第十五話 相反する力、魔法と天理
「意外と簡単に出せるのだな」
落ち着いた様子で声を
アルビオン城内の一室で他の人間のステータスや、伊織の
(たった
不可思議な魔法が存在する世界に自分がいる、という認識を持ってしまったことで、日ノ本にいたときならば絶対に認めなかったことを簡単に受け入れられるようになったに違いない。
そして武蔵が右手の
右手の
左手のステータスの【職業】には〝天下無双魔法術者〟。
などと記されていたのだ。
天下無双兵法術者ならば武蔵にもよく理解できた。
これこそが剣に命を捧げてきた、自分こと宮本武蔵を指し示す二つ名に
しかし、
文字の意味合いからして〝魔法を使う者〟ということは何となく察することができたが、それだと余計に頭が混乱してしまう。
宮本武蔵は日ノ本だろうと異世界だろうと、これまでに誰かから魔法を習ったこともなく、また誰かに魔法を使ったことも一度たりともなかったからだ。
それに魔法もそうだが、もう一つの〝天理〟に関しても自分の知る天理とは違うようである。
武蔵の知る天理とは「
そして、この状態になったときこそ、気がもっとも活発に働いて通常の何倍もの力が発揮できる。
決して
(分からんものは分からん……まあ、こういうときは詳しい者に聞くに限る)
数秒も経たずに考えることをやめた武蔵は、
だが
これにはさすがの武蔵も
まるで冷静沈着を絵に書いたようだった
「トーガ・カムイ・ブラフマン」
ほどしばくして、
「いきなり何だ? と、とおが……」
「トーガ・カムイ・ブラフマン――今から約1500年前、この世界を救った〈大剣聖〉の名前です」
今から約1500年前、この世界の各大陸に住む人間たちは、
そこで当時の人間たちは各国で同盟を結んで魔物に立ち向かったが、そのあまりの魔物たちの強さに次々と国が消えていき、人間たちが滅ぼされるのは時間の問題まで追い詰められたらしい。
けれども、そのとき一人の男がどこからともなく現れた。
男の名前はトーガ・カムイ・ブラフマン。
各国の精強な騎士団さえ歯が立たなかった凶悪な魔物たちに対して、それまでに誰も見たことのなかった神秘的な力を駆使して
それだけではない。
トーガは魔物たちに有効だった力を〝天理〟と〝魔法〟の二種類に区別し、その誰もが欲しがった神秘的な力を惜しげもなく他の人間たちに伝授していったというのだ。
やがて〝天理〟と〝魔法〟のどちらかの力を会得した人間たちは、互いに共闘しながら長い年月をかけて魔物たちを退けていき、いつしか今のような平和な時代を築くことができたのだと
「そして、このトーガ・カムイ・ブラフマンこそ今の時代に伝わる武術と魔法の祖であり、一説によると本人は自分の
「
ぼそりと声を発したのは武蔵であった。
現在、武蔵は今の自分の流名を〝
本来ならば父であり武術の師匠であった、
だが、あまり父の
それほど武蔵は流名など特にこだわってはいなかったものの、この二天一流という名前を聞いたときは魂が揺さぶられるような感情が湧いてきた。
なぜ、魂が震えたのかは分からない。
ただ、この二天一流という言葉はなぜか自分に
そんな武蔵に構わず、
「そう、二天一流です。そして先ほども申し上げましたが、この世に天理と魔法という相反する二つの力を同時に有する者はおりません。その力を持っていたのは伝説の〈大剣聖〉――トーガ・カムイ・ブラフマンただ一人だけなのです」
そこまで聞いた武蔵は、自分の
「おかしくないか? ならば、なぜ俺は二つとも出せているのだ」
武蔵の素直な問いに、
「こうして実際に目の前で見ていても信じられません。それほど、今のあなたがやっていることは特別で異質なのです。それこそ、この世界の命運を大きく狂わせてしまうほどに……」
武蔵は「大げさが過ぎる」と言うと、心の中で消えろと強く念じた。
すると
「出してみて分かった。二枚ともいつでも俺の身分を保証するだけの便利な
堂々と両腕を組んで言い放った武蔵に対して、
「武蔵さんは今のご自分がどれほどの価値と
「
そうとしか武蔵は思えなかった。
もしも
「それは――」
と、
「た、大変ッす!」
部屋の扉が盛大に開け放たれて、一人の少女が勢いよく室内に飛び込んできた。
赤髪のチャイナ・ドレスの少女――
「わきまえなさい、
「お叱りはあとで何度でも受けるッす。でも、一刻も早く
その
「一体、何があったのですか? 手短に話しなさい」
「キメリエスが魔物たちに襲われるッす!」
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