第五話 ことの顛末

戦いは、凄惨だった。

カークさんが野盗達を力任せに放り投げ、スケさんが紙切れの様に引き裂いていく。

数分で野盗は壊滅した。頭目は生かしてある。

一応首謀者だ、官憲に突き出す必要があった。しかし、俺の目的はこいつじゃない。


この場を往生際悪くも逃げ出そうとしていた男、副官のジェスターだ。


「おいおいおい! お前を逃がすわきゃねーだろ! なぁジェスター! いや、ジェスター・フォン・グローダン卿とお呼びしようか?」


この男ジェスターは、元々グローダンを治める領主だったのだ。

野盗と結託して、国から戦費や盗賊対策費を募り、それを横領し雲隠れしていた。

俺はこいつを炙りだすために野盗に潜入していたのだ。


「なぜその名を……、ええいどうでもいい!」


フルネームを呼ばれて、一瞬立ち止まるが、ジェスターは火事で人だかりが出来始めた通りをかき分け逃げようとする。

しかし俺が管を取り出し吹くと、ジェスターはその場に倒れ伏した。


「はいはい皆さんごめんよぉ!」


俺はその倒れたジェスターに悠々と近づくと、カークさんに抱えられジェスターと共に忽然と消えた。集まった民衆はこの不思議な光景に呆気に捕らわれていたが、火消しの魔術師たちが来ると、慌てて道を開けるのだった。


消火が終わり焼けた廃屋の前には20人ほどの野盗たち。廃屋の中にはその仲間の焼死体が80人余り。目撃された女性二人の行方は分からずじまい。

そして野盗はあのグローダンを牛耳る野盗の頭目だというのが解り、街は一瞬騒然となった。何が起こったかについては野盗達は黙秘した。

牡丹と獅子の紋章を見たなどと言えば、どんな拷問や処刑が待っているかわからないのだ。程なくして彼らはさらし首になったが、逃げだした俺を含む4人については、一向に捜査は進んでいないようだ。


――「んで、なんで君だけはまだ生かされてるわぁかぁるぅ? ジェスターくーん?」


俺は荒野の高い岩場の上で、鎖で腕を縛られたジェスターと共にいる。

丁度、こいつと始めた会った時と真逆の体勢だ。


「どうせ私の隠し財産が目当てだろ?」


「いやいやいや、なにが隠し財産だ。 横領した戦費と盗賊対策費でしょ? お前の金じゃなくあれは国の金なの! 耳揃えて返せって話」


「お前どこの所属だ? こんなやり方軍じゃあるまい?」


どうやらジェスターは粗野な態度はやめたようだ。素直に話す気もないのだろう。

話を逸らそうとしている。


「まぁ別に名乗ってもいいか。俺は女王直属の視察員さ。名は捨てた。今後はギンジで通すつもり。しかしあんたは偽名すら使ってないなんてびっくりしたよ。 元領主様がねぇ。そのまま本名名乗ってると知って笑わないように必死だったわ」


俺は小馬鹿にしたような態度を崩さず、話に乗っかる。

しかし、案外こいつは冷静なようだ。この時点でお前は詰んでるだろうに。


「お前から返還させるように、俺は厳命を受けてる。その為に野盗共も潰したんだ。

いい加減吐いてくれねーか? もう俺だって、次の街行って、旅を楽しみたいんだ」


「ふん。終わった気になっているようだな」


「あぁあぁあぁ? あんたまだ子飼いの手駒いると思ってる? そんなの、真っ先に潰すに決まってんじゃん?」


「馬鹿な! お前らにバレる筈が!」


「あんたが棄却した作戦わかりやすすぎでしょ? どこに拠点があるか、絞り込み易くて助かったよマジで。 逃走。待ち伏せ。色々試したけど、全部の場所に拠点があって笑ったよ」


ジェスターは用意周到だった。金を小分けにして、子飼いの兵士崩れに守らせていたのだ。その分、小分けにした時点で脇が甘くなったのだろう。容易に見つけることができた。頑張ってくれた仲間たちには、感謝せねばなるまい。


「……くっ!」


ジェスターの顔に動揺が拡がる。どうやら茶番に気付いたようだ。


「あ? 気付いた? 気付いちゃった? はいその通り! 君の横領した金のありか実は全部みつけてまーす!」


「貴様! なぜそこまでわかっていて私を生かしていた!」


「え? そんなの暇つぶし」


俺が鋭い目線を向け冷たく言い放つと、ジェスターは絶望したような表情を見せ項垂れていた。

さて、バレてしまった次は何で遊ぼう? そんなことを考えていると、うしろから俺は声を掛けられた。


「まったくご主人様は、性格が汚水を煮詰めたように酷いですね」


「わうわう! くちゃいくちゃいなのです!」


カークさんが俺に辛辣なのはいつものことだが、スケさんまでひどい……。


「それで? 懲罰隊は来たの?」


「はいなのです! 地平線のとこに馬の走る煙が見えたのです!」


スケさんが褒めて欲しそうにしっぽを振りながら、俺に報告する。

俺はそのかわいい毛玉の頭を撫でぼんやりと呟く。


「ふーん。そしたら一時間も掛からないくらいかな」


どうやらやっと仕事が終わるようだ。あとは懲罰隊に引き継いで俺はお役御免。次の街に行くだけだ。

懲罰隊への引き継ぎが済むと俺たちは一路南へ進んでいく。


「さぁ、スケさん。カークさん。さぁ世直しの旅を再開しますよ!」


「はぁ……、調子に乗ってらっしゃいますね」


「ご主人は弱いくせに偉そうなのです」


辛辣なメイドと毛玉少女は呆れたような声を上げ彼らの主人について歩き出すのだった。


終わり


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早期引退勧告を受けた無能な魔術侯爵の次男坊――セカンドライフはもふもふ娘と怪力メイドの三人でのんびり世界漫遊の旅に出ます 羽柴 @hashiba0101

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