第11話 4代目帝王
「来られた」
雪が降る北の大地に五万の大軍勢がいた。
様々な種族、様々な部隊によって構成されたその兵士達がいっせいに空を見た。
空から数匹の小竜が舞い降りた。その先頭の小竜の背中に手綱を握った若者が降りてきた。
「お待ち申しておりました・・・帝王様」
4代目帝王イズルである。
小柄な体格に日本の甲冑を身にまとい、笹竜胆と月が描かれた朱塗りの太刀を持ち、長髪の黒髪を後ろに結んでいた。
数名の親衛隊に守られて、黄金の覇気を放っていた。
「バルド!」
「は!」
将軍は4代目の言葉に力強く反応した。
「残った反逆者はあれで全部か?」
「は!」
イズルの目の前に大口を開けて大きな牙を見せているモンスター達がいた。
ヒヒティ族である。
3ヶ月ほど前、この地にある小国、コホリ国のヒヒティ族の王が国の反逆者に殺された。
反逆者の数は膨れ上がり、3千を越えた。
王はアカツキ帝国に忠誠を誓っていた。
アカツキ帝国は反逆者の行いは帝国への反逆行為だと判断し、軍を差し向けた。
そして帝国軍は3ヶ月かけゲリラ戦で抵抗していた反逆者を追い詰めていった。
そして残ったのは100匹になっていた。
「ご苦労だった将軍。あとは俺がやる」
イズルは朱塗りの太刀を抜いた。
その刀身は輝く峰に交じり合うように4つの波紋が浮かんでいた。
身体から黄金の覇気を放ちながら下段に構え、1人で100匹のヒヒティ族に向かっていった。
相手は自分より遙かにデカい奴らだった。
だが、それでもイズルは何も恐れることなく反逆者に近づいていった。
「来い!」
イズルの言葉に3匹のヒヒティがイズルへと突進した。
ザン!
3匹のヒヒティはまとめて首を飛ばされ、赤い素石へと変わった。
「我が帝国に背いた罰を受けよ」
「「「「「ギュアアアア!」」」」」
残りのヒヒティ達がいっせいに叫びだした。
「全員まとめてこい!」
イズルが叫ぶと残りのヒヒティ達がいっせいにイズルに襲いかかった。
イズルの身体からあふれ出る黄金の覇気が最大限に高まった。
ザン、ザン、ザン、ザン、ザン、ザン!
イズルはヒヒティ族を紙切れのごとく切り裂いていった。それは音をも切り裂いているかのような鋭い太刀さばきだった。
イズルの周りに赤い素石が黄金の覇気による太刀の光りの軌跡の後から無数に散らばっていく。
ヒヒティ族の中には自分が斬られてことに気づかずに素石になった者もいるだろう。
「よし、帝国に戻るぞ!」
イズルは小竜に乗ると南に向かって飛んだ。
* * *
国の中心に巨大な建築物があった。
橋の向こうに巨大な扉があり、それが開くと巨大な階段が上まで続いていた。
三層になる巨大な高台の頂上から下の堀まで水が流れ落ち、各層には豪華な庭園があった。
その高台の上に5層になった日本風の館があった。
ここはアカツキ帝国。
そしてここは帝王の居館であり人々はこの巨大な館を『世界の中心』と呼んだ。
「宰相、ウロス国とエキルドナ国の争いはどうなりましたか?」
一層には会議室があり、大きな卓上の周りに帝国の重鎮達が座っていた。その真ん中に宰相ベルガが座っていた。
「今の我らでは争いを止める事ができん」
ベルガの冷静に言った一言に周りはざわついた。
ベルガは周りの様子を冷静に見ていた。
「最近は我らよりホリー国の方が各国の支持を得ている。こうなったからには、ホリー国の提案を飲むしかあるまい」
ビト財務卿が発言した。
ベルガは財務卿の発言を黙って聞いていた。
「しかしそれでは、我らの威厳が!」
1人の大臣が卓を強くたたき、財務卿の意見に反対した。
「その威厳が分裂を起こしているのだ!」
財務卿がさらに強く卓を叩いた。
「帝国内部でさえ、我らの言葉を素直に聞かない者が現れている!」
今、帝国は力を失いつつある。
アカツキ帝国の歴史は100ネン前に多くの国々の頂点に君臨し、その繁栄は2代目帝王の時に全盛期を迎えた。
しかし3代目の時に陰りが見え始め、今帝国は分裂以上に崩壊の危機を招こうとしている。
「ホリー国は世界の中心は我が、アカツキ帝国で帝王を選挙で選ぼうと提案しているのだ。それは我が帝国が無くなることではない。すこし変わるだけだ」
「帝王を選挙で選ぶなど聞いたことがない」
ホリー国の提案に1人の大臣が難色を示した。他の者もホリー国の提案は「理解出来ない」と同意していた。
「罠じゃ無いのか?ホリー国はそうやって我らを騙して自分たちの思想を世界に広めて我らからさらに力をそいで、自分たちのやり方で新しい世界の支配者になる気ではないのか?」
別の者がホリー国の提案を疑問視した。
他の者も「それはあり得る」と同じだった。
