第12話 防具屋の依頼

「へい、ミスター虎吉。申請が無事通ったよ!これでユーも立派な冒険者さ」


 シャドに戻り、ギルドハウスに入ると主(マネージャー)が某の申請が通った事を教えてくれ、あるものを某に渡した。


「なんだこれは?ぼうけんしゃぱすくーぶ?」


 白くて手のひらくらいの大きさの薄い板に『冒険者パスクーブ』と書かれ某の名前と数字も書かれていた。


「そしてこれはパーセ。2つとも無くしちゃダメだよ」


 冒険者、虎吉。

 保証人、ルナ・クレセント。

 ラドネラック2281ネン、異世界より来たる。

 この者、ギルド協会フェルディナンド・ガマが冒険者と認定する。


 など色々と書かれていた。

 そういえば初めてこの世界に来たときルナどのが同じようなもので門を通ったな。

 ルナどのは豪華な模様が入っていたが、某のはただ真っ黒なだけだ。


 こちらの冒険者パスクーブとやらは何に使うのだ。


「では、これの使い方をお教えします。付いてきて下さい!」


 ルナどのがこの建物の入り口右側の通路の奥にある部屋へと向かった。


「ギルドアルゲンタリア、アプリサル?」


 そう札に書かれた扉をルナどのは開けた。

 主と他の者達がいる部屋と違って、ここは静かな部屋でエルフや角の生えた鬼の女の魔物達が座って何かをしていた。


「入金をお願いします。それとこの素石の鑑定をお願いします!」


「かしこまりました。こちらにお掛けになってください」


 1人の女性が我らに応対した。

 言われるがまま部屋の側に卓と共にに置かれた長い椅子に2人で腰掛けた。


 柔らかいな。


 表面は何かの革を使っているのだろう。座ると丁度良い反発があって、心地よかった。


「お待たせいたしました。鑑定士のハラスと申します」


 不思議な眼をしている女が現れた。

 片目が輪っか状に何重にもあるような感じだ。


 ルナどのがリザードマン共らを倒した時に手に入れた素石を女に見せた。

 女は素石を手に取ると女の瞳の輪っかの大きさが変わった。


「ここら辺の小さな素石はそれほどの価値はありませんね」


 どうやらこの者は目利きのようだ。リザードマン共らを倒した時に出てきた素石を目利きしている。


「この大きな素石は悪くないですね。全部で40万エルーになります」


「はい、虎吉さまパスクーブを出して下さい!」


 言われたとおりパスクーブを出した。


「こちらのお金も含めてパスクーブに入れて下さい!」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 ルナどのがツカサからもらった報酬もテーブルに置いた。女は素石と報酬と某のパスクーブを持って、いったん席を離れた。


「ルナどの。我らも死んだら、リザードマンみたいに素石とやらが出てくるのか?」


 待っている間に気になっていることを尋ねた。魔物達が死んだとき亡骸が素石に変わったことである。


「はい。この世界に入ると、この世界の魔法で死ぬときに身体が素石に変わるんです」


「つまり、あの素石は屍?」


「そうとも言えますね。この世界は死んだ者の身体は素石と変わり、そのまま放置すれば大地に溶け込み、大自然を育みます。そして文明を支える素材にもなる価値あるものです」


「リザードマン達の素石は価値があるのか?」


「素石の価値はその者がどれだけ鍛えたかによって価値は変わってきます。真の強者の素石なんかすごい輝きを放っているんですよ」


 その者の命の価値を表すのか。

 某が死んだ時、某の命はどれほどのものだ。


 戦で必死に戦った某を鎌倉は何も評価しなかった。


「虎吉さまは何のために戦うのですか?」


「え?」


 ルナどのが突然、変なことを尋ねてきた。


「虎吉さまは戦士です。戦士にとって戦いとは何かのために、命をかけて行うものです。・・・気になったもので」


「・・・・・・」


 そういえば蒙古と戦ったとき敵も味方もまるで犬っころのように簡単に殺されたし、某も殺した。


「・・・戦で欲するのは我が領地。戦で死ぬのは武士の本望。・・・だが・・・」


 言葉が詰まった。


 主君のために身命を賭して戦い、御恩を受けると言われた。

 それらは正義のためであり、正義を守るために戦うとも誰かに言われた。

 それこそが武士の名誉であり、そのために勇気を持って戦うと言われた。


 そのために我ら武士は日々、鍛錬を積むのだと。


「・・・必死に戦って、それで何も手に入れられなかった時は生きているのが虚しく感じる」


 皆、命がけだった。


「・・・そうですか」


「お待たせしました。パスクーブをお返しいたします。そしてこちらが入金の領収書になります」


 再びやって来た女からパスクーブを返して貰い『領収書』なるものを受け取った。

 女は丁寧にお辞儀をして我らを見送った。


「虎吉さま、そのパスクーブにあなたの全財産が入っています。絶対になくさないで下さい!」


 この薄いものの中に某の全財産が入っている。


「この中にどうやってあの90万エルーが入っておるのだ?」


「ギルドバンクが虎吉さまの口座に90万エルー入金しております。虎吉さまがどこかのお店で何かを買いたいときはそのカードを見せれば、虎吉さまの口座から商品の額だけお金が抜かれ、依頼をこなしていただいた報酬を入金すれば虎吉さまの口座の額が増えます」


