「ご・・ごめんね。へへ・・泣かないって決めてたのに」

由美ちゃんは、ジーンズのポケットから可愛らしいハンカチを出して、目を拭った。


「由美ちゃん・・・」

顔を上げた由美ちゃんは、何かを言いかけたが、左手の腕時計に目をやると、両手で拝むような仕草をした。


「ご、ごめんなさい、もう、行かなくちゃ!」

「えっ?」

「予約してあるんだけど、その前の受付が長くかかるらしいの」


そんなこと言われても、何のことやら・・・


「それでね、もし良かったらなんだけど・・」

由美ちゃんは、ちょっとモジモジした感じで、結んだ両手を、自分の胸に押し当てた。


(可愛すぎるだろ!)

そう思いながら、僕は次の言葉を待った。


「終わるまで、待っててくれないかしら?」


「由美ちゃん!」

「う・・うん」

「何言ってんだ、僕ら、友達だろ?」


由美ちゃんの顔がパァッと明るくなった。


「そ、そうよね! 会ったのは今日初めてだけど、何年も前からの、友達よね!」

「親友だぜ」

「うん!」


由美ちゃんは、ニコッとぼくに笑いかけると、小走りに病院の入口へと向かって行った。

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