第三話 大仕事
一月もの間、民を虐げ、兵士を欺き、罠に嵌める為に献策をする。
そういったことを繰り返していったことで、いまでは悪党が板に着いてきた。
たったひと月の出来事だが、着実に俺は野盗達の間で頭角を現していった。
「そろそろ、女や物資を纏めて手に入れてぇな」
頭目の言葉だった。
街の支配は進んでいたが、先細りはもう見え切っていたのだ。
この街に続く荒野に商人が通ることはこれからどんどん減っていくだろう。
そうなってくると物資を手に入れるには勢力圏の拡大が必要なのだ。
「おいギンジ! なんか手はねーかい?」
頭目は俺にまっさきに無理難題への方策を問いかけてくる。
俺はその言葉に、答えをすでに用意していた。
「ハーヴェイを落としやしょう」
「あぁん?」
その突飛な発言にその場にいたものは皆怪訝な顔をする。
あの街の門や、兵士の数はこの国でも有数だ。魔術師も常駐しているらしい。
普通に考えれば、ただの野盗の一団が落とすなんて無理な話だ。
しかし、忍び込むなら話は別だ。どこの街にも下水道の道がある。
街に入るには、途中いくつか鍵のついた水門を抜ける必要があるが、そこは俺の小細工を利用すれば問題ない。
「どうです? 頭目? 魔術師は厄介だが、中から撹乱しちまえば、どさくさの内にやれるでしょう?」
俺は作戦を披露するとにやりと笑った。
「ったく。相変わらずおめぇの笑い顔は汚ねぇな。顔も汚ねぇが策はもっと汚ねぇ。 だがやれる。 おめぇら準備しろ! あの街とるぞ!」
同じように汚い顔で笑う頭目。てめぇも自分の顔を見やがれと思ったが俺はおくびにも出さず、笑いあった。この時俺たちは確かに気心のしれた仲間だった。
だが盛り上がっている中、一人の男が待ったを掛けた。ジェスターである。
「新参の話に乗るつもりかおまえら? この街だけなら俺たちは天下だ! これ以上、中央に睨まれるのは得策じゃない!」
「確かにおれたちゃこの街の王様だが、物が入ってこないんじゃあ意味がねぇ。違いますかいジェスターさん? 酒もきれいな女も飯ももう残りすくねーんだ。頭目の判断は正しいってなもんだ。それとも? 頭目に意見があるっていうんですかい?」
「あぁん? ジェスター? それともお前がなにか解決策があるってのか?」
「ぐっ……、解った。だが俺は外させてもらう!」
「いぃや! そいつはいけねぇ! こんな大仕事に、側近が参加しねぇのは裏切り行為じゃねぇのかい? 同じ親分に忠誠を誓った仲だ。これ以上は言いたくねぇ。 そうだよなみんな?」
俺の言葉に野盗達は、みな「そうだ! そうだ!」と賛同する。
これで全員参加が決まった。
どうやら俺はみんなの信頼を勝ち得たようだ。ジェスターの地位を剥奪するのも時間の問題だろう。古参とは言え、俺ほどの小賢しさがない参謀役、彼の求心力はこの一月で急激に下がっていたのだ。
そして俺は準備のため一人でグローダンの街を出る。仕掛けの準備をするためだ。
俺はまだ、兵士たちに顔が割れていない。街に来た時そのままの恰好で、命からがら逃げてきたと装いハーヴェイの街に向かったのだった。
そして兵士の巡回ルートを探り、街の立地や、兵士たちの導線を把握していった。
ハーヴェイの街に来て三日。俺はグローダンとは違い、居心地のいいこの街が気に入っていた。飯は普通にうまいし、女も居る。酒も気が抜けていない。
だが今日が頭目たちとの約束の日だ。俺は深夜、街の比較的奥まった場所に階段を見つけていた。その先は川に続き、その横に下水道に入るための小さな扉がある。
(はぁ……、最初はいいだろうが、またグローダン見たいに寂れちまうんだろうなぁ)
俺は名残惜しむように、その階段をゆっくりと降りていくのだった。
暗くて臭い下水道を俺は松明をもって進む。
水滴が落ちる音が内部に響き薄暗さと相まって、不気味だった。
何か所かの鍵を開け先に進む。どうやら点検はおざなりの様だ。ところどころさび付いており、開けるのに苦労した。二時間ほど進むと、ようやく星明りの元に出た。
そこには野盗達が100名規模で居並んでいた。
俺は彼らの姿を確認するとそのまま道を逆流して、行きとは違い30分ほどで街の入り口にたどり着くのだった。
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