19 姉妹、いつもどおり行動する

 そんなこんながあり、やっぱり本部だけあって王都の冒険者ギルドは一味も二味も違うなぁと、絶対に其処じゃないだろうとツッコミが入りそうな箇所で感心したナディとレオノールは、ギルマスのアルノルトと食堂スタッフが引くほど喰いまくったその日の昼過ぎ、


「さぁ来たわよ!【レプタイルケイヴ】!」

「来たー」


 王都近郊にある、入場最低ランクが【シルバー】のパーティ推奨な中級上位の迷宮【レプタイルケイヴ】の門前町、レプティルデンに来ていた。ちなみに距離として徒歩半日程度である。何故そんなに早く到着出来るのか。ソコは気にしてはいけない。単純にだけなのだから。


「ガチムチなアルノーの話だと、此処の魔物は爬虫類系だと聞いたわ。じゃあ、否が応にも気になるじゃない」

「気になる気になる」

「そう」

『そのお肉の味が!』


 どうあっても行動原理が食欲な姉妹であった。そして可食であるなら、原材料や素材は何でも構わないらしい。野生として優良ではある。

 あとこの迷宮でのドロップ品は牙や爪、そして皮革や鱗が主であって、お肉はそのオマケ程度に過ぎない。


 そんないつもどおりにテンアゲ状態で迷宮前でギャイギャイ騒ぐ姉妹は、またしても当たり前に注目を集めまくっている。レオノールはともかく、体型も容姿も立派な成人女子なのに全然落ち着かないナディだった。逆に歳を重ねるごとにテンションが高くなっているようでもある。きっと魂魄の年齢が肉体年齢に引っ張られて、やっと年相応になって来たのだろう。決して、単に楽しいからはっちゃけているのではない……と思う。


 そう、先日十六歳になったばかりのナディは、既に立派な成人女子となっていた。具体的には身長が167センチメートルくらいある。体重とスリーサイズは秘守項目でお願いします。

 レオノールも栄養状態が良いのか適度な運動をしている成果か、年齢としては発育が良く、大体140センチメートルくらいある。


 二人とも例によって見目麗しいため、


「おう嬢ちゃんたち可愛いなぁ。今から迷宮に入るのか? どぉれじゃあ俺様たちが先導して手取り足取り面倒見てや――」

「【センス・イービル】【グラント・オブ・カース】【マナ・ディプライヴ】【アブゾーブ・マテリアル】【クリエイト・マナクリスタル】【アセンブル】【ストレージ】」


 行く先々でやっぱりホイホイしていた。色々な意味でとんでもないことであり、そして色々と問題が起きそうではあるのだが、「悪意を持って近付くと自動迎撃」するという困った時のアーティファクト頼みがあるから、案外スルーされ易かった。アーティファクトの性能は自主申告である上に、引っ掛かるのが前科者や常習犯が多かっため信憑性はかなり高いし。


 ちなみに、そういうアーティファクトは魔王領の遺跡――約五百年前の廃棄物処理場跡で相当量発掘されており、ほぼ動かないが中にはある程度機能する物もあるため、疑う者は意外と少ない。


 まぁ、何処ぞの魔王妃の試作や作り損じた物だったりするが。


 そんな下心や欲望丸出しなクズどもばかりでは勿論なく、中には本気で心配して声を掛けてくれる者も居るのだが、そういうのには一切耳を貸さない姉妹であった。テンアゲ過ぎて聞こえていないだけでもあるが。


「なんか迷宮に入る前に臨時収入があったけど、それはともかく、さあ! 久し振りに行くわよー!」

「おー」

『迷宮踏破リアル・タイム・アタック!』


 そうして物騒な宣言をして、迷宮前にたむろしている冒険者たちの注目を集めまくり、


「【マキシマイズ・オブ・エフィック】【エクステンション・オブ・エフィック】【ソーサリー・アクセラレーション】【ソーサリー・イクステンシヴ】【ブーステッド・ホウルアビリティ】【デュレーション・ホウルリカヴァリー】【セーフ・コンディション】【リジェネレーション】【デュレーション・キュアディジーズ】【バイタリティ・アクティベーション】【バイタリティ・メインテイン】【ハードアーム】【ソーサリー・ブースト】【アタック・ペネトレイト】【ソーサリー・ペネトレイト】【ソーサリー・リバーブ】【マキシマイズ・プロテクト】【マキシマイズ・ホウルレジスト】【ホウルリフレクション】【ブラー】【ヒドゥン】【サプレッション】【ファスト・ムーヴ】【イレイズ・レジスト】【イレイズ・オブ・オシレーション】【エビエイション】【コントロール・アトモスフィア】【センス・マナ】【センス・イービル】【センス・ホスリティ】【センス・エネミー】【センス・オーガニズム】【センス・インオーガニック】【センス・ライ】【サーチ】【ディテクト】【シーク】【アナライズ】【マップ・クリエイト】【マッピング】【メタスタシス・オンプレイス】【ストレージ】強化はオーケー!」

「【ミラー】『【ライトニング・フォーム】【リ・ホウルソーサリー】【マルチプル】【トラント・ソール】【ディメンション・サークル】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【ソーサリー・プリザーヴ】【チェインバースト・ライトニング】【ディレイ・オブ・ソーサリーアクティベート】【ライトニング・バースト】いつもどおりオーケー』」

「魔物は爬虫類系みたいだから私はコレで行くよ。【フロスト・フォーム】【リ・ホウルソーサリー】【マルチプル】【トラント・ソール】【ディメンション・サークル】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【ソーサリー・プリザーヴ】【フロスト・ノヴァ】【ディレイ・オブ・ソーサリーアクティベート】【フロスト・デストラクション】」

「『レオは氷結系が苦手だから何でも熟せるお姉ちゃんが羨ましい』」

「いやいや。私は基本的に物理特化型だしただの器用貧乏だからね。それに比べたら強力な魔法を使えるレオの方が羨ましいよ」

「『器用貧乏とは比べ物にならないほど何でも出来る。さすおね』」


 やっぱりそんな人目を気にせず強化魔法を掛けまくる姉妹であった。


 田舎というか辺境の迷宮前ではそれを理解出来る者は多くはないが、此処は多種多様な種族が入り乱れる王都近郊の中級迷宮である。よって魔術の知識に一家言持ちであったり、失われたとされる魔法の研究をしている者もいるのは当然だ。


 よって、二人が重ね掛けしている強化魔法やらターム・オブ・ソーサリーディレイオブ・ソーサリー、はては継続強化トグルバフなど見聞きしたこともない魔法技術を目の当たりにして色めき立つのは火を見るより明らかである。


「ぅえ? なんだあの魔術? 見たことねぇぞ」

「あんなに強化術式って重ね掛け出来るのか? いやそもそも詠唱はどうした?」

「ちょっと待て。強化魔術だけで魔力が尽きるんじゃないのか? あの娘らどんな魔力してんだ?」

「なんなの【条件発動】と【遅延発動】って!? あんなの何処の魔導書にも載ってないわ!」

「うわなんだあの娘ら!? 雷と冷気を纏ってるし、なんか浮いてねぇか? 意味が判らねぇぞ!?」

うおマジで浮いてる……おお、迷宮に突っ込んでったぞ!」


 そしてそうやって盛り上がる外野を他所に、二人は【レプタイルケイヴ】に突貫した。


レプタイルケイヴ


 その名のとおり爬虫類系の魔物が生息している迷宮であり、その構造はストラクチャでありながら各階層がそれぞれ違う領域型フィールドになっている特殊迷宮であり、ある意味では一般的な迷宮でもある。

 階層間の移動は竪穴式であり、誰がそうしたのか、何故か縄梯子が掛かっている。

 その竪穴の周囲20メートルは独立した空間となっており、魔物は一切出現しないため、セーフエリアとして冒険者や探索者の休憩場として利用されていた。

 そして四方の壁にそれぞれ飲料可能な泉が止め処なく湧いており、しかも若干の魔力を帯びているため、この水で作ったポーションは効能が高いとされている。


 そのように、各階層がセーフエリアによって完全に隔絶されている此処は、過去現在共に氾濫が起きない迷宮として利用されているのだ。


 魔物が増え過ぎて共食いし始まることもあるが。


 セーフエリアがあるということは此処を根城にしているというか、ホームにしている冒険者も相当数おり、中には宿代が掛からないのを良いことに住み着いているヤツらすら居る。


 大体想像出来ると思うが、そういった手合いは勝手に自分たちに都合の良いルールを作っているもので、その被害に遭う者の多くは此処に初めて入った冒険者だ。


 それはナディとレオノールも例外ではなく、更に二人は目麗しいため、第一階層前のセーフエリアに入った途端に早速絡まれて――


「おう嬢ちゃんたち此処は初めてか? 此処はオレたちの根城でオレたちがルールだ。まず酒の相手でもして貰おうか。なんなら夜の相手も――」

「【センス・イービル】【ヘヴィ・カース】【フォーゲットフルネス】【オブリビアン】【リミテーション・オブ・イービル】【ライ・リストリクション】【マナ・ディプライヴ】【アブゾーブ・マテリアル】【クリエイト・マナクリスタル】【アセンブル】【ストレージ】」


 ホイホイどころか【呪】を掛けられた上に記憶を曖昧にされて強制的に忘却させられ、悪意を抱かないように制約を掛けられ更生させらるという、実に世界に優しい処置を施されてぶっ倒れた。


「ついでに【カトル・ソール】【クリエイト・マナツール】【センス・イービル】【グラント・オブ・カース】【マナ・ディプライヴ】【アブゾーブ・マテリアル】【マナ・ディスパージ】」


 そしてシレっと、セーフエリアの四方にある泉の直下に、魔結晶にならずに霧散させるホイホイセットを込めたいしぶみ六基で六芒星を設置する。ちなみにそうしたのは正義感からではない。単にそういう大バカ野郎が嫌いなだけだ。


 そもそも片や冷気を纏い、片や分身している上に雷を纏っているのに理解出来ず、見た目で判断してそんなアホな戯言を吐きつつ言い寄って来るヤツらは滅びれば良いと、ワリと本気で思っているナディに情けと容赦は一切ない。あとレオノールは、そいつらの存在に無関心である。ある意味ナディより冷たいし酷い。


 そうしてホイホイされてぶっ倒れたソレらは、今現在進行形で色々迷惑を被っている冒険者たちが、これ幸いとばかりにソイツらの装備やら何やら一切合切をひん剥いて迷宮外に放り投げ、とても良い笑顔で「やり切った」と言わんばかりな清々しくも美しいキラキラした汗を流すという一コマがあったのだが、余談なのでどうでも良いだろう。


 そんな珍事の副次効果で感謝されたのだがやっぱり気付かない二人は、それら冒険者の方々を全てスルーして第一階層に突っ込んだ。


 第一階層は樹林が点在している平原で、成人男性の腰の辺りまで草が生い茂っている。そしてその面積は10ヘクタール以上の広さがあり、出現する魔物は蛇だ。


 容易に想像出来ると思うが、そんな生い茂っている平原で地を這う蛇を見付けるのは容易ではなく、この迷宮に初めて這入った者はまず何処からともなく襲い来る魔物に注意しなければならな――


「おおー【生体感知】が此処まで役立つのは前例が無いわ。つーか湧きまくってるわね」

「『勝手に突っ込んで来て勝手に倒されてる。所詮は蛇。脳ミソが豆粒』」


 ――いのだが、触れただけで弾けるように噴き出す強烈な冷気と炸裂する雷を常時発動させている二人には、あんまり関係なかった。逆に入れ食いでコロコロと戦利品が落ちて満足げである。


 ただ、落ちるのが牙だったり蛇皮だったりで、残念ながらお肉は無いため若干テンションが低くなっているが。


 そんなわけで、


「なんか落ちるのが素材関連だけなんだけね。もしかしてだけど、此処ってお肉出ない?」

「『相当数倒して出たのが素材だけ。その可能性は高いと思う』」

「だよねー、やっぱりそう思うよねー。じゃあこの階層は速攻で抜けようかな」

「『賛成。素材だけしか出ないのはテンションが上がらない』」


 湧いている魔物を極力無視して最速で一階層を抜けることにした。通常の移動方法ではなく飛んで。


 そんなことをすればどうなるか。


 まず、この迷宮は王都から徒歩半日、乗合い馬車なら四時間程度で到着するアクセスの良さと、武器防具やその他様々な製品の素材になるアイテムが手に入る、中級冒険者御用達で人気の高い迷宮だ。

 中級であるが故にそれなりな実力者が出入りしており、更に一階層ではその広大さもあって多数の冒険者が狩りをしている。

 そして前述のとおり魔物が湧きまくっているため横取りなどのマナー違反も起きない。

 それにそういう輩は良識のある冒険者に淘汰されてまともに狩りが出来なくなり、セーフエリアを根城にして新人相手に迷惑行為やたかりをするようになるのが精々だ。


 まぁこの迷宮に来る「新人」はそれなりな実力者であり、そんなバカどもは概ね逆襲される。あと見た目を完全に裏切る実力者も当然おり、セーフエリアからも淘汰されるのも時間の問題だから、それに関しては誰も何も言わない。面倒だし休憩中に無駄な労力を消費したくないから。


 そういう本当の意味での実力者は当然他者の実力を見抜くのにも長けており、よって全身に冷気を纏っていたり分身して雷を纏っていたり、あまつさえ物理的に飛んでいたりすると否応なく注目を集めるのは当たり前で、二人を目撃した冒険者たちは騒然となった。


 でもそんなの関係ないとばかりに飛び去る姉妹は、二階層への竪穴があるセーフエリアに到着し、


「おう嬢ちゃんたち見ねぇツラだな。此処はオレたちの根城でオレたちがルールだ。まず酒の相手でもして貰おうか。なんなら夜の相手も――」

「【センス・イービル】【ヘヴィ・カース】【フォーゲットフルネス】【オブリビアン】【リミテーション・オブ・イービル】【ライ・リストリクション】【マナ・ディプライヴ】【アブゾーブ・マテリアル】【クリエイト・マナクリスタル】【アセンブル】【ストレージ】オマケの【カトル・ソール】【クリエイト・マナツール】【センス・イービル】【グラント・オブ・カース】【マナ・ディプライヴ】【アブゾーブ・マテリアル】【マナ・ディスパージ】」


 判を押したように同じことを言う大バカ野郎をホイホイし、同じように四方の泉にホイホイの碑を設置して、そのまま二階層に突貫する。


 そして当たり前に騒然とする冒険者たち。姉妹の無自覚なやらかしが止まらない。某ガチムチなギルマスが聞いたら胃痛が悪化するだろう。


 こうして姉妹は【レプタイルケイヴ】の第一階層――通称蛇階層を後にし、水棲爬虫類階層と名付けられている第二階層へと潜行した。

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