新幹線の、ホーム。

遠慮する由美ちゃんを押し切って、僕は入場券を買って、そこまで来た。

すでに、美しい流線形の車両は、ホームに停まっていた。


「ごめんね、こんなとこまで」

「いや、いいって」

「あ〜ん、ホントは、色いろ東京見物したかったとよ。行ってみたい所、たっくさんあるの」

由美ちゃんは、どうしても今日中に帰らなければならない用事があるという。


「今度来たら、あっちこっち案内するよ」

「ホント? ディズニーランドも、行ってみたいっちゃ」

「ああ(あそこは、千葉だけどな)」


発車予告のアナウンスが、流れ始めた。


「あ、あのさ、由美ちゃん」

「何?」

「も、もしいつか、僕がそっちへ行ったら、案内してくれるかい?」


そう訊くと、由美ちゃんはニッコリと笑った。

「うん、もちろんよ!」


新幹線の発車メロディが、鳴り響いた。


「それじゃ、行くね。今日は、本当にありがとう!」

由美ちゃんはきびすを返して、列車のドアへと向かった。

そして、車内に入る寸前、僕の方を振り向き、小さな女の子のように、片手を振った。



しばらく僕は、消えていった新幹線の方向を、ボ〜ッと見ていた。

そして、改札の方へ歩き始めた時、スマホの着信音がした。

由美ちゃんからだ。


「貴方は、私が想像してた通りの人でした。また、会えるといいね  由美」


僕は、急いで返信した。

「会えるさ、絶対! 待っててよ!」


しばらくして届いた返信は、赤いハートのマークが一つ。何かそのマークが、僕を見て微笑ほほえんでるような気がした。


第1話ーー(了)

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