第10話 平和の社

「今回は災難でしたな。ツカサ、ロド」


 夜遅く、ツカサの館でフードをかぶった数名の男達がロドと会話をしていた。


「とんでもございません。こちらこそテイチで騒ぎを起こしてしまいました。どうかお許しを!」


「気にするな。貴公の忠誠心は帝国も感心している。貴公らが毎年帝国に献上するチチカムは大変評判だ。ところで貴公の娘と2人のエルフが弓を持って冒険者と共に戦ったと聞いたが?」


「そ、それはやむを得ずでして、決して約束を破ったわけではございません!」


「いやいや」


 リーダーと思わしき男は、ロドの緊張をほぐすように優しく話していた。


「村に一大事が起きたのだ。戦うことに何の問題がある?だが・・・」


 フードの奥で男の大きな眼が光った。


「平和のために我らと交わした約束は、今後もその約束は守るでしょうな?」


「もちろんです!」


 ロドのその言葉をしかと聞いたフードをかぶった男達は館を出た。


「ノム国とホリー国は今回の件で何と言っている?」


 リーダーは歩きながら部下に尋ねた。


「今回の件において我が帝国の提案をノム国はすぐに承知しました。このテイチに城郭を作り、ノム国の兵士も加えてここに我が軍を置くことが出来ます。ホリー国は難色を示しています。皇条(すめらぎじょう)に反すると」


「そうか、まぁそうなるだろう」


「ハァハァハァ・・・」


「あ~生き残りか?」


 歩いているとリザードマンの野党の生き残りに出会った。


「・・・報酬だ・・・報酬をくれ・・・」


「報酬?・・・ふむ、ではやるとしよう」


 リーダーがフードに手をやりフードを脱いだ。フードの中から大きな一つ目が現れた。


「ぐは!」


 生き残ったリザードマンは絶命した。


*       *       *


「今回は、勝ちを譲ろう。報酬はお前のものだ」


「いやぁ、ナイトだって負けてないだろ」


「ふっお世辞は良い。今度会うとき、俺はもっと強くなる。お前も強くなれ」


「言われなくても!」


 村長から報酬をもらい、都に帰るときが来た。


「そういえば、あの者達はアカツキがまわした間者(エージェント)で相違ないか?」


「そういうことだ」


 最後に現れたアカツキの間者と名乗っていたのあの集団は我らが野党を倒したのを見たらツカサに何やら報告してすぐに消えた。


 あの野党集団はこの地がテイチでアートリアが戦わないというのを良いことに略奪行為を働こうとした。

 ロドどのが申していたが、その対策でこのアートリアにアカツキから一千の兵がやって来るらしい。

 そしてノム国からも一千名の兵がやって来てこのテイチ、アートリアを絶えず守るということになったらしい。


「みなさんありがとうございます!皆様の勇敢な戦いのおかげでアートリアを守ることが出来ました!」


 レミどのが見送りに来た。

 何一つ汚れのない笑顔でお礼を述べた。


 だが、胸に透明な素石で作った首飾りをかけていた。


「それは・・・」


「はい・・・父の形見です。こうやってネックレスにしてずっと忘れないでいようと思います。父は幼い頃によく遊んでもらった思い出がありますので」


「そうか・・・それは良い思い出だ」


 レミどのの表情が少し悲しくなった。


「正直悔しいです。もし、わたしたちが皆様のような強さを持っていれば・・・こんな風にして誰かに頼らずに自分の村を守れるのに」


 その言葉に今度は某の心が複雑な気分になった。

 戦う時は、レミどのの勇敢な言葉に共感したが、今戦いが終わってレミどののその綺麗な笑顔を見たとき、やっぱりこの子はこのままが良いと思った。


 武士の強さというのは勇敢ではあるが、確かに野蛮にも通じるものだ。

 あのリザードマン共らのような武士も確かにいる。


「強さも間違えればあのリザードマン達のように凶暴になってしまうからな。レミどのは凶暴にならないように」


「なりません!」


 レミどのは否定した。


「まあ、これでレミどのも、安心してそのカリマーの男に嫁ぐことが出来るわけだな」


「ん~、まぁ・・・」


 反応がいまいちだった。


「・・・もしかして。あまり好きじゃない?」


「はい!あれはおじいちゃんが勝手に決めたことなんです!相手は遠くのカリマー地域の名門エルフの次男なんです。で、その男と結婚してこのアートリアのツカサの後継者にしたいっておじいちゃんは思ってるんです!」


「さよか・・・」


 なるほど。

 本人の意思など関係なしに家の家長が夫を選んだわけだ。

 よくある話だ。


 結婚とは家の繁栄のためにやるものだと父上は申していた。レミどのもその運命から逃れなかったというわけだ。


「・・・・・・」


 余計な事かもしれぬが、その男が良い男であれと思ってしまう。


「・・・虎吉さまは、ルナさまの側にいるんですよね?」


「・・・さよう」


 ルナどのが冒険者として某をお供として選んだので、某はルナどのの側にいるわけだが。

 しかしレミどのはそんな我らをじっと見ている。


「皆さん、付いてきてくれますか?」


「「「「はい?」」」」


 我らは同じ返事をした。


「こっちです!」


 レミどのに言われるがまま、森の奥へとついて行った。


「これは!?」


 現れたのは無数の鳥居が続く道だった。

 その奥には社が見えていた。


「このシャインは、初代帝王がこの地が平和に守られるように願いを込めて作られたと言われています。このトリイを手をつないでくぐって手をつないだままヤシロでお祈りして、手を離さず戻ってきてください!」


「「「「はい!?」」」」


 我らは全員眼を丸くした。


「手を握るのは、お互いの平和を守る意思です。そしてそれを神に伝えるんです。そうすれば神様が皆を守ってくれます。2人ずつですね。さあ、どうぞ!」


 我らはためらった。しかしせっかくレミどのが我らのために勧めてくれたのだ。

 断るわけにはいかん。


 まず、ロベルトとアイネどのが恥ずかしそうに手を握り、トリイをくぐり奥のヤシロで手を握ったままそれぞれのやり方の祈りを捧げ、手を離さず戻ってきた。


「では、次はルナさまと虎吉さま!」


「「は、はい」」


 某はルナどのの手を握った。

 小さく柔らかい。


 女の手というのは一時も油断が出来ぬ気分になる。


 奇妙な緊張にルナどのの顔が見れない。


「ルナどの参るぞ」


「はい」


 手を握ったまま、トリイをくぐった。トリイの柱には全て笹竜胆が描かれていた。

 そしてトリイを抜けヤシロにたどり着いた。

 ヤシロには笹竜胆が描かれた薙刀が奉納されていた。


「・・・・・・」


 祈りを捧げた。


 ルナどのは。


 そう思うと眼を開けルナどのを見た。

 ルナどのはまだ眼をつぶっていた。

 

 だが、その眼が開きその眼が某の眼と合ってしまった。


「戻りましょう!」


「う、うむ!」

 

 そして手を離さず戻ってきた。


「次は、アイネさまとルナさま!」


 レミどのが次にアイネどのとルナどのが手を握って参拝するよう言った。

 言われるがままルナどのとアイネどのが手を握って社へと向かった。


 そうか、確かにレミどのとアイネどのもお互い手を握って平和を祈らねばならぬ。


 ちょっと待て。


「レミどのもしかして次は・・・」


「次は虎吉さまとロベルトさまです!」


「「え?」」


 お互い顔を見た。

 「この者の平和を祈るのか?」とお互い同じ顔をした。


「「・・・・・・」」


 双方お互いの顔とレミどのの顔を交互に見た。


 アイネどのとルナどのが戻ってきた。


「「・・・では!」」


 レミどのの気持ちを踏みにじるわけにはいかん。お互いそれも同じだった。


 双方意を決して手を握った。


 グゥゥ。


 双方妙に力が入った。

 先ほどのルナどのと手を握った感触が消え去るかのようだった。


 嫌な緊張にお互い絶対眼を合わせなかった。


 そして2人でヤシロへと歩き出した。


(領地をくれ)


 ロベルトが何を祈っているのかは知らん。

 すんだらとっとと戻ろう。


 そして戻った。


「頑張ってください!」


 レミどのはそう言って、手を振りながら村へと戻っていった。


 我らも都へと戻った。

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