第十四話 宮本武蔵のステータス
二階の奥にあった部屋へと案内された武蔵と伊織は、部屋の主人たる
二人が案内された
その長机を挟むように、背もたれつきの椅子が二つずつ置かれている。
武蔵と伊織は
一方の
「お二人とも身体の具合はいかがですか? あまりよろしくないのでしたら、私の知り合いの
「俺は結構だ。これでも痛みには慣れているのでな。あと
それよりも、と武蔵は
「俺ではなく、この弟子のほうを
「お、お師匠様……」
伊織は
ほとんど強引に弟子となった自分に対して、本当の親のような気遣いをしてくれた武蔵の優しさがたまらなく嬉しかったからだ。
伊織は武蔵に深く頭を下げた。
「お
言うなり、「やはり、そうですか」と納得したように
「あなたは伊織さんと呼ばれていましたね。その頭痛は
アルビオン城内において、アルバートと武蔵が闘ったときから始まった頭痛のことをである。
それだけではない。
頭痛が起こっているときに見える、下丹田を中心とした不思議な発光現象のことも全部であった。
「お主……そのようなことが見えていたのか?」
これには張本人の一人である武蔵も驚きを隠せなかったようだ。
「え? お師匠様は見えていなかったのですか?」
そんなもの見えるか、と武蔵は強く言い放った。
「
武蔵は真剣な顔つきで言葉を続ける。
「しかし、その気が見えるとなると話は違ってくる。俺たち兵法者はあくまでも武術に
あろうな、と武蔵が断言しようとしたときだ。
「いいえ、伊織さんが見たものは幻ではありません。〈
伊織は「ちい? てんりつかい?」と小首をかしげた。
あまりにも聞き慣れない専門用語ばかりで
「失礼しました。
ちょっと待ってください、と伊織は驚きの声を上げた。
「
「そう思われても仕方ありませんが、私はあくまでも冒険者ギルド連盟からギルド長を任されているだけの立場であって、冒険者そのものを
「髪の色や身なりからして、このアルビオン王国でないことはわかります。けれども、少なくとも冒険者ギルド連盟が存在する大陸の国に生まれた者ならば、冒険者登録すらしていない素人が堂々と冒険者ギルドでSランクの仕事を要求するという行為をするはずがありません」
これには伊織も
自分がやったことではなかったものの、親同然になった武蔵がやってしまったことは子同然になった自分にも少なからず責任があると伊織は思ったからだ。
などと伊織が口ごもっている間に、
「俺と伊織は日ノ本という国の生まれだ。しかし、その国はこの世界のどこにも存在しない」
「存在しない、とは?」
「そのままの意味だ。俺と伊織は
さすがの
だが
「あのう、やっぱりこの世界で異世界人は珍しくないのですか?」
あまりにも早く落ち着きを取り戻した
「はっきり言ってしまえば珍しいですね。普通に暮らしていればまず会うことはないでしょう。そもそも誰が異世界人なのかわからないでしょうし、自分から自分のことを異世界人だと触れ回る異世界人もあまりいませんので」
言われてみればその通りである。
現代の日本に住んでいて、街中を歩いていたら見知らぬ外国人に声をかけられ「私は異世界から召喚魔法でこの世界に来た異世界人です」と言われて信じるかどうかの話に似ていた。
正直、誰も信じないし信じる判断材料がない。
頭がおかしい精神異常者だな、の一言で終わりである。
「ですが、私たちエルフ族は他の種族よりも長命のため、異世界人を目にする機会は多少なりともあります。私も三百年ほど生きていますが、本物の異世界人に会ったのはあなた方を入れて十六人です。ただし、他の十四人は〝
その意味深な言葉を伊織は聞き逃さなかった。
「〝
ステータスならば伊織にも理解できる。
異世界転移物の作品の必須事項とも言うべき、自分の能力値などが可視化しやすいように表示される半透明上の板のことだ。
「基本的にステータスというのは魔法使いが使う言葉であって、自分の素性や経歴を確認できる
「すみません、違いがよくわからないのですが……」
「詳しく説明すると長くなりますが、この世界においてどちらの板状体を顕現できるかによって境遇は大きく変わります。特に魔法を絶対視する国においては、どれだけ実力が高くても
そう言うと
すると
「伊織さん……あなたは
伊織は反射的に「あ、あります」と答えた。
「見せていただけませんか? 出し方はお任せいたします」
「ステータス・オープン」
と、
伊織は内容をざっと確認してみる。
中身は依然とまったく変わっていない。名前、年齢、身長、体重、職業、備考の欄など履歴書のような事柄が見やすいように記されているのみだ。
「頭痛の正体はそれですよ」
「伊織さん、あなたは本来であるなら正しい師匠について長年にわたり修行を積まなければ顕現させることができない
この説明を受けて伊織は何となく納得した。
よく思い出してみれば急な頭痛が起こったときというのは、武蔵が誰かと闘う際に起こるものだった。
だとすると、武蔵も
そのとき、伊織は肝心なことに気がついた。
あのときはあまりにも色々なことが一度に起こったせいで気づかなかったが、未だに
そんな伊織の疑問を
「武蔵さん、あなたの
「すてえたす・おおぷん……と、決まった
「掌を上に向けることは必要ですが、言葉に関して本来は何も言わなくとも念ずれば出せます。魔法使いたちは詠唱気分で唱えるそうですが」
ふむ、と武蔵は一つ
やはり武蔵も伊織と同じく天理使いだった。
武蔵が何かを念ずるように真剣な表情を作った直後、
だが、武蔵は自分の
次の瞬間、伊織と
武蔵の左手の掌の上には、
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