第四話 火に包まれる街


「それで? ギンジ、このあとはどうする?」


「明かりは消してくださいバレちまう。 一旦、空き家に集まって作戦会議しましょう。兵士の巡回ルートを一つずつ潰していくんです。順番をお教えしやす!」


俺たちは隊を細かく分け、順に近くの空き家に入っていく。

時刻は二時過ぎ、夜明けまであと3時間を切っていた。


俺は最後の一人が空き家に入るのを確認すると、家の中に声を掛ける。

室内は真っ暗だ。俺は月明かりが差し込むようにドアを目いっぱい開きドアの戸当たりの部分に背中を預けた。


「頭目! これでおれらの仲間は全員ですかい? 他の拠点から増援が期待したりは出来ないってことですかい?」


「あぁ、そうだ! ここにいるので全員だ! おめぇも中に来い。 作戦を教えろ!」


それを聞くと俺は、手紙に同封されていた穴の開いた管を取り出し、息を吹いてから、出口から動かずしゃべり続ける。


「そうですかい。頭目、まぁいいでしょ何とかなりやす。 ここに樽が見えますかい? そうこれです。 そん中に油が入っていやす」


俺はドアの横に置いた油樽を指さしながら話す。


「用意がいいじゃねぇか? それでこいつをどうすんだ?」


「それじゃまず、この後3時になるまではここに待機ですんで疲れをいやしてくだせぇ。そんで一気にその巡廻路の兵士を殺っちまいます。んで、報告が行く前に詰め所を押さえちまいます」


そういうと、野盗達は思い思いに床に座りだす。

手狭な廃屋だ。みな窮屈な場所に不平も漏れ出すが頭目が話始めると、皆一斉に黙った。いい統率だと思う。


「あとは街に火を放つってわけだな? 火を放つ場所はどこだ?」


「へっへ。火を放つのはこの空き家でさぁ」


「あぁん? こんなとこ、小火ぼやにしかならんだろ? 中心部から遠すぎる」


「小火でいいんですよ。街に大きな被害が出たら困るでしょう?」


「うーん。それもそうか、確かに女や食料が燃えちゃ意味がない。 しかし、そしたらわざわざ火をつける理由ってのはなんだ?」


「火事になったら、みんなパニックになりますでやしょ? そしたら騒ぎが大きくなって兵士たちは更に混乱しますそれと、もう一つ理由が……」


「そりゃなんだ? 教えろや?」


「へっへ。 そいつはねぇ……」


俺が勿体ぶっていると、辺りには焦げ臭いにおいが漂ってきた。煙も一気に広がっていく。俺の休めの一言に、気を抜いていた野盗たちは慌てふためいて立ち上がるが、狭い屋内だ皆思う様な動きが取れずにいた。

煙を確認した俺は慌ててドアを閉める。そしてあらかじめ細工していた外側から架けるかんぬきで扉を施錠した。


「あん? 煙? 火事か?」


「おい! ギンジどういうことだ! 開けろ!」


中から、ドンドンと叩く音が聞こえる。

開ける訳がないだろう。お前らを一網打尽にするために選んだ場所だ。


「くそ! 開けろ! 開けやがれ! 開け――」


大声で怒鳴る声は爆発音に掻き消えた。油樽が爆発し、部屋全体に炎が広がったのだろう。言葉にならない悲鳴を上げ、野盗共は絶叫し始めた。

俺は扉越しにその阿鼻叫喚の地獄の怨嗟を聞いていた。

そして息を吐き仕事が終わったとドアから離れようとした時だった。


爆発で脆くなった廃屋の壁を突き破り、生き残りの野盗達が外に出てきたのだった。

その中には頭目とジェスターもいた。

彼らの肌は一部が炭化し、酷いやけどだったが嵌められたのが解ったようで俺への怒りで痛みを忘れているようだ。まだ20人ほど生き残っている。彼らはこのまま衛兵に捕まるだろうが、俺の命ぐらいは引き換えにするつもりだろう。


「ちっ! おまえらやるぞ! せめてこいつには後悔させてやる!」


「おいおい待てよ! お前らいい加減にしたほうがいいぜ? 首切りならまだマシだ。すぐに死ねるからな? 俺に手を出したら、牛裂き、胴斬り、足削ぎなんでもあり得るんだぜ?」


「は? 馬鹿らしい! だからなんだ! 俺らがいまさらそんなんにビビると思ってんのか?」


俺はその反応に薬箱を取り出す。そしてその薬箱の外箱を開けると更に箱が入っている。その箱には獅子と牡丹の花の紋章があしらわれていた。

その紋章はこの国の王の紋章、この紋を使う物は等しく王の代理であると証明するものである。この紋章については、どんなならず者でもその意味を理解している筈だ。


俺は薬箱を高々と掲げ王に弓引く覚悟はあるのかと?そう問う様に見せつけたのだ。

だがその威光に跪いて慈悲を請うたのは、ジェスターだけだった。


他は国の威光など知ったことかと復讐に目をぎらつかせている。

どうにか裏切り者を殺そうと躍起になっているようだ。

追い込み過ぎた。確実に焼き殺せなかった時点で俺の運命は詰んでいたのだろう。


頭目たちが向かってくる。俺は小さなを管を咥えもう一度吹いた。

そして力任せに押し倒されると、馬乗りになった頭目は右手を振り上げていた。


しかしその瞬間俺の視界に白い影が舞う。

その影は頭目を吹き飛ばすと、


「まったくご主人は詰めが甘いのです。スケは最初から連れてくように言ったのですよ!」


そう言って影は大きな尻尾をふりふり振りながら俺の手を引っ張り起こすのだった。

いきなり頭目が吹き飛ばされたことで、野盗達は固まっていた。


「スケさんや、お前連れてくと潜入なんてできないじゃん。すーぐ暴れちゃうし」


「そんなことないのです! スケは待てが出来る子なのです!」


そういって大きな尻尾を殊更に振り、有能アピールしてくる白い犬耳の少女――エミリア・スケロット。俺は彼女の頭を撫でながら、「おやつがなかったら?」と聞いてみた。すると元気よく「無理です!」と答えるスケに俺はため息をついた。


そんなやりとりをしていると、野盗の後ろの方に居たやつが悲鳴を上げながら俺の前に落ちてきた。

その野党は力任せに投げ飛ばされたのだろう。受け身も取れず、王都で見た最新式の芸術みたいなポーズで地面に突き刺さっていた。


「ご主人様、駄犬と戯れてないで、さっさと働かせてください」


奥の暗がりから、少しきつい目をした金髪のおさげのメイド服の女性が現れ、俺を叱咤する。駄犬と言われてスケさんは少々ご機嫌斜めで「スケは駄犬じゃないです」と呟いた。


「カークさん! ごめんごめん! 来てくれてありがとう! スケさんもお願いできる?」


俺はそのメイド服の女性アリシア・カークランドに簡単な謝罪をしてスケさんの頭を撫でつつお願いした。

カークさんはこちらに一足飛びで俺の横に並び。スケさんは四つん這いで腕をたたみいつでも飛び掛かれる姿勢だ。


二人は身構え俺の合図を待っていた。

おれは二人にその二人を見て合図をおくることにする。


「それではスケさん、カークさん! 懲らしめてやりなさい!」


「いくです! 脳筋メイド」


「行きますよ! 駄犬」


二人はお互いを一睨みしたあと、ネズミ花火の様に野盗達の中に飛び込んだ。

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