第13話 メタルタートルとの戦い

「船を漕がねばならんとは・・・」


 メタルタートルを捕まえにシャドの東にあるマングル湿地帯へと向かった。

 草原を歩いていたら、だんだん地面がぬかるみ始め《マングルウェラン》と書かれた立て札の辺りから桟橋を歩いた。

 そして、桟橋の端でなんと1匹の河童がいた。


 ここから先は船でないと行けないそうだ。我らは河童に船賃を渡すと船に乗って、湿地帯まで某が漕いでいった。


「あそこに船を近づけて降りましょう。メタルタートルはここら辺をねぐらにしているそうなので」


 湿地帯の真ん中に小島があった。浅瀬の所に船を着けると湿地帯へと降りた。

 水が膝までつかるので直垂が膝まで濡れた。


「ちょっと待ってください・・・」


 ルナどのはエナンと呼ばれる先のとんがったかぶり物、ローブを脱ぎ、肩を露出させた身軽な格好となった。


「・・・せぇの!」


 そして意を決してルナどのが沼地に飛び込んだ。


「虎吉さま、今から虎吉さまに【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】をかけます!」


「え?亀探しにも魔術をかけるのか?」


「はいそうです。メタルタートルを甘く見ないで下さい!」


 ルナどのが支援魔術を某にかけた。


「それと・・・」


 ルナどのが足を止め、杖を立てて眼を閉じ呪文を唱えた。


「水を守るマングルの力よ。わたしの心に応えたまえ・・・」


 水の中から、周りの木々からいくつかの小さな光の玉がルナによってきた。


「【マングルの息吹(ブレスオブマングル)】!」


 ルナどのに集まった玉が強く輝いた。


「この湿地帯にはマングルの魔法の力がありますので、その力とわたしの力を調和させました。これでマングルが力を貸してくれます!」


 アートリアでアイネどのがおこなった調和魔術をルナどのがかけた。


「では探そう・・・」


 我らは沼の中を歩き出した。

 何か足が一歩一歩歩くごとに動きを止められているかのように歩きにくかった。


「この沼の泥は非常に粘土が強くて。この湿地帯に生えているマングルーの木が原因なんです」


「マングルー?」


 湿地帯の水辺から生えている木々を見た。枝が高々と伸び、まるで洞穴を作ったかのように上まで覆っていた。


「この木の樹液は非常に粘りがありまして、糊の原料にも使われるほどなんです。で、この木が素石になって水の底で土になるとこうやって粘土の高い泥になるんです」


 粘りのある水底を嫌そうに歩きながらルナどのが教えてくれた。


「いた!」


 岩の上で甲羅干しをしていた奴を見つけた。某の武芸で鍛えた観察力と素早い動きで亀の先の動きを読んで捕まえた。

 なるほど確かに湿地帯にいるとは思えないまるで海亀のように大きな亀だった。


「ルナどの捕まえたぞ!」


 自慢気にルナどのに見せた。


「それは子供で捕まえても価値はありません!」


「え、こんなにでかいのに子供?」


「メタルタートルの大きさはそんなもんじゃありません!」


 これで子供だと。

 大人のメタルタートルとはどんな大きさだ。


 我らは大人のメタルタートルを探し回った。


「なかなか見つからんな」


 半刻は過ぎた。ルナどのと一緒に探したが肝心の大人のメタルタートルがいっこうに見つからん。


 だが、確かに【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】は必要だ。【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】のおかげで膝まで水につかる湿地帯を半刻、歩き回っていても強くなった身体は全く疲れない。

 だが、気力までは強くしてくれなく、嫌気がさしてきた。


 よく見たらルナどのがだいぶ遅れている。そうかルナどのは某に【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】をかけているので自分にはかけられないのか。


「すこし、あそこで休もう」


 目の前に大きな岩が見えるので、そこで腰掛けて少し休もう。


「不思議な岩だな・・・」


 よく見ると黒と緑が入り交じった不思議な岩だった。しかしまぁ休むには丁度良い。

 岩へと近づいた。


「虎吉さま・・・もしかして・・・」


「ん、如何した?」


 岩に近づく某を見てルナどのの顔つきが変わった。


「うわぁ!」


 突然、岩が動き出した。

 ウミガメの5倍はあろうかという巨体な魔物が姿を現した。


「虎吉さま、それが大人のメタルタートルです!」


「こいつが!?・・・うわ!」


 メタルタートルの首が伸びて俺に噛みつこうとした。

 【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】のおかげで、間一髪避ける事ができた。


「このやろう!」


 メタルタートルに近づき、太刀を振った。


 ガン!


