「えっと・・向こうに着いたら、話すね」

目を逸らしながら、由美ちゃんは言った。

「う、うん・・・」

僕は、頷くしかない。


バスは、大通りから脇道に入り、商店や住宅の立ち並ぶ中を、クネクネと進んだ。

やがて、目指す停留所で、僕らは降りた。


「Z大学附属病院前」

バス停の表記には、そうあった。


なるほど、20メートルほど先には、

大きく堅牢そうな門があり、その奥には、

いかにも病院らしい、白いビルがならんでいた。


「由美ちゃん、ここって・・・」

バス停脇の歩道に立ち止まった由美ちゃんは、不意に僕を見上げて(彼女は、頭ひとつ分くらい、僕より背が低かった)、

「あの・・あのね、あのね・・・」


そう言う彼女の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

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