56話 アキナ激怒する!
「うー! 悔しいっす!」
突然襲って来た冒険者の男を、返り討ちにできたにも関わらず、レナはとても悔しそうだった。
理由は見当がつく。レナは戦っている時、本当に楽しそうな顔をしていた。
戦いが楽しくて仕方がない気性なのだろう。
こういうタイプは、自分の純粋な力だけで相手を打ち負かしたいと考える人間が多い。
最初は気づいていない様子だった攻撃強化の魔法も、その後転移魔法を使ったことで、併せてアキナの補助があったことに気づいたのだろう。
補助魔法をかけられて相手に勝った事が、レナにとっては負けるより悔しいのだ。
(戦士とか武道家とか、前衛に立つジョブにはそういう人多いのよね。余計なことをするなとか言われて、怒鳴られたらどうしようかと思っちゃった)
あのままでは確実にやられていたので、使った事に後悔はない。だが気持ちと反する事をしてしまった事に申し訳なさを感じてはいた。
(なんにしても長居は無用ね。どうしてこんな事になっているか帰って調べた方が良さそうだわ)
この男の仲間が来る前に、この場を離れて受付に戻ろうとした、その時だった。
『どうしたんだ? ガロン。こんな所に寝そべって』
『察するところ、この者達にやられてしまった様ですね』
青目金髪の端正な顔立ちの若い男と、小柄な中年の男がこちらに歩いてくる。
(騎士とシーフ。どうやら、この男の仲間みたいね。……素直には行かせてくれないでしょうね)
「アキさん、ウチが」
「大丈夫」
レナに補助魔法をかければ、この2人も難なく撃退できるだろう。
だが、これ以上不本意な事をさせるのは心苦しかった。
本当に絶体絶命な状況であれば、そんな事を気に止める余裕はないが、延びている男も、この2人も、自分にとっては大した相手ではない。
倒す事はそういった力を持ち合わせて無いので無理だが、無傷で逃げきることは、余裕で出来るはずだ。
(聖女だってバレずに、上手く空間転移魔法で逃げる方法も見つけたしね)
『ほお。異世界人でここまでの手練れがいたとはな。弱くて卑怯な奴らばかりだと思っていたが』
『おっしゃる通りで』
『どちらにせよ、やる事は変わらない。ジェイス、手は出すなよ』
『は』
騎士の男が、剣を抜き始めた。
(随分な言われようね。こちらはなにもしてないって言うのに……え?)
騎士の男が鞘から抜いた剣を見て、アキナは動揺する。
『どうしてアナタが、それを持っているの?』
『ほお。多くの冒険者に危害を加える間に、こちらの言葉も覚えたか』
騎士の言っている意味不明な言葉が気になった。だが今はそれどころではない。騎士がこの剣を持っている理由を、なんとしても追求しなければ。
『質問に答えて! どうしてアナタが暁の剣を持っているの!?』
『ハハハ。世界を救いし者に代々受け継がれる我が聖剣の名は、異世界の者にまで知られているのか』
『なに言ってんのよ! 聖剣、暁の剣は代々の勇者に受け継がれる剣。今、これを持つ事が許されるのは当代の勇者、ヒセキ・コウスケだけのはずよ!』
『ぷ……ハハハハ。ゲス勇者ごときが、この聖剣を持つ資格があると。笑えない冗談だな』
『ふざけないで』
ゲス勇者。初めて聞くこの言葉にアキナは激昂した。コウスケはゲスなどと呼ばれるような人間ではない。
騎士の男は、アキナを見ながら大きなため息をついた。
『暁の剣は、オークションで手に入れたのだ。大方、ゲス勇者が博打か女遊びをする為に売ったものが流れてきたのだろう』
『……嘘ばかり言って。いったいどんなやましい事をして、この剣を手に入れたのよ』
コウスケは真面目で純粋すぎる人間である。そんな遊びは絶対にしない。とてつもない嘘と侮辱に、アキナは怒りで頭が真っ白になる。
『なにをそんなに怒っているのだ!? まあいい。今までの悪行を悔いながらあの世にいけ』
暁の剣を突きあげて、騎士の男は向かって来た。
どうやらアキナを串刺しにするつもりの様だ。
(舐めるんじゃないわよ!)
手の平をかざし、聖女の結界を張る。
『ほう、暁の剣を受け止めるか。中々強固な結界魔法が張れるようだな』
『そう? アナタが弱いだけじゃないかしら?』
やはり騎士の男は、暁の剣を使いこなせていない。
もし勇者の資格を持つ者に暁の剣で突かれていたら、本来の力が全く引き出せていない今のアキナの聖女の結界など、いとも簡単に破壊されていた。
『少し褒めてやれば調子に乗って。良いだろう。本気を出してやろう』
そう言って、男は聖女の結界を斬りつけ始めた。
『持っている道具は立派でもこの程度じゃ話にならないわね』
『言わせておけば』
『いい加減本気を出してきなさいよ』
『ぬぐぐ……』
まだ隠している力が、なにかあるのかも知れない。だが、それがあったとしてもアキナにはしのぎ切れる自信があった。
「あのう」
レナが話しかけられ、アキナはハッと我に返る。
「なんか分かんないっすけど、アキさんヤバいくらい怒ってますよね。やっぱりウチが戦いましょうか?」
感情に流されてしまった事を反省しながら、周囲を冷静に分析し始めた。
まず、自分は聖女の結界に必要以上の魔力を込め過ぎている。
こんな攻撃であれば、この半分程度の力でしのぎきれるはずだ。
そして自分のジョブはあくまで聖女。治癒と補助、結界の魔法には自信があるが、 相手を倒す力はないので、このままだと騎士の男と後ろのシーフが攻撃に疲れて帰ってくれるのを、待つ事しかできない。
魔力には、まだまだ余裕があるのでそうなっても大きな問題はない。だが、時間がかかり過ぎる。
「大丈夫よ。私の言うとおりにやってこの場は上手く逃げましょ」
レナに微笑みかけた後、攻撃を結界で受け止め続けながら、ゆっくりと後ろに下がっていく。
『ハハハハ! 私の攻勢に耐え切れず、押され始めたではないか! さっきの威勢はどうしたのだ!?』
後退する姿を見た騎士の男は、勢いづき始めた。
先ほどならば怒りを感じたかも知れない。だが今は力量を測れない騎士に呆れた気持ちしかわかない。
「そろそろね。レナちゃん私に捕まって」
「あ、は、はい」
なんだか分からないといった表情を浮かべながら、レナはアキナの袖をつかんだ。
「なにがあっても私を離さないでね」
言い終わるなり、アキナは石畳のとある部分を踏んだ。
今立っている所が、大きく開いた。
落とし穴トラップが発動したようだ。
(ここの穴は深いから丁度いいわ)
穴に落ちながら、男達の視点から自分たちが消えたことを確認して、空間転移魔法を発動させた。
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ご拝読いただききありがとうございました。
すいません、今日はなにもネタがありませんが、
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