第4話 生産チート?「沢山良いものを作れます」だから、お前はダメなのだ。

「仕事にとって、一番大事なもの。かの世界では常識になっている。

 しかし、頭で知っているだけでは、何の意味も無いことだ。

 一番大事なもの、それは、【愛】だ。

 リサ・ムラタは、それを良くわかっている。ムラタ家の始祖、ヒデオ・ムラタから、薫陶を受けている。直系ぞ」


 しかし、この国の、王、王妃、王子は、笑い出した。


「アハハハハ、何を言い出したのかと思えば、モウロク、いや、失礼、お年を召されたか?」

「まあ、女神教会の司祭にでも転職されたのかしら」

「それのどこが、奥義なんだよ!」


 それに対して、ザイツ帝国、ノース王国、蛮族の面々は、叱責する。


「おい、話の腰をおるな。国の東半分をとってやろうか?」

「まあ、うざいわね。話の邪魔をするのなら、国の西半分取って差し上げるわ」

「ゲス!国の北半分を取ってやるで、ゲス!」

「まあ、仲良く国を三等分ね。それも、いいかしら」


「なっ」

 この国の面々は、不満ながら、黙ることしか出来なかった。


「あれは、ヒデオ・ムラタ殿の、工房に視察に行った時だ・・・」


 ☆回想


「高い所で、作業するときは、必ず安全帯をつけてもらいます」

「靴は、靴先を鉄で覆っているもの、安全靴と言います」


 ・・・話を聞きに行っても、安全のことしか言わない。

 我等、視察団は、困惑した。

 当時、ニラヤマ型反射炉自体を、知らないのもあった。


 当時のドワーフ王に報告をした。


「・・・確かに、未知の技術を持っているかもしれません。デカい製鉄所を作っていますが・・」

「ヒデオ殿は、臆病で、いつも、作業員たちに、『気を付けろ』と言ってばっかりです」

「我々は、ヒデオ殿は、先進的な技術体系を持っているかもしれませんが、ヒデオ殿個人は、見るべきところはないと結論づけました」


 ドワーフ王は、ため息をつき。断言された。


「はあー、ヒデオ殿は、もう、ドワーフの奥義を身につけられておられている。たいして、お前たちは、ヒデオ殿の足下にも及ばない」


「何ですと!いくら王でも、そんな、やる気のない老工房主みたいな者を賞賛されるとは」

「我々は、確かに、若輩ですが、それぞれの分野で、良いものを沢山作っています」


「だからだ。そもそも、仕事とは、自己満足でするものではない!家族、従業員を幸せにし、顧客を満足させるがために職人は存在する。

 そのためには、仕事は、すべからく、【安全第一】でやらなくてはならない!

 偏屈だけど、腕はいいは、幻想だ!」


 ・・・☆地球、1920年代、アメリカ・USスチール社


 当時、世界は、安全第3であった。作業の序列は、出来高1、品質2,安全3であった。

 しかし、この会社の社長は、単純に、怪我をする自社の社員を憐れみ。


『我が社は、安全第一でやる!』

 と宣言。

 この社長は、キリスト教の友愛思想に基づいて安全第1にしたとされる。

 事故が起きなければ、成果はどうでも良いとも取れる。


 人は安全第一にしてもさぼらない。

 性善説を採用したとも取れるが、


 しかし、その結果、事故が減り。事故に対処する時間が減ったことで作業時間が増えて、出来高があがり。人がやめなくなったので、熟練工が育ち、品質も上がり始めた。


 それ以降、資本主義国家は、安全第一が作業の基本になり。法令にまで影響を与えている。


 あくまでも、良い仕事は、安全な環境の結果にしか過ぎない。


 ・・・・・


「もっとも、それが分ったのも10年後だ。ワシは経験から学ぶ愚者であった。

 炉の前に、燃える魔石を山積みにさせた。

 たった数回だ。繁忙期で、つい許可を出してしまった」


 ボォオオオオオオーーーーー


 工房が燃えた。

 ワシは急いで、打ち合わせから戻り。

 燃え尽きた工房の前に立ちつくした。


「貴方!」

「父ちゃん!」

「親方!」

「「「今まで有難う!」」


「生きていたのか?!」


 空から声が聞こえた。見上げたが、誰もいない。


「ウワワワワワワ~~~ン!ワシは間違っていたーー」


 ・・・ドワーフは罪深い。


「だから、今、ここにいる国の指導者に言いたい。

 作業は、安全第一でされよ。さすれば、問題の多くは解決に至るであろう。事故がないのが普通、故に、成果が見えない。無理解の者からは批判されるであろう。苦渋の道である・・ウグ・・」


 ドワーフ王は、膝をつき。顔を伏せ嗚咽した。


 パカパカ

「ヒヒ~~ン」


 妖精馬が、ドワーフの肩をハムハムして慰める。


「筆記官、今の話は記録したな。フレンツアよ。大公家を興し、安全を家業とせよ。一代限りの大公家ではないぞ!」


「御意!」


「まあ、グレース、貴女は政略で他国に行かせませんわ。王家に残り、今の話を実現なさい。権限を与えます。我国の学園に復帰しなさい」


「女王陛下、畏まりました」

「フフフ、お母様と呼びなさい」


 ・・・何だと、間違っている。

 民は馬鹿だ。

 ムチを使わなければ、働かなくなる。

 しかし、ロバートの工房があるから、大丈夫だろう。


 ホラズムは、そう考えるが、非情にも、刀剣ギルドから、使者がやってきた。


「陛下、貴国のロバート工房のニホン刀は、数打品と判定されました。金貨一枚から銀貨5枚の間の市場価値です。

 なので、流通価格、銀貨7枚と大銅貨5枚(7万5千円)で、練習用のニホン刀として、仕入れると決定されました」


「何だと!通常、ニホン刀は、大金貨数十枚(数千万円)ではないのか?」


「それは、ムラタ工房の刀剣ですね・・斬鉄刀なら、いくらでも買いますが、ロバート工房産のは、買い手がつきにくいですね」


 ・・・しまった。いや、まだ、リサはこの国の人間なハズだ。


「皆様、婚約破棄は無かったことにします!真実の愛の相手は、リサでした!真実の愛は、時空を超えるのです!」


「なら、この国を手に入れて、リサ殿を迎えるべし!」

「お前は、馬鹿王子、婚約破棄だけはしてもらいます!」

「ちょっと!今までの話はどうなるのよ!」


「お前は、馬鹿王子のくせに、婚約破棄もできないのか?させてやる!」


「おい、護衛軍団だけでも、王都を落とせるな!国境に控えている騎士団に連絡!全土を掌握せよ!」

「御意!」


「まあ、それもいいわね。魔道師軍団招集よ。ザイツ帝国さんとは、不可侵よ。こちらも、国境に備えていた軍団に連絡よ!」


「ヒィ、そんな」


 パスン!

 コロン


 既に、ロバートの首が斬られた。僕たちは慌てた。父上、母上と、キャサリンと共に、王城の裏の非常用の砦に何とか逃げ切れた。


「こうなったら、リサを第二妃として、召し抱える!キャサリン、支えてくれるよな。君が一番、リサが二番、真実の愛の相手だよ」


「ボケ!兄上も殺されたし、私は逃げるわ!」


 そんな。

 真実の愛が二つあれば、問題解決するのに、何故、キャサリンは分らないのか?


 ザイツ帝国の駐屯地、フランツアの天幕に、忍び込もうとしたキャサリンは、その場で惨殺された。ホラズムと別れた日の夜の出来事である。


 露出の多いドレスから、色仕掛けからの亡命の要請だと思われた。











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