その態度に財務卿はさらにつよく提言した。
「要は富をホリー国に与えなければ良いのだ。一番大切なのは富を誰が独占するかだ。私に任せればこのアカツキ帝国から富は1エルーたりともホリー国には渡さない。それに今の我々がホリー国の提案をけって、他の国々を思い通りに動かすことは出来るのか?」
今、帝国はかつての力を取り戻そうと躍起になっている。
中には武力をもって逆らう国々を潰そうと言っている者まで現れ、その勢力と変革を訴える勢力で帝国は分裂を起こしている。
「1エルーも動かさない!?あんたはそう言うがね・・・」
「君たちまで分裂しているのか!?」
ずっと黙っていたベルガが大声を出した。
「国が滅びるとき、外よりも中でひずみは起きる。君たちがそうやって己の主張しか言わず、喧嘩を行えば未来は失われる!未来を手に入れろ!」
「帝王のお戻りです!」
衛兵がやって来て大臣達に帝王のお戻りを告げた。重鎮達は会議を一時中断して表に出た。
「帝王、お帰りなさいませ」
宰相ベルガが帝王の前に進み出て一礼した。
「ビト前に出ろ!」
イズルがベルガを無視して、財務卿を呼んだ。
「何でございましょう?」
一番後ろに立っていた財務卿は帝王に呼ばれて前に進み出た。
「これは何だ?」
帝王が財務大臣に一通の手紙を投げつけた。
その手紙を読んだとき、財務卿の顔色が変わった。
「これは・・・つまり・・・」
「俺が、単なるお散歩にでも行ったと思ったか?貴様の腹は読めておる」
手紙の内容はホリー国の1人の商人とのやりとりだった。その商人はホリー国の政治家と深い関係を持ち、ビト財務卿にも多額の賄賂を送っていた。
その商人が、新しい世界で新しい仕事をしたいので、ビト財務卿と共に帝国がホリー国の提案を呑むように協力していた内容だった。
「密偵がお前の悪事を暴いた。お前はこれでその商人と我が帝国の
商人たちと結託してホリー国の新しい世界で私腹を肥やそうとしたのだろう。残念だな。その商人は既に我が帝国の間者が殺した」
ビト財務卿の足が震えだした。
逃げようと後ろにさがった。
だが、すぐに帝王の親衛隊に取り押さえられた。
イズルは柄を握った。
「・・・わ、わたしは・・・帝国のため・・・に」
財務卿は必死に弁解しようとした。しかし、イズルは柄を握って財務卿に近づき太刀を抜こうとした。
「お前など切ると、この太刀が汚れる。お前にはお前にふさわしい最後を用意してやる。連れて行け!」
財務大臣は親衛隊に連れて行かれた。
「ヒヒティ族の反乱はどうなりました?」
一段落したところで、ベルガが帝王自らの討伐の結果を伺った。
「一瞬で終わった。猿の分際で俺にたてつこうなど実に無礼な奴らだ。新しい族長は二度と逆らわないと、俺の靴を必死になめた。会議はどうなっている?」
「ホリー国が勢力を強めようとしております。それに対して我が臣下どもらは・・・」
「ホリー国の台頭など認めない!」
イズルは太刀を強く握って大声を上げた。
「帝王様、我らがこのまま弱まり続ければホリー国はますます強くなり。我が帝国に変わってこの世界を治めるでしょう・・・」
「世界を治めるのは俺だ!」
覇気に満ちた声だった。
ベルガは黙り込んだ。
「ホリー国が強気でものを言っているのはホリー国の思想と同調しているウロス国が争いに勝てば己の影響力が増すからだ!ウロス国の勝利は我らの敗北だ!だが・・・っ!」
イズルはためらった。
反旗を翻すウロス国に攻撃されているエキルドナ国を助けねばならない。
我がアカツキが動けばウロス国など一瞬で叩き潰せる。
しかし、その後がどうなるかイズルは不安だった。
「帝王様・・・アカツキ帝国のためにあなたは戦いますか?」
「当たり前だ!」
「このベルガ、帝王様のために全身全霊をかけて職務を全ういたします。ウロス国を倒しましょう。その後に起きることも、このベルガに考えがございます」
「その言葉しかと聞いたぞ」
イズルは太刀を拭いて鞘に収めると館の最上階に上がった。
最上階には一領の日本の鎧が置いてあった。
イズルはその鎧の前で膝をつき深く頭を垂れた。
「初代帝王・・・私はあなたのように偉大な帝王になります」
イズルは障子を開け、縁側に出た。
外は太陽が傾いていた。
イズルは腰に帯びている黄金の太刀を抜き太陽にかざした。
「このアカツキ帝国は絶対に沈まない・・・」
帝王がかざした太刀に太陽の光が反射した。
「俺が取り戻してみせる!初代帝王が創り上げた強大な力を!」
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