第3話1年違いで
「今、何年とお申し付けでありますか!?」
武田勝頼が武田家の当主であったのは元亀4年から天正10年までの10年間。この間勝頼は、快進撃に大敗北。そこからの再生からの滅亡と言った浮き沈みの激しい10年を過ごしている。
最悪なのは天正10年。その前年に発生した高天神城の陥落。当地には甲斐を始め、信濃に駿河。そして上野に至る武田領から集められた精鋭中の精鋭が守っていた城。是が非でも救わなければならない事はわかっていたのではあるが、西からは徳川。東からは北条の侵入への対応に追われ見殺しにしてしまった。その結果、領内は大混乱。木曾や穴山と言った身内の裏切りの連鎖により抵抗らしい抵抗をする事も出来ず、最期。天目山の露と消えたあの場面。そこに放り込まれるのは御免被りたい。
次にきついのは何だ?上杉の家督相続争いにおける選択を間違えた天正6年以降か?後継者を決めぬまま急逝した上杉謙信。隣国越後で激しい主導権争いが勃発。勝頼は北条氏政と同盟関係にある手前、北条から送り込まれた景虎の支持を要請されるも……。景勝からの買収と傘下に収まるとの文言に踊らされ中立を装った結果、氏政から絶縁状を突き付けられたばかりか。主戦場となっている駿河遠江を徳川と北条に挟撃されるハメに遭ったあの5年間……。
それとも信玄時代からの先輩並びに同僚の多くを失った長篠の戦いとその後の再編までの道のり……。
いやいや信玄以来の重鎮と勝頼と共に高遠から甲斐に入った家臣との軋轢に悩まされた長篠以前もしんどいぞ……。しかも勝頼って、信玄から正式な後継者として認められてはいない……。あくまで勝頼の息子が成人するまでの代理に過ぎない。にも関わらず責任だけは全て勝頼の所に圧し掛かって来る。
こうやって勝頼の10年を振り返ってみると、平穏な時が何一つ存在しない。果たして私はどの勝頼になってしまったのだ……。
「殿?」
私「どうした?」
「どうしたも何もありませんよ。」
私「すまん。ところで……。」
「今何年でありますね?仕方ありませんね。今は天正2年であります。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます