2 お家の材料を集めよう
ギルドから物理的に飛び出して十数分後。ナディは【
そしてナディは、取り敢えず情報収集のためにと町へ向かわず、
「さぁ!【
気合い充分に、他所様が聞いたら鼻で笑われそうな宣言をして無駄に注目を集めていた。あと後半は完全にゲーマーの発想である。
実際にその宣言を聞いたその辺にいる冒険者がやっぱり鼻で笑い、なんかバカにしてたりせせら嗤ったり、挙句そうするくらいなら一緒にニヤニヤなことまで言ったりしているが――
「【マキシマイズ・オブ・エフィック】【エクステンション・オブ・エフィック】【ソーサリー・イクステンシヴ】【ブーステッド・ホウルアビリティ】【デュレーション・ホウルリカヴァリー】【セーフ・コンディション】【リジェネレーション】【デュレーション・キュアディジーズ】【バイタリティ・アクティベーション】【バイタリティ・メインテイン】【ハードアーム】【ソーサリー・ブースト】【アタック・ペネトレイト】【ソーサリー・ペネトレイト】【ソーサリー・リバーブ】【マキシマイズ・プロテクト】【マキシマイズ・ホウルレジスト】【ホウルリフレクション】【ミラー】【ブラー】【ヒドゥン】【サプレッション】【ファスト・ムーヴ】【イレイズ・レジスト】【イレイズ・オブ・オシレーション】【エビエイション】【センス・マナ】【センス・イービル】【センス・ホスリティ】【センス・エネミー】【センス・オーガニズム】【センス・インオーガニック】【センス・ライ】【サーチ】【ディテクト】【シーク】【アナライズ】【マップ・クリエイト】【マッピング】【フレイム・フォーム】【グラント・オブ・フレイム】よし、突貫!」
自己強化魔法や武器強化魔法を重ね掛けして突撃した。
尚、【
当然である。【
「半径千メートルに人影なし。【ディメンション・サークル】【ヴァン・ソール】【インセンティリィ・ボム】」
――のだが、ナディはそんなの関係ないとばかりに飛行魔法で飛びながら多重魔法を発動し、炸裂焼夷魔弾をばら撒き始めた。
シュルヴェステルは言った。【
ならば、ナディは考えた。じゃあ炸裂して燃焼する魔法ならば使えるよね――と。なにが「じゃあ」なのか不明な、ぶっちゃけ屁理屈でしかないが、それが通用しちゃうのが魔法である。
結果はその通りで、半径五百メートルは火の海となってトレントやその他の植物型魔獣の阿鼻叫喚な断末魔が響く。理不尽以外の何物でもない。
「【ストレージ】【アセンプル】ドロップは回収しなきゃねぇ」
迷宮に現れる魔物は外のそれとは違い、倒されると亡骸は残さず消滅し、代わりに様々なアイテムに姿を変える。よってナディの理不尽な爆撃と燃焼に晒された迷宮の魔物は成す術もなく次々と倒され、ドロップアイテムだけが残った。
更にそれを直接拾うのではなく魔法で残らず
「うわー、いっぱい出るな~。トレントの資材と果実、マタンゴの幻惑粉、マンドラゴラとアルラウネの根、ブラッディペタルの麻痺毒、ニードルアーチャーの棘と蔓、ベラドンナの毒果実、ラバーツリーの樹液、メイプルトレントの樹液、ファンガスの臭腺――」
ストレージに次々と溜まって行く戦利品。ナディは特に何も感じていないのだが、量が明らかに異常だし殺意が高そうな素材が過半数を占めていた。まぁ、薬師ならばそれらを薬にするのだが。
ちなみにナディも、三度目の人生が薬師であったため調合や調剤は出来る。道具がないからやらないけれど。もしやっちゃったら、なんだか大騒ぎになりそうだし。
「あとは、エルダートレントの資材と……ちょっと良さげな巨木まんまな資材と、緑の魔結晶――てでっか!」
そして放火を始めて数時間。大量の【エルダートレント】の資材と【
その前にサラッと流したが、その「良さげな巨木まんまな資材」もそれのドロップ品である。ちなみに非常に硬く熱にも強く、加工には
「こんなもんかな? そろそろ消火しなきゃ。【プロセッシング・ウェザー】【ダウンプア】」
目的を達成したナディは、巨大な平面魔法陣を発動させる。そして、閉鎖された空間であるため雨が降らない筈の迷宮に豪雨が発生した。
完全に鎮火するのを見届け、鼻歌混じりに迷宮を出る。そして色々たらふく手に入れたアイテムを売却分だけ魔法の鞄に移して、収入を皮算用しながら意気揚々とギルドへ向かった。
――と。
「
迷宮内の森林火災を目撃した冒険者が
焚き火は出来ても絶対に大規模な火は起きない筈の【
諸悪の根源であるナディも流石にマズイと思ったのか、換金は止めて被害者然とした神妙な
「お? さっきの突貫嬢ちゃんか。張り切ってたのに残念だな、こんな目に遭っちまって」
そんなナディに気付いた冒険者なおっちゃんが、気安く話し掛けて来る。
「あ、さっき張り切って突貫してった嬢ちゃんか。こんなことになって残念だな。怪我はないか?」
次いで冒険者なおにいさんも、気になっていたのか声を掛けてきた。ナディは成人したとはいえ未だ幼さが残る、しかも美少女だ。気にならない方がおかしい。
「でもいきなりソロで突貫はねぇな。此処のは植物系だから固ぇし、射程外から鞭打って来るわ毒針飛ばすわ幻惑の粉噴き出すわ切っても切っても生えて来て面倒だわで大変だったろ。オマケに謎の森林火災だ。良く無事に戻ったな、偉いぞ」
物凄く心配されていた。それもその筈。ちょっと実力が付いて自惚れちゃった冒険者が、軽い気持ちで
実はナディが突貫した後に、心配した冒険者パーティが見守るために後を追っていた。だが結局見失ってしまい、挙句森林火災を目撃しちゃって大騒ぎになったのだ。
這入った瞬間に飛び上がって
「可哀想に。怖かったのね」
そんな仕草がそう見えたのか、ゆるふわな金髪でナイスバディな聖職者っぽい装備のお姉さんが、そっとナディを抱き締める。その場にいる冒険者一同、ちょっと涙腺が緩んだのが目を逸らしたり上を向いたり俯いたり、何故か前屈みになっていたりしていた。
そしてナディは、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、だが――
『うわ! このおねえさん、おっぱい凄い!』
全然関係ないことを考えていた。
「大丈夫よ。何かあったらみんなだって助けてくれるから。ワタクシはムリだけど」
続けて、慈愛に満ちた口調で、実は
『おっぱい凄いぃ!』
そしてナディも、そんなえっちなバディの聖女っぽいおねえさんの言うことなんか耳に入っちゃいなかった。だって、凄いから!
「そう。いつもひとの胸とかお尻とかフトモモとかガン見してるんだから、きっと助けてくれるわ」
続けるおねえさんの言葉に、今度は一斉に視線を逸らす冒険者一同。野郎どものエロい視線は、大抵気付かれているものである。
「なにかあったら、ワタクシのところに来てね。其処の店で働いてるから」
目を逸らす野郎どもを蠱惑的な笑顔で見回してから、とある店舗を指差した。其処にはえっちなおねえさんのシルエットが描かれた[Moulin Rouge]とロゴが入っている、赤い風車の形をした看板がぶら下がっていた。どう見てもそういう目的なお店である。
「貴女ならトップを狙えるわ!」
「遠慮します!」
逃すまいとガッチリホールドする、えっちな聖女っぽいおねえさん。ナディは逃げ出した!
「そんなこと言わずに! 最初はちょっとアレだけど、慣れれば楽しいから! 好きなコスチュームも着れるのよ。女騎士風で『くっ殺せ!』なプレイも出来るから! それに初めての相手にはちゃんと慣れたイケメン用意するから!」
「要らないって言ってるでしょ! って無駄に力強いわね! あーもー面倒臭い!【ストレングス】【クイックネス】【デクステリティ】」
瞬時に筋力、敏捷、技巧を強化し、するっと抜けて逃げ出すナディ。聖女っぽいおねえさんは、どうやらそういうお店のコスプレイヤーだったらしい。野郎どもの反応がアレなのも道理である。
そんな騒動が起きてしまって換金どころではなくなったナディは、ならばホームで換金しようと考えて、大騒ぎになっているフロントフォレスタの町を後にした。
ナディが【
「オメー、なにやらかした」
昼過ぎ。謎に憔悴したナディが受付一番でヤロスラーヴァ女史――もとい、ヤロスラーフ氏に【
「なにもしてないわよ。ただ【
「【
頬を膨らましてあらぬ方へ視線を向け、プンスコしながらナディが言う。そしてちゃっかり隣でスコーンを食べながら紅茶を飲んでいるレオノールが、いつもどおりにそう言った。
お約束のクソデカ溜息を吐くシュルヴェステル。ちょっと胃の辺りをさすっている。
「ギルド本部から高速通達があったんだよ。焚き火以上の火が起こらない筈の【
「え? あー、ふーん、そーなんだー珍しいこともあるものねー」
逆光を浴びながら両肘をライティングデスクに突いて手を組み口元を隠す――つまり◯ゲン◯ウの有名ポーズをとっているシュルヴェステルをチラ見したナディは、そう言いながらやっぱりあらぬ方へ視線を彷徨わせる。
「んなことが出来るのは炸裂魔弾が使えるクラスの【
「えーそーなのー? でも此処にいるんだから平気だったんだよねー。大変だったねー」
スコーンを食べながらそう相槌を打つナディ。ポロポロ零しているし、しっとり出来てて美味しい筈のそれの味が全然しなかったが。
「まぁ、ギルドに常駐している時点でそれはすぐに晴れたが――」
「わー良かったわねー。冤罪にならないで済んで。あそーだ私ったらすごーくたいせつなようがあるのわすれてたわー。じゃ――」
すっかり冷めた紅茶を一気飲みして立ち上がる。だがそれより早く、凄く良い笑顔のシュルヴェステルが先回りしてナディの両肩に手を置き、
「とある【
「ワー、ナンテ、ブッソウナノー。アワナクテ、ヨカッター」
謎にカタコトになって中空へ視線を這わせるナディである。それにシュルヴェステルが畳み掛けた。
「なんでもその『なにか』はスゲー高度な立体魔法陣を使っていたってな。あと魔弾が炸裂した傍から燃え上がっちまって一瞬で手が付けられなくなったそうだ」
「ホント、タイヘンネー。イッタイ、ダレナノカシラー。ショウイダン、ナンカ、バラマイタノー」
「オレぁ
「はぅあ!?」
「やっぱりオメーかよ」
「ちょっとなに言ってるか判らないわ」
「いや惚けるの下手か。安心しろ、言わねぇから。なんで隠してたんだって責められそうだし」
そしてクソデカ溜息を吐くシュルヴェステル。予測変換可能なくらい繰り返されたお約束であった。
「取り敢えず持ち込んだ素材は一旦死蔵な。オメーの魔法の鞄なら劣化しねーだろ」
「え、なんで? 買い取ってくれないの?」
「今買い取ったら足が付いてすぐに特定されるだろうが。なんで判らねーんだよ。オメーは賢いけどバカだな」
「え? どういうことよ! 失礼な!」
その評価に納得出来なかったのか、両肩に手を置いているシュルヴェステルを見上げて睨む。そして強い口調で、
「私は賢くないただのバカよ! その辺を間違わないで!」
「お、おお。んん? それで良いのか? 言ったこっちが納得出来ねぇんだが?」
予想の遥か斜め上の返答に、流石に困惑するシュルヴェステルであった。
「良いのよバカの方が。この世の中バカにならないとやってられないことの方が多いでしょ」
「ああ、うん。ある意味で『名言』だな。『迷う』方のだが。いやそれは良いから。取り敢えずオメーはちぃっとばかし大人しくしてろ。暫くギルマスルームで謹慎な」
「えー……」
「『えー……』じゃねーわ。少なくとも半年はギルドで
「え、やだもしかしてシルヴィって、私も狙ってるの? どうしようレオ。私第三夫人にされちゃう」
「お姉ちゃんを手籠にしようとは良い度胸。もし本気でそうしたいなら最低年収で金貨一枚(一億ニア)は必要」
「オレの年収は一億七千万ニアだが?」
「お姉ちゃん残念。予想を超えられた。こうなったらお姉ちゃんがギルマスを倒すしかない」
「えー、ガチムチとタイマンとか、ナイワー」
「オメーらコトの重大さを理解してねーだろ?」
切実に胃薬が欲しくなるシュルヴェステルであった。
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