「やだっ、どうしよう! 最後まで標準語で通すって、決めてたのに」

由美ちゃんは、耳たぶまで赤くなって、ハンカチでパタパタと顔をあおいだ。


「いや、別に・・今のって、博多弁?」

「えっ・・う〜ん、苅田かんだ弁、かな?」

「かんだ?」


聞くと、東京の神田とは字の違う「苅田」という所があって、由美ちゃんの家も、そこにあるという。


「でも、私が使ってるのは、標準語に近い苅田弁なんよ。私のお婆ちゃんの話す言葉なんて、孫の私でも、よくわからん時があるとよ」

「へ、へえ〜・・」

もはや「標準語」を話すことを諦めたらしい由美ちゃんは、アクセントも苅田弁に変えて、スラスラと話した。


(なんか・・可愛らしい方言だな)


方言そのものが可愛いのか、由美ちゃんが話すから可愛いのか?

僕の胸の内に、何か温かい感情が湧いて来るのが、わかった。


「それでね・・・」

由美ちゃんは、コーヒーカップに口を付けると、顔をしかめた。

「東京のコーヒーって、苦かね〜!」

「砂糖、入れてないんじゃ・・・」

「あっ、そか」


砂糖とミルクを入れたコーヒーを、今度は美味しそうに飲んだ由美ちゃんは、呟くように言った。


「そう、これ、QZワクチンなんやけど、特効薬ってわけじゃないんよ」

「そ、そうなの?」

「うん。厚労省の認可も下りてないし」

「・・・・・・」

「でも、延命効果は、厚労省も認めてくれてるの。だから・・・」


由美ちゃんは、僕に涙を見せないためにか、俯いて言った。


「私、お父さんに、1日でも長く、生きていて欲しい・・・」




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