第二幕 悪徳冒険者討伐

51話 アキナがいない間にダンジョンは崩壊

「過労ですね」

「やっぱりそっスか」


 1階層受付にあるモニター室で異世界の医師による訪問治療受けたジンは、この診断に深く頷いた。

 最近、判断力や集中力が著しく低下している上に、極端に塞ぎ込む事が多い。

 胃が痛くなり、吐き気を催し、強い疲労感を抱く事が多々ある。

 魔力の反応がないのに、幻聴や幻覚を感じる事もある。

 間違いなく疲れがたまっている。


「違うでござる! 先生! 騙されてはダメでござる! コイツは症状を偽っているでござる!」


 テーブルの上に置いてあるミミックが、診断結果を聞いて大きな声で騒ぎ始めた。


「あのう宝箱は?」

「電話みたいなもんだから、気にしないで欲しいッス」


 過労の原因は分かっている。

間違いなく、このミミック越しに話している男のせいである。

最近では【生態系の迷宮】の商業運営に関わることだけでなく、他でやっている怪しげな商売の書類仕事や単純作業などを強制的に押し付けられている。


「だってコイツは元神だから、体力や魔力が減ることは無いでござる!」

「恐らく原因は精神的なものでしょう。身体が大丈夫でも心の疲れは身体も蝕みます」

「心労がかさむ様な心当たりは全くないでござる! ちゃんと専門領域の医者を呼ぶでござる!」

「この先生、心療内科の先生ッス。自分の身体の仕組みはよく分かってるから、それに合わせた医者に来てもらったッス」


 エコーミミックはしばらく黙った後、再び口を開いた。


「1か月間は安静にさせてください」

「……困ったでござる。任せた他の仕事がひと段落したから、アレの排除に本腰を入れてもらう予定だったでござる」

「残念ながら今の俺には、そこまでの余力がねえッス」


 会話を続ける中、突如モニター室に警報音が鳴り響き、赤ランプが点灯しだした。


「ギー! ギー!」


 モニターを監視していたゴブリンが、慌ててジンの元に走ってくる。


「もしかして奴らが現れたでござるか!?」


 チラリとモニターを確認する。どうやらこれは奴らの仕業のようだ。


「……行って来るッス」

「君、待ちたまえ!」


 現場に向かおうとするジンを、心療内科医は強く静止した。


「いや、俺が行かなきゃ人死んでもっとめんどくさい事になるッス。安心して欲しいッス。これが終わったらゆっくり休むッス」


 疲労による苦しさより、コウスケへの恐怖が勝ったジンは、重い足を必死に引きづって現場へと向かった。



(地面に魔法陣が書かれてやがる。あれを踏んだら、これが噴き出すトラップ魔法か……)


 1階層の現場周辺は毒煙に包まれていた。

 そこには魔法陣を踏んだと思われる配信者とカメラマンが、口から泡を吹いて倒れている。


(結構強え毒だな。人間なら確実に死ぬ。しかも治療しにくいように、2つの毒成分を混ぜた複雑な術式で魔法陣を書いてやがる)


 竜巻魔法で周囲の毒煙を消し飛ばしたあと、倒れている2人に持ってきた聖女のポーションを数滴垂らした。

 【生態系の迷宮】に保管されていた聖女のポーションは、これで無くなった。


(これで死なねえし、障がいも残んねえだろ。だが量が少ねえ……。何日か中毒症状に苦しむのは間違いねえな)


 ここ最近奴らの配信者への襲撃が急増したことは、間違いなく聖女のポーションが無くなった原因の1つである。

 だが最大の原因は別にあった。


(畜生あのオヤジ、聖女のポーションをほとんど横流ししやがって……。これで人間が死んだら俺のせいとかマジやってらんねえ)


 ここでジンは、現場に近づいてくる気配を感じた。トラップに配信者がかかった事に気づいたアイツらがこっちに向かってきている様だ。


(はあ、はあ……クソ、なんであんな雑魚共から俺が逃げなきゃいけねえんだ)


 心の中で、そう吐き捨てたが、今はとても戦えるような状態ではない。


 取り急ぎ意識を失い倒れている2人を担ぎ上げて、壁をすり抜けて、安全な1階層受付を目指した。



「ジン君! また奴らが出たの!」

「こいつ等は大丈夫なの!?」


 2人を1階層受付に連れ帰ったジンを、その場にいた配信者達が心配して取り囲んだ。


「……応急処置はしたから……命に別状はねえけど、一応……救急車……を……」


 言葉を言い終える前にジンは、全身に力が入らなくなり、2人を背負ったまま床に倒れ込んだ。


「い、いやあああ!」

「ジンくうううん!」


 意識が遠のく中、配信者達の悲鳴と絶叫が耳に入ってきた。


「おのれええええ! ジンをこんな目にあわせるとは! 許さん! 絶対に仇はとってやるでござる!」


 ミミックの口から放たれたであろう、この言葉に周囲は沸き立った。


「しょ、商人が、まともな事言ってるぞ!」

「良いぞ! 商人、ジン君の仇をとってくれ!」


(ち、違う。俺がこんなになった原因は……このオヤジ……だ。皆、騙されねえで……く……)


 頭の中で全てをつぶやき終える前に、ジンは完全に意識を失った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ご拝読いただききありがとうございました。

第二部スタートさせて頂きます!

本日記念にもう1本投下させて頂きます!

アキナはそちらから出演致しますので、今しばらくおまちください!

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よろしくお願いします!

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