二章:落花狼藉、化けの皮
①親子たち
因羽にとっての仲介屋は、愉快の一言に尽きる。六出とともに重ねた罪は、奈落よりも深い絆を生み出していた。
六出の部下が運転する車が、静かに停まる。足取り軽く、因羽は車から降りた。
しとしとと降る雨が、因羽と六出を出迎える。玄関先で待っていた
「因羽さん、ご立派になられましたな」
「ご冗談を。まだ二年しか働いてませんよ」しかしヰ千座は、短くため息をついた。
「うちの
「
「中坊になりました。学校の不良どもとつるんでばかりで……。最近じゃ、ろくに顔も見てないんです」
「一度、うちの親父に
磨き上げられた廊下を踏みしめ、三人は襖を前に立ち止まる。
「失礼つかまつりやす」古風な言い回しと共に、六出は音もなく襖を引く。
とっぷりと日が落ちている中、細く絞った照明の下に、
「座れ」読みさしの
六出は一礼し、
「このところ、ずいぶん静かになったらしいな」鷺山の切り出しは、歓楽街での治安を指している。意図を理解した因羽だが、踏み切れずにいた。いかにすれば、恐怖の体現者たる鷺山から怒鳴られずに済むか。優等生的模範解答の保身に走るあまり、因羽は自然と鷺山を無視する形となった。
意外なことに鷺山は、気を悪くした様子もない。ただ彼の視線は、六出のみに向けられていた。
「ずいぶん会費も、羽振りがいいじゃないか」
「因羽くんがきっちり取立てているお陰です。
下々の組員が上へ納める会費。いわゆる上納金のノルマは、およそ八十万から百万円以上とされている。今月、因羽が納めた会費は五百万円。一般社会の営業成績であれば、昇進間違いなしの成績と言っていいだろう。
だからこそ、因羽は鷺山に僅かな期待を抱いていた。少しは認めてもらえるのではないのか、と。
「――因羽よ」六出との雑談が途絶えたとき、鷺山は呟く。
「借金のカタで小金を拵えた程度で、まさか任侠を分かった気になってるんじゃないか?」かすかに鷺山の首が動く。とっさに因羽は、目を伏した。
「
「どうせお前のことだ。風呂に沈めた女どもを苛めて、いい気になってるんじゃないのか」
「教育として、必要な詰めしかしておりません」過剰な謙遜は、因羽の本質を雄弁に物語る。だが彼の身に刻まれた恐怖は、強固な殻を求めている。体裁を取り
「……どうだかな」因羽を静観していた鷺山が、棋書に手を伸ばす。それは、面会の終わりを意味していた。
一礼とともに、六出は席を立つ。つられて因羽も膝を立てた。
「情けねぇよ、本当に。弱い立場の女にイキってるだけで仁義を、極道を、任侠を、分かった気になりやがって」明確な挑発であった。因羽が本当に
けれども彼の脳は、血の気と酸素が引いていた。過去に与えられた折檻が、因羽の心を蝕み始める。さまざまな思惑が一枚の板として因羽を固定し、
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