第105話勝機は

真田昌輝「山県様。如何為されましたか?」




 先を急ごうとする一行の中で独り動こうとしない山県昌景隊。




山県昌景「先はまだ長い。しかもここからは敵地に入る。補給が無い状況が続くのだから……。」


真田昌輝「そうでしたね。」


山県昌景「馬場も信綱も。」


真田信綱「わかりました。」


馬場信春「ここからの道のりを考えたら。」


山県昌景「いや。ここまで来れば私にもわかる。裏道も同様。」


馬場信春「……と言う事はお前が動かないと俺らも動けないのだぞ。」


山県昌景「すまぬ。


『(自分の隊に向け)ようし!これだけあれば十分だ!今から敵地に入る!!油断するで無いぞ!!!』」




 長年、三河を担当して来た山県昌景の先導により武田の別動隊は次なる目的地に向け出発。行軍は夜を徹しても続けられ目的地に到着。時間は草木も眠る丑三つ時。彼らが寝込みを襲うべく向かった先は……。




 時間を戻して武田勝頼本陣。




高坂昌信「ここからはあくまで余力を残っていたらで構いません。けっして無理は禁物。これを肝に銘じて下さい。」


馬場信春「責任は私が持つ。」


高坂昌信「此度のいくさ。連吾川の備えを見る限り、正面からいくさを挑んで織田徳川に勝つ事は叶いません。上げる事の出来る成果は長篠城に留まる事になります。そのためには。」


山県昌景「酒井の動きを止める必要がある。」


高坂昌信「その通りであります。さすれば後は時間が解決してくれる事になります。ただ心配なのが。」


内藤昌豊「織田、徳川が打って出る事だな?」


高坂昌信「はい。」


馬場信春「これに長篠城が呼応したら?」


高坂昌信「正直、いくさをして見なければわからない状況に陥る危険性があります。出来る事であれば避けたい事態であります。」


馬場信春「そこで我らの役目となる。」


高坂昌信「はい。しかしこれは義務ではありません。そこは間違えないで下さい。最も大事なのは皆が無事、各所領に帰還を果たす事であります。名を成すために命を落とす事ではありません。」


山県昌景「感謝致す。」


高坂昌信「ここに織田徳川の布陣図があります。連吾川に沿って大量の兵が隠れている事がわかります。しかしその背後は如何でしょう?」


馬場信春「安全な場所であるからこうなっても仕方が無いか。」


高坂昌信「はい。しかし相手が相手であります。機会は一度しかありません。これに成功しなければ……。」


山県昌景「我らは敵中で孤立する事になる?」


高坂昌信「はい。それを回避する事の出来る方法を用意しています。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る