第25話 言外

 ―—大学から出席停止処分を受けたそら

 噂や偽者だと吹き込んだのも恐らくは高根たかねの仕業だろう。冷笑せせらわらう高根の顔が見えるようだ。しかしこうなったことに後悔はない。


 あの日以来、大学には行っていない。皆はどう思っているだろうか?

 せめてみなみには連絡をしておこうと、大学から呼び出された顛末てんまつを、SNSで伝えておくことにした。






 ——放課後、同じ茶道部の部室に居る飛鳥あすかとエレン。

 南から、天の身に起きている概要は聞かされていた。


 「飛鳥ちゃん、良く分からないんだけど、テンちゃんが男の子だから退学になってしまうの?」


 南の説明では要領を得ない、といった表情のエレン。


 「あの噂の後から有耶無耶うやむやにされているけど、テンは間違いなく女だと思うよ。でも一番の問題はそこじゃなくて、『男として入学した天が、どうして女なのか』という事なんじゃない?」


 「入学試験を受けたのは別の人ってこと…?」


 「或いは、私たちが知っているテンが別人。つまりは替え玉受験をしたって疑われている訳よ」


 「そんな…。テンちゃん、どうなるのかしら?」


 「それはわからない…。これから大学側が色々調べて決めるんじゃないかな」


 「テンちゃんが本当のことを話してくれたらいいのに」


 「それはエレンの言う通りだけど…。謹慎中だから話せないのか、不正が本当だから話せないのか…」


 「私たちにはどうすることもできない、ということね」


 「千晴ちはるあおいも諦めの境地って感じだった。もはや他人事という顔してたわ」






 ——その頃、カフェCielでは…


 「理由は聞かなかったけど、しばらく休みたいって連絡があったの」


 「やっぱり来てないか…」


 吉野よしの六ッ川むつかわコンビ、それに南も天を探しに店に来たが、どうやら徒労に終わったようだ。



 3人は店長の澄玲すみれに一部始終を話した。


 「連絡が取れないのは心配ね…。だけど、結論が出るまで口外しないようにって、大学の方から言われているのかもしれないわね」


 「そうか。モヤモヤした気持ちは、テンちゃんも同じってことか」


 「そうだな…」


 天を想う吉野と六ッ川。その気持ちは南も同じだ。


 「テンちゃん、どうなるんだろう…」


 「たぶん、大学の上層部…、理事会とかで話し合うんじゃないかな。不正があったのか無かったのか。テンちゃんが試験を受けた本人であると証明されない限り、処分が決定されてしまう…」


 「ねぇ、私たちが手助けできるような事ってないのかな?」


 「そうだなぁ…。証明すると言っても、テンちゃんを昔から知っている訳じゃないしなぁ…」


 考えは行き詰まってしまった。

 冷えかけたコーヒーをごくりと飲み込んだ六ッ川。天のことを誰よりも想っていたと自負するが、こればかりは成す術がない。

 気持ちを断ち切るように2人に言った。


 「残念だけど、俺たちにできることは何もない。大学の判断次第とはいえ、恐らくは…」


 六ッ川の気持ちを汲み取って、吉野が途中で遮る。

 「言わなくていいよ」


 抑えられなかった六ッ川が続ける。

 「不正入学という事で退学…、いや、こういう場合は除籍処分かな」


 重苦しい空気を振り払うように、努めて明るく南が話し出す。

 「そうね、テンちゃんが悪いんだもん。私たちにできることは何もないよね」


 「南ちゃん…」


 無理していることは明らかだ。


 「でも…、でもさ……」

 テーブルの上に涙が滴った。


 「さよならも言えずに、このまま終わりなんて嫌だよ。今まで一緒に過ごしてきた仲間なのに……。私は諦めたくない。きっと戻ってくるって信じてる!」





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