 メタルタートルは首を引っ込めると堅い甲羅が口を閉ざし、刃は甲羅に当たって弾かれた。


 そして間髪入れずメタルタートルの甲羅が口を開け、首が飛び出した。


 間一髪避けたつもりだったが、右脇腹に痛みが走った。

 着物が破られ、血が流れている。

 某は太刀を抜いて首を引っ込めているメタルタートルにゆっくりと近づいた。


 ガッ!


 メタルタートルは自分の間合いに某が入ると首を伸ばた。某はかろうじて避けた。

 メタルタートルはまた首を引っ込めた。


 この亀、攻撃に某と同じ、一瞬のうちに鞘から刃を抜く技と同じ事をしやがる。


「おもしれぇ、同じ技でどちらかがどちらかの首を獲ろうじゃねぇか」


 某は太刀を鞘に収めて、メタルタートルが首を伸ばす瞬間を待った。

メタルタートルは山のように動かず、某の動きを警戒している。

 某はゆっくりと距離を縮めようと近づいた。


「沼地では思うように動けん!」


 いくら【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】をかけているとはいえ、泥のせいで動きを止められる。


「虎吉さま。わたしがメタルタートルに【金縛り(スリープパラリシス)】をかけます!」


「【金縛り(スリープパラリシス)】?」


「はい、これをかければかかった相手は動きを封じられてしまうのです。今から呪文を唱えますのでそれでメタルタートルの動きを止めますのでその間に仕留めて下さい!」


「心得た。すぐにかけてくれ!」


「ただしこれで止められる時間は3セカンだけです!」


「3セカン?」


 ルナどのから分からぬ刻の言葉が飛び出た。


「はい、ですからタイミングを掴むために何度か近づいてメタルタートルの動きをわたしに見せて下さい!」


 そう言うとルナどのは呪文を唱えはじめた。

 とにかく一瞬しかないのであろう。


 某は再びおそるおそるメタルタートルに近づいた。


 泥が某の足を止めようとしているかのようだ。

 メタルタートルは甲羅の中から某を見ている。


「某の首を狙っているか?ならば、我が首を噛みちぎってみろ」


 メタルタートルの首が伸びる。

 躱して距離をとる。


 再び近づき柄に手をかける。

 メタルタートルの首が伸びてまた躱す。


「虎吉さま、分かりました。次で【金縛り(スリープパラリシス)】をかけます!」


「よし!」


 某はメタルタートルに近づいた。そして奴の間合いに入った時、メタルタートルの首が伸びた。


「【金縛り(スリープパラリシス)】!」


 メタルタートルは首が中途半端に伸びたところで動きが止まった。

 某はその機を逃さず、刃を抜いた。

 メタルタートルは光に包まれた。某は太刀を鞘に収めると、その場に倒れ込んだ。

 脇腹から血が流れでる。


 ルナどのが近づいてきた。


「じっとしてて下さい・・・」


 ルナどのが傷口に手を当てて呪文をとなえた。するとたちまち傷口が治った。


「【治療(ヒール)】です。ある程度の傷なら直すことは出来ます」


「かたじけない。先ほどの【金縛り(スリープバラリシス)】といい。すごい魔術だ」


「【金縛り(スリープバラリシス)】は、調和魔術でこのマングルの力を借りてできた魔法です。湿地帯がわたしたちの味方をしてくれました!」


「これが、メタルタートルの素石か?」


 メタルタートルがいた辺りに大量の黒と緑の入り交じった、素石が落ちていた。

 我らはメタルタートルの素石を袋に入れてシャドへと戻った。


 ハルタアーマーの社長は大喜びだった。職人のアベルも眼を輝かせて、素石を持って工房へ向かった。

 甲冑の制作は普通は半年くらいはかかる。しかし社長がメタルタートルの素石を持ってくてくれたお礼にハルタアーマーの全職人の半分を動員して、大急ぎで作ると約束してくれた。


 その間、某とルナどのはギルドハウスに泊まっていた。


「君たちの部屋の鍵だ。ミスター虎吉。服を新調した方が良いね」


 主が某の破れた直垂を見て新しい着物を買うよう勧めた。今はそれより休みたい。

 ギルドハウスの部屋の左端奥にある扉を開けると階段があった。そこを上ると数字が書かれた扉がいくつもあった。


「・・・206・・・」


 扉を開けた。

 冒険者になってから某はベッドなる寝床は離れているが、この宿でルナどのと一緒に過ごしている。


 これはルナどのは”大丈夫”ということなのであろうか。


「虎吉さま!」


「はい!」


 考えていたらルナどのの呼びかけに変に大声を出してしまった。


「明日、新しい服を買いに行きましょう!」


「はい・・・」


 次の日。

 主に言われたとおり仕立屋で新しい直垂に着替えた。

 店の主人から他にも色々服を勧められたが、やはり直垂が着ていて一番落ち着く。

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