第17話「苦い缶コーヒー」

親友、遥の彼氏である海斗君の言っていた通り、

陸上部の相原亮あいはら・りょうさんは、とても礼儀正しかった。


いきなり押しかけて来て、3人のランチに混ざりたいなどと、

ぶしつけで、その上強引だったけれど、

最後には自分の非礼を私達3人へちゃんと詫び、あっさりと去って行った。


遥は、ぷんぷん怒っていたけれど、私のファーストインプレッションでは、

相原さんは、そんなに悪い人じゃないと思った。


でも相原さんがあきらめず、再び同じやり方をして来たら、嫌いにはなると思う。


さてさて!

それより、大事な事がある。


10年前同様、私のピンチをまたも助けてくれた颯真そうま君に、

ちゃんと、お礼を言わなくては!


6歳の時、ショッピングモールで迷子となって助けて貰った際には、

その後会えずに、そのままとなってしまったから。