53話 トラブルを起こすレナと静止するアキナ
「レナちゃん、なにか格闘技やってたの?」
「……昔、ボクシングをちょっとだけやってったっす」
「へええ、女の子なのに珍しいわね」
いつもの駐車場に車を停めて配信はスタイルに着替えたアキナは、レナと2人で公園にある次元の穴を目指した。
「でも、あんなに強いだったら、1人でダンジョン配信やってた時は人気だったんじゃない?」
「全然再生とれなかったっす。それにウチ、別にそんなに強くは……」
ここで、アキナはハッとある事に気づいた。
最初にレナに言われたことだが、強いだけでは配信は成功しない。それこそ、ビジュアルが良かったり、トークが上手かったり、カッコいい動きができたりなど、それ以外にも色んな事が求められるのだ。
自分はどれも無かったが、たまたま異世界転移してた経験があるおかげで誰も使えなかった魔法が使えたのが珍しがられて、運よくバズっているにすぎない。
(でも変ねえ。ビジュアルだって可愛いし、トークも明るくて面白いから人気になりそうだけど)
そんな事を眉間にしわを寄せて考えながら歩いていると、バツが悪そうな表情を浮かべてレナが話しかけてきた。
「……モンスターってビジュアルがいかついのか、キモいのか、すっげえ可愛いのしかいねえじゃねえっすか。どれも殴るの嫌だったんす。 ……はは。バカみたいな理由っすよね」
「う、うーん」
アキナは返答に困ってしまった。先ほどの動きを見る限り、レナは今まで会ってきたどの配信者よりも強かった。
なので、そんな理由ならとても勿体なく感じる。
「だからウチはアキさんの編集とカメラマンやってる方が気楽でいいっす!」
レナは満面の笑みを浮かべながら大きな声でそう言った。
「……」
それがまるで自分に言い聞かせるようで、無理をしている事が透けて見えた。
なにか力になれることはないだろうかと思ったが、知られたくないデリケートな理由がありそうなので、口を挟む事ができなかった。
そうこうしているうちに、次元の穴の前についた。
ここに来るのは、1ヶ月半ぶりだ。
「あのう、すいません」
通して貰うために、警備をしている警察官に声をかける。
「あー! ダメダメ。帰って、帰って!」
ここに来た理由も聞かず、警察官は手の平を広げて、こちらに向けてきた。
「あのう配信のために来たので……」
「だから帰ってって言ってるの。聞こえなかった?」
頭ごなしに上から拒絶する態度に、アキナはムカッとした。
だが、大人げないことはしたくないので、温和に接しようとする。
「はあ!? 初めて顔見るけど、なつめさん知らない訳!?」
「なつめさん? 誰だそれ?」
「呆れた。アンタじゃ話んなんないから、代わりの人連れてきてよ!」
「なんだお前、警察官に……」
だが、レナはそんなアキナの気持ちを無視して、ブチギレて口論を始めてしまった。
「ちょ、ちょっとレナちゃん。やめてよ。このお巡りさん、ダンジョン配信見る様な年齢じゃ無いから私の事なんて知らないわよ」
確かに警察官の態度は頂けない。だが、こんな事でトラブルは起こしたくないので、レナを必死に止める。
「おーい、なにやってんだ!」
揉めていると、よく警備している顔見知りになったお巡りさんがこちらに走ってきた。
「先輩、聞いてください。こいつらが次元の穴に入ろうとしてるんで止めたんです。そしたら逆切れして……」
「はあ? 逆切れってなに? しかもこいつらって。マジムカつくんだけど……」
「レナちゃん、もう止めて。すいません、やっぱり今日は帰ります」
「通せ」
「え?」
顔見知りのお巡りさんの言葉に、偉そうにしていた警察官は愕然としている。
「しかし……」
「良いから通せ。なつめさん失礼したな。早く次元の穴の中に入ってくれ」
「い、いえ、こっちこそ感情的になってしまってすいません」
「へッバーカ。クソポリ」
「ちょっとダメよ。そんな事言っちゃ! すいません」
たしなめた後、軽く会釈をして一緒に次元の穴の中に入っていった。
◇
「先輩! なんて事をするんですか!」
なつめさんとカメラマンを通し終えた後、後輩警官は凄まじい勢いで怒鳴ってきた。何故通したのか理由が分からないからだろう。
自分もここの警備の仕事をしていなければ、ダンジョン配信のことなど、さっぱり分からなかったので、こんな反応をしたかも知れない。
「また新しい犠牲者が出ますよ! ダンジョン側からも休業中だから誰も入れるなと言われているじゃないですか!」
「そっか。お前は2週間前に、ここに配属されたばかりだから分からないか」
「え?」
「最近色々忙しいみたいでここに来れなかったみたいだけど、あの人は、なつめさんっていってな。ガキの間じゃ有名なダンジョン配信者だ。俺は見ねえから詳しいことは分かんねえが、物凄く強えらしい」
「だからどうしたって言うんですか! 強いって有名らしい配信者が何人も瀕死の重体になってるじゃないですか!」
「だからこそ自分が倒すつもりなんだろうよ。俺は止める事ができねえな。まあ、他の配信者なんて比べ物になんねえほど強えみてえだから死ぬことはねえだろうよ」
後輩警官は納得いかないといった表情で、こちらを睨み続けている。
先輩警官はそれを無視し、次元の穴の中に消えていくアキナとレナの後姿を見送った。
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ご拝読いただききありがとうございました。
なんとかカクヨムコン終了までは毎日投稿ができると思います!
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