 なんとも理解しがたいことを言うもんだ。まるでこの世界の理にあざ笑われているような気分だ。


「もし無くしたら?」


「その時はギルド本部で使用停止してもらって再発行です!」


「さよか・・・」


「ところで、この後どうします?」


「甲冑が欲しい。ロベルトを見たときにやはり戦う時には甲冑を身につけたいと思ってな。どこかに甲冑師はいないか?」


「それならばハルタアーマーへ行きましょう!」


 ギルドハウスから8番通りへと向かった。8番通りには様々な店が並んでいた。

 仕立屋があれば、あれは色々なものが置いてあるな。


「ここです!」


 様々な店を通り抜け、『ハルタアーマー』と書かれた店があった。 3つの錠がついた扉を開けて中に入った。

 客は我々しかいないのか、某とルナどのの木の床を踏む音しかしない。


 広い店の中に様々な甲冑が置いていあった。

 ロベルトが身につけていた甲冑もある。


「これは蒙古共らが身につけていた甲冑」


 なんと、こんな所で蒙古共らの甲冑に再びお目にかかるとは思わなかった。

 と言うことは奴らもこの世界に来ているのか。


「これは我が国の鎧か?」


 腕や腰回りは我が国の鎧と同じ作りだった。だが、胴はロベルトの鎧に似ている。

 そして兜は一見我が国の兜のように見えるが先がとんがった不思議な形をしていた。


「これは紛れもない我が国の甲冑だ」


 大鎧を発見した。

 韋所(かわどころ)には不動明王が描かれ、小札の1つ1つも見事に作られている。


「ようこそハルタアーマー本店へ!社長のマグ・ハルタと申します」


 奥から高そうな着物を着た、しゃれたヒゲを生やした男が現れた。


「我が社は優秀な職人達が、どんなお客様のご要望もお応えする世界一のアーマカンパニーでございます。こちらのオオヨロイをご所望ですか?」


「いや、これより銅丸鎧が欲しい」


「ドウマルヨロイでございますか?」


「大鎧は一番しっかりと作られ、弓から身を守るには適しているが、重いので動きづらい。かといって腹巻では心許ない。銅丸鎧が丁度良い。大鎧ほど重くは無く、腹巻より頑丈だ」


「なるほど。それでしたら当店最高の職人をご紹介いたしましょう。アベル!」


「社長が大声で呼ぶと、奥から若い男が現れた」


「こちらが当店最高の職人アベルでございます。アベルは昨年のアーマーコンテストで最優秀賞を取りまして、期待の新人でございます」


「アベルです」


 胸から女が付ける、褶(しびら)だつもののようなものをつけて、袖をまくった年は某より上そうだが社長より遙かに若い男が現れた。


「銅丸鎧を作ってくれるのか?」


「はい、もちろんでございます!」


 自信に満ちあふれた笑顔で力強く返事をした。


「いくら出せば良い?」


「そこそこ良いものですと、150万エルーになります」


「ひゃ、150まん・・・」


 先ほど手にした90万エルーを一瞬で通り越した額を言われた。

 

「・・・・・・」


 しばらく考えた。


「あの虎吉さま、わたしのパスクーブからも出しましょうか?70万エルーありますので10万エルーは残ります。また依頼をこなせばお金は入ってきますし・・・」


 ルナどのが耳打した。


「うーん・・・」


 ルナどのからお金を出して貰う。

 もっと考え込んだ。

 目の前にある甲冑とルナどのを交互に見た。


「はあ~」


 ため息と共に腹は決まった。


「あきら・・・」


「よろしければ、わたくしの依頼を受けるという形で、あなた様の甲冑を無償で作るというのはいかがでしょう?」


「依頼?」


「はい、ちょうどギルドハウスにある依頼を頼もうかと思いまして、それがこれなんです」


 諦めようと思ったら社長が、依頼書を見せて依頼を申し込んできた。


 メタルタートルの素石の調達。

 報酬は150万エルー。


「この国の東にあるマングル湿地帯に最近大きなメタルタートルが出たと聞きまして。メタルタートルの素石は上質な武具を作るのに欠かせないものなんです。もし、それを持ってきて下さいましたら報酬の代わりにあなた様の甲冑を作るというのはいかかでしょうか?」


「よし、それをやろう!」

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