第5話 梟雄
兎にも角にも、入学ガイダンスまであと1日。
お姉さんと連絡が取れたとしても、明日は大学へ行かなければならず、相談している時間はない。
大丈夫。明日はきっと何とかなる。
自分にそう言い聞かせたものの、不安は残る。
何しろ
入試の時に提出した写真は、顔しか写っていないので良くわからないだろうけど、さすがに居合わせた人が見れば、言わずもがな女子にしか見えないと思う。メラビアンの法則のように、人の印象は見た目が9割なんて言うからなぁ。
もし指摘されたら…。
「君、受験願書の性別欄には”男”と記入されているけど、本当に本人なの?」
なんて聞かれたらどうしよう。
こんなことで人生の瓦解に遭いたくないな。
そうだ。ジェンダーレスとして押し通すか?
不正をして入学した訳じゃなし、さすがにジェンダー問題にまでは深く追及されないんじゃないかな。
男女の相違については、この手で行くしかなさそうだ。
まぁ、”天”という名前だけで、男か女かを判断できた人は今までいなかった。当日になって性別欄まで確認するなんてないと思うし、持参した通知書と照らし合わせて、目の前の人物と顔写真がだいたい似ていれば本人であると認めてくれるだろう。
誰も別人だなんて気づかないよ。多分…。
~~~~~ ~~~~~ ~~~~~
あれこれと悩んでいるからか、胸が締め付けられるような思いだ。
締め付けられる…?
そうか、このブラジャーのせいだ。
背中で留めるホックには難儀した。フロントホックというブラもあったので、そちらにすれば良かったと後悔している。
そもそも、留め具は「ホック」なのか「フック」なのか、記述がバラバラでどちらが正しいのかわからない。この議論をする相手もいないから、どちらでもいいか。
ようやくブラを着けたはいいが、こんなにもキツいものなのかと驚いた。
無用に胸が動かないようにするものとはいえ、これではちょっと窮屈だ。慣れるしかないのかな。サイズは合っているはずなのだが、もう少しサバを読んで大き目にした方が良かったのか?
普通は1日中着けているものだとしても、部屋の中に居る時くらいは外しても良いような気もする。将来的に胸の形を崩さないようにするためには、眠る時でさえも着けるべきという。ナイトブラというのも存在するから後で調べてみよう。
それにしても、女の人は大変だなぁ。
ほんの数時間で窮屈さに音を上げた天は、今まで女の人のことを何も理解しようとしてこなかったんだと痛感する。男に戻りたいと願うのは、生まれた時からの慣れた体だから、男の方が楽だからという思い込みか。女でいることが嫌なのか?
でも…。本当は男なんだ。
天はどうにもならないもどかしさを感じていた。
大きく深呼吸をした。
とにかく、明日だ。
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