第9話 ルナどのからの依頼

「アーノルさん!」


「レミ・・・今すぐ降参するんだ。そしてリザードマン達に従うんだ」


 レミどのの呼びかけにアーノルと申すエルフはかすれ声で降参を呼びかけた。


「確かあなたは、父とともに反逆を企てようとした疑われていた。でもあなたは捕まらず、私たちから姿を消した・・・何故今頃になって?」


「ああ、その通りだ。私は君の父と同じく国の復活を願っていた。だが君の父は強引に事を起こそうとした。私は反対だった。案の定、君の父は捕まった。そして私は村の者達から裏切り者として見られるようになった、10ネン間!」


 アーノルは身体を震わせながら怒りの口調でしゃべった。


「もう、我慢の限界だ。いつまで私を裏切り者扱いする気だ!それならば私は君の父が立てた計画を村のために密かに隠していたが、それを全て帝国にばらしてやる」


「待ってください!あなたの心を傷つけたのは謝ります。でも、だからといって村を潰すようなことはしないでください!」


「それがいやなら今すぐリザードマン達の言いなりになれ!そして私を裏切り者と呼ぶな!」


「そ、そんな・・・」


(卑怯者・・・)


 悲しんでいるレミどのを見てそう思った。


 だが、あらゆる手段を用いて勝つのが戦というものだ。したがって奴らがこの手段に出るのは当たり前だ。


 あのエルフは平和の中に逃げている仲間につまはじきにされたのか。

 そしてリザードマンの野党共らと利害が一致したのか。


「はっはっは!俺に楯突いた罰だ。女、村にある金を全部もってこい!そしてお前はひざまずけ」


 優位に立ったギガントリザードマンが長い舌を出しながら大斧で某の首をはねようとしている。

 この腹の立つやろうに自分の首を持って行かれたくはない。

 この際、依頼なんか無視して首を飛ばしやろうか。


 だが側ではレミどのが泣きながら弓を地面に捨てた。


「ひざまずけ」


 ギガントリザードマンが大釜を頭上に掲げた。


 なんてことだ。

 某は蒙古を倒しても恩賞はもらえず、そしてこの世界でこんな奴に首を差し出して某は一生を終えるのか。


「ちょっと待て!」


 突然、謎の声がした。

 声がした方を向くと笹竜胆の家紋が描かれた甲冑で武装した数名の男が立っていた。


「私はアカツキのエージェント。今回の問題に関し帝国は「イスターの反乱」は解決済みの姿勢でいる。そこのエルフの言葉を帝国は一切聞き入れない!」


 武装した一人の男がそう言った。

 その言葉に我らに希望が現れ、反対にギガントリザードマンから余裕の笑みが消えた。


「そこの君。君は堂々とそのリザードマンを倒す事が出来る!」


 どうやら形勢は逆転したようだ。

 逆転したのならば、とっととこいつの首をいただく。


「ちきしょう、全員あの世に送ってやる!」


 ギガントリザードマンは丸太のような太い腕で大斧を両手で持ち素早く振り回した。

 某は躱しながら、太刀でギガントリザードマンの足を斬ろうとした。ギガントリザードマンそれを躱し、大斧を頭上に振り下ろそうとした。


 某は後ろに下がって避け、大斧は地面に刺さった。


 それを好機に懐に入り込もうとした。


 ギガントリザードマンが一瞬にして土を巻き上げながら、大斧を振り上げた。


「巨体の割には良い身のこなしだな」


「俺を、山か何かと勘違いしたか?俺は風だ」


 確かに山ではない。

 だが、風にはなれない。


 ギガントリザードマンが大斧を下段に構えた。

 某は脇差しを抜き、ギガントリザードマンに接近した。ギガントリザードマンが大斧を下から横の振ろうとした。


 脇差しをギガントリザードマンの足下に飛ばした。足をやられたギガントリザードマンは一瞬動きが止まった。


「とどめだ!」


 ギガントリザードマンの脇腹を切ろうとした。

 瞬間リザードマンが身体からどす黒い緑色のものがあふれ出た。

 間一髪よけた。


「虎吉さん、注意して下さい。それは猛毒です!ギガントリザードマンが使える【特殊技能】です!」


 ルナどのが後方で【特殊技能】とやらを叫んだ。


「モンスターはある程度自分を鍛えると、そのモンスター特有の特殊技能が使えるようになるんです!ギガントリザードマンは猛毒を使えます」


 そいつは厄介だな。

 猛毒と言うからにはかなり危険なんだろう。


「あぁああああ!」


 虎吉が躊躇していたときギガントリザードマンの側面からレミが、恐怖を払いのけるように大声を出して弓を引いた。

 矢はギガントリザードマンの心臓めがけて飛んだが、寸前でギガントリザードマンが掴んだ。

 レミは慌てて次の矢を取り出した。


「レミどの逃げろ!」


 某が大声で叫んだ。

 だが大声むなしくギガントリザードマンがレミどのに突進して、膝蹴りでレミどのを吹き飛ばした。


「ッ!・・・ゴホッ!」


 鳩尾に思いっきり食らったレミは苦しくて立てなかった。ギガントリザードマンそんなレミの髪を掴んで持ち上げた。

 レミの身体がどす黒いギガントリザードマンの毒で蝕まれ意識が朦朧としてくる。


「・・・こ、ここはわ、わたしたちの・・・村・・・わたしが・・・まも・・・る」


「なんだと?帝国の人形程度にしか過ぎないお前らが守る?笑わせるぜ、ははは!」


 ギガントリザードマンがとどめを刺そうと大斧を振り上げた。


「待て!」


 ギガントリザードマンに向かってロベルトがロングソードで斬りつけた。

 ギガントリザードマンは横に躱した。


「先ほどはよくもやってくれたな。正義の一撃でお前を倒してやる!」


「ナイトか・・・正義を気取りやがって」


 ギガントリザードマンはレミを放ると大斧を構えた。


「ロベルト、そいつの首は某のものだ」


 ロベルトに「どけ」と言った。

 ロベルトの正義の目はそれを拒んだ。

 だが、某はもっと強い眼でもう一度言った。


「良いだろう。だが俺が譲るからには絶対に勝て!」


 ロベルトが譲ってくれた。


「おい、クズな魂しか持てないトカゲ・・・女いたぶるのが好きなら某はお前を好きなようにいたぶってやる」


「けっ、高潔な戦士でも気取ってるのか?てめぇらこそ、性根が曲がってやがるぜ」


「なんだと?」


「おうよ、戦士ってのは戦できれいごとを言いやがる。実際は卑怯な事を平気でやりながら。何様気取りだ!?」


「・・・お前に武士の心得を1つ教えてやる。敵の首は討ち取るべし。お主の首をよこせ!」


 某は突進した。

 巨大リザードマンは猛毒に包まれた大釜を振った。それを避けて、そして近づく。

 また巨大リザードマンは大釜を振り、それを避けた。


「お主、もう終わりだ。最後に言いたいことはあるか?」


「あぁ!?お前が最後だろう!」


 ギガントリザードマンが大釜を構えた。

 その瞬間、跳躍してギガントリザードマンの首を飛ばした。


「グァアアアアアア!」


 巨大リザードマンは光に包まれ消えた。

 そしてリザードマン達を倒した時に現れた緑色の石よりもさらに大きく、どす黒い緑色の石が現れた。


 すぐさまレミどののもとに向かった。


「はぁはぁ・・・」


 身体中にどす黒い緑の斑点が浮かんでいるレミどのは虫の息になっていた。


「【解毒(デトックスフィケーション)】!」


 ルナどのがレミどのの身体に触れ呪文を唱えた。

 身体に浮かんでいる斑点がどんどん薄くなり、やがて消えた。


「・・・疲れました・・・」


 解毒がすむとルナどのが大きく呼吸した。


「何はともあれ敵を倒したな」


 ロベルトがギガントリザードマンが死んだ後に現れた緑色の石を拾った。


「それは何だ?」


「これは素石だ。モンスターを倒すとこれが出てくる。これを売ればお金が手に入り、鍛冶屋に持って行けば自分の武器を強くしてくれる」


 なんと、この世界では魔物を倒すとそんなものが手に入るのか。


「あれ?」


 透明な素石もいくつか転がっていた。


「あの、アーノルとかいう奴の素石だな。いつの間にかギガントと共に死んでいたか。やれやれ、手柄を持って行かれたか・・・」


 手柄を持って行かれたことにロベルトが悔しそうにつぶやいた。


「仕方ありませんわ。今回は武士に譲りましょう」


 アイネが慰めるとロベルトはしぶしぶ納得した。


「さぁ、みなさん悪い者は消え去りました。家に戻りましょう」


 アイネの一言で加勢してくれたレミどのとその仲間のエルフたちは、家に戻った。

 アイネとロベルトも小屋へと歩き出した。


「虎吉さま。シャドに戻れば、虎吉さまの申請が通り、虎吉様は正式な冒険者になりますね!」


「さよか。凡下(ぼんげ)から侍になれる・・・とまではいかんか・・・」


 冒険者という身分はまだ良く分からんが、それほど高い地位ではないかもしれぬ。


 それでも今某がなれる身分ならばなっておこう。


「・・・虎吉・・・さま」


「ん?」


 一緒に歩いていると突然ルナどのが足を止めた。

 様子がおかしい。

 胸が大きく動き、大きく呼吸をしていた。


「・・・今ここでわたしの願いを聞き届けてくれますか?」


「な?」


 その様子に某の胸も大きく動いた。


「わたしの国を守って欲しいのです。その報酬は・・・領地です」


「なっ!?」


「そのために、自分をもっと鍛えてください。わたしも強くなります。・・・だからわたしと一緒にいてください」


「・・・・・・心得た」

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