのだ。様々なことがあるだろう、根掘り葉掘り聞くものでもない。


 和子としばらく談話をしていると、再び部屋の扉がノックされる。儂が入室を促すとひょろりとした自分と同じくらいの男性が入ってきた。


「えーっと、勇夫さんかな?」

「そうです、勇夫でいいですよ」

「そうかい、俺はとおる、スキル「暗殺者」だ」

「強そうだな」

「剣聖には敵わんさ、文字通り暗殺に特化している」


 これで前衛、中衛、後衛と一応は揃った。

 しかしこれでは足りない。

 そう儂が思っているとバーンと扉が開かれた。


「おうおう、ここが戦闘狂が集まる場所か?」

「……入室前にはノックしてもらいたいものだが」

「すまねえすまねえ、俺は哲二、スキル「教皇」だ」


 入ってきた男、啓二はとても高齢者には思えないほど筋肉隆々していて、どっかの漁師でもしてたんじゃないかと思えた。


「スキル「教皇」は回復と支援が出来る。詳しいことは戦ってみないと分からないが、最悪取っ組み合いになってもいい」


 そういう哲二は二の腕をまくり力こぶを作る。

 なるほど強そうだな。


 その後しばらく待ってみたが、これ以上儂の部屋に来るものはいなかった。

 この四人で戦う。どこまで深く潜ればいいのかすら分からない。だがやらねば会えない、そして一生ここに縛られて生涯を終える。

 そんなのは嫌だ!


「儂らの最後が、こんな寂しいところで終わってなるものか。必ず、必ず生きてここを出る」

「はい」

「うん」

「当然だろ!」


「儂たち四人が仲間だ。他のみんなも仲間だが儂らは真の仲間だ。この苦境必ず乗り越えて見せるぞ!」


 ここに平均年齢八十歳のダンジョン探索パーティーが結成された。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る