第3話 - ヒーローの真実②

『それはそうとして、ドクター。また、、、アレが欲しいんだ。』

 この言葉に、またドクターが表情を曇らせた。

『もう、アレは辞めにしよう。アレこそ辞めるべきだ。』

 アレ、が何か分からないが、良くないものなのは確かだ。空気が一転してピリついている。ソルジャーが、苛立っている。

『おいおいドクター。君と私との仲じゃないか。ただ、いつも通りのことを頼んでいるだけだよ。』

『ああ、そうさ、ソルジャーさんよ。俺は、あんたに大きな借りがあるから、こうやってタダで治療してるんだ。だからって、だからってな。何でもかんでも言うことに従うワケじゃないぜ。あんたを骨抜きにする義務は無いし、もう辞めにしたんだ。』

 ひとときの静寂。二人の男が、相手を打ち負かそうと読み合っている。

『分かった、、、いくらだ?いくら欲しいって言うんだ?』

 このソルジャーに対し、すぐさまの回答。

『金の問題じゃないって分かっているだろ。あんたを骨抜きにしたくない。俺はそう言ってるんだぜ。』

 これはドクターの優勢だ。というか、最初から何も間違ったことを言っていない。だが、次の一言が不味かった。

『第一、金なんか持ち合わせて』

 この言葉が効いてか、(こんなことで怒るキャラなのか?)ソルジャーは素早く起き上がり、ドクターの胸ぐらを掴んでグッと顔を近付けた。遂に、ソルジャーがキレたワケだ。

『そうだ、そうだな。だったら、君が俺から借りた命ってものを、ここで返してもらおうか。』

 包帯に滲んだ血が拡がっている。アドレナリンからか、本人は気付いていないが、ドクターはしっかりとそれを見ていた。

『ああ、分かったよ。分かったから手を離すんだ。こんなところで男が二人も野垂れ死にしたって誰も気付きやしないんだから。』

 パッと手を離し、ゆっくりベッドに戻った。

 ドクターは立ち上がり、たくさん薬が置いてある棚に向かう。そして、液体の入った小瓶を探り、隠すように奥に置かれた小瓶を取り出した。

 その薬がさ。なんと「social talk」って名前なんだ。ああ、ああ、なんてこった。この世界では、薬の形をしているんだ。それも、ただの薬じゃない。言ってみればドラッグだ。そして、それをが欲しているなんて。ああ、なんてこった、、、。

 小瓶から注射器へ、注射器からソルジャーの点滴袋へ。見る見るうちに顔から生気が無くなっていく。ずっと遠くを見つめる目。半開きの口。さっきまでの猛々しいヒーローは消え、哀れな骨抜き男になった。こんな姿、僕は見てられない、、、。

 ドクターが椅子に戻り、うわの空のソルジャーに向かって語り始めた。

『もう聞こえてないだろうがよ、ソルジャー。噂じゃあ、マイティと怪人共はズブズブだって話だぜ。絶対的正義を演出したいマイティが、怪人共に暴れさせて、報酬まで渡してるってよ。俺が思うに、これは真実だぜ。絶対に倒せるのにトドメを刺さないのが、何よりの証拠さ。本人は、慈悲だ、って言ってるけどな。』

 タバコに火をつけ、こう続ける。

『あんたは、その為のお膳立てっつーかよ。ただの笑いものなのかもな。』

 大きなため息と共に煙を吐き出すドクター。

『俺は好きだよ、あんたのこと。あんたは正真正銘の正義だ。そう思ってる市民も多いだろうさ。でもよ、だからこそ、こんな姿見たくないんだよ。傷だらけで、おまけに心まで病んじまってよ。正直者が馬鹿を見るってのは、正にあんたのことだぜ。』

 夢現ゆめうつつなソルジャーが、ドクターに話しかけたのか、独り言か、ボソボソと喋った。

『誰も特別な力を持ってないって、こんなにも良いもんなんだな、、、。』

 その言葉を聞いて、うつむき溜め息を吐くドクター。もう見てられない、といった具合に外へ出ていった。

 だから、僕も同じようにしたよ。この世界から出たのさ。

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