第8話 不思議な声 その参
私も皆もテープから流れる音に聞き入った。
実験の最中は気づかなかったが、私が問いかけをすると、なぜかそれに呼応するかのように、外でカラスが啼いた。
そして、幾つかの問いかけの後だった。か細くだが、しかしそれははっきりと、「フウー、…」という声らしきものが録音されているではないか。それは誰が聞いても女性の声と判る高い音程で、物音とかではなく、すぐ傍で、空間の中に確かに存在する声としか思えないものだった。
実験をしている間は皆物音ひとつ立てず、そこに女性は顧問の先生しかいない。だが先生は遠巻きの位置にいて、第一声色が違う。そもそも誰かがその声を発したならば、皆気づいていた筈だ。
では、一体誰だー?
そこにいた誰もが冷水を浴びせられたようにゾーっとして、実験が成功した(?)というよりも、あまりの恐怖に「製図室」から逃げ出した。
テープに入った声らしきものは一体何なのだ?皆で本校舎への渡り通路で固まって、騒然となった。その出来事に衝撃を受けている、先生の青い顔を今でも忘れられない。
とにかくこの事態を収束させなければならないが、その得体が知れないモノがとり憑いてしまうのではないか、という恐怖感で不安と不気味さが抜けない。私自身、さっきから頭痛がし始めているのも気になる。
お清めをした方がいいんじゃないか、という話になり、一人の家が某宗教団体の入信者だったため、その彼に心得ているという清めの経を唱えてもらった。
するとどうだろう、私の頭痛がスーっと消えたのだ。これには驚いたが、後日顧問の先生にそのことを話すと、なんと自分も同じ状態だったという。アレは何だったんだろうね、と不思議そうな顔をしていた。
さて、件のそのカセットテープだが、気味悪がって誰も持ち帰らない。仕方なく先生が預かることになり、職員室の机の引き出しに仕舞われた。先生はこの出来事をまた別な先生に話し、そこからまた別のクラス生徒にも知られることになって、一時職員室でも話題になっていたようだ。
この出来事は私だけではなく、当時そこにいた全員が体験した話だから、証人は今でも複数いる。
あれからウン十年、あのテープは今も現存しているのか、卒業以来その先生と会う機会がなかったことが惜しまれる。できれば声紋鑑定にでも依頼して、正体を突き止めたいとも思っているから、自分が保管しなかったのは残念な気もする。しかし一方で、あのテープを引き取っていたならば、今の自分がどうなっていたかは自信がない。
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