由美ちゃんが、僕の前に座っている。

あれから一時間半。

由美ちゃんは、膝の上に、大切そうに紙バッグを抱えていた。

バッグには、「Z大学附属病院」という文字が印刷されていた。


「ご、ごめんね、待たせちゃって」

「いや、そうでもないよ」

ホントは結構退屈したんだけど、オトコとしては、こう言うしかないよな。


「それでね—」

言いかける由美ちゃんを遮って、

「由美ちゃん、そのバッグ・・」

「え?」

「QZワクチンじゃないか?」


由美ちゃんは、大きく両目をみはって、

「知ってるの?」

と、訊いてきた。


「うん。なんか、前に雑誌で読んだ覚えがある」

「そっか・・・」

由美ちゃんは、寂しげに微笑んだ。


「それって、癌の特効薬か何かだよね?」


以前、週刊誌かネットニュースか忘れたが、

そんな内容の記事を見た記憶があった。


「特効薬じゃ、ないんだけど・・・」

由美ちゃんは、顔を上げて、

「実は、お父さんが、癌なんよ」


(えっ、なに今の、博多弁ってヤツ?)

思わず由美ちゃんの顔を見つめると、

彼女は、みるみる真っ赤になった。


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