断章ノ参:魔法少女はかしましやましい
①魔法少女の学び舎
宝来区のどこかに、少女ばかりが暮らす学園があるという。その名も、
そんな神秘に満ちた学園の、とある一室にて。四人の少女と一人の魔法少女が、円卓を囲んでいた。上座に
「
下座にいる少女二人――
「警察から提供された情報と、平さんたちの情報。これらをすり合わせながら、真実を推定しましょう」言葉尻とともに、サラの右手がそっと差し出される。こころは、意気揚々と口を開いた。
「えっとぉ、まずは事件の
「死者と行方不明者の数は、それぞれ七名と十名。被害総数は、計十七名となります」指折り数えるこころを、ミサキが
「現場となった産院ですが、実際には暴力団関係者の利用が多かったようです。死亡したうちの二名は、銃火器を所持していました」
「千仁町ってぇと、
サラの左にいる和装の少女――
「暴力団絡みなら、抗争が関係してるかもしれません」凄惨な現場を想起しながら、ミサキは進言した。
「それはあり得ねぇな」だがツル子は、あっさりと両断する。
「代田が派手にやり合った相手っていうと
「今の代田と不仲なのは、中島組の双子くらいか。しかしアイツらのシマは、隣の
「わざわざ喧嘩を売るには、目立ちすぎるということですね」サラのまとめに、ツル子はうなずいた。
折を見てミサキは、口を開いた。
「血痕の量から見て、行方不明となったうちの二人は死亡しているものかと思われます」
「……あの、」雪色の肌を持つ魔法少女――バグミーコロンバインは、おずおずと口に出す。
「産院ってことは、赤ちゃんがいたってこと……?」
「行方不明となっているうちの八名が、新生児に該当します」ミサキの返答に、コロンバインは気絶しそうな表情に変わった。
良くも悪くも彼女は大変ウブで、矢面に立つこともほとんどなかった。心が咎めながらも、ミサキは言葉を
「七名の遺体は、一部切断されているのが確認できました。欠損部位については、現在捜索中です」
「欠損部位特徴や共通項は?」間髪入れず、ツル子が問うた。
「手や足、頭部の一部といった、末端部位ばかりです。私の想像ですが、おそらく内臓は汚れが付着しやすいから避けたのかと」
ミサキの答えに、ツル子は貧乏ゆすりで返す。しつらえのいい椅子が、ギシギシと木を歪ませた。威圧的な音だが、ミサキは動じず意見する。
「変な話、比較的きれいな切断面でした。血の固まり方から見て、死亡した後に切断したのかと」
「なら捕食目的の可能性は低いかもな。ほとんどの怪人は、衝動にまかせて暴れる」ミサキの見立ても、おおむねツル子と同じだった。捕食の場合、現場はもっと惨いものになりやすい。
「でもぉ、ちょっと
「産院のカルテで
検証中のこころの足取りは、散歩するような頼りなさがあった。だが実際には、鋭い洞察力を持ち合わせていたのだ。同じようにツル子も、わずかに目を見張っていた。
「……では、
「
「おい、役立たず。泣くのは後にしろや」哀れなコロンバインは、ぐしぐしと金色の目をぬぐった。しかし涙は、一向に止まる様子がない。
苛立ちのままに、ツル子は睥睨してみせた。もとより生粋の武闘派魔法少女である。その気迫は、弱小怪人であれば怯むものがあった。両者に挟まれるサラは、平然とした様子で報告を促す。おずおずと、ミサキは口を開いた。
「産院の屋上でも、新たな血痕が確認できました。出血量から見て、おそらく生きてはいないと思いますが」
「んでも、怪人がいた
「ドアノブを引きちぎったり、魔力の
「しかもその怪人、現場近くをパトロールしていたパトカーもぺっちゃんこにしちゃったっぽいよ」くしゅっと手を握るこころに、コロンバインは目をつむる。
「ではやはり、目撃者もいないのですね」
「そーだね、サラちゃんの言うとおりだよ〜」うんうん、とこころはうなずいた。サラは無機質に、ミサキとこころの両者を見つめた。
「犯人は怪人とも、人間とも言える。判断のしにくい事件ですね」
一同が考え込み、しばらく経った時だった。
「この事件、俺たちが預かればいいんじゃねえの?」ツル子が、ぽつと切り出した。
「怪人が関わってる可能性が一つでもあるんだったら、警察じゃムリだろ」
一理ある、とミサキはうなずいた。まばたきを忘れていたサラも、同意を示した。こころは
「見つかるかどうかも分からねぇ人間よりも、
コロンバインは、うつむきながら沈黙した。もとより彼女は、代案など持ち合わせていなかった。
かくして波藤産院事件は、日本三大怪人テロとして数えられるようになった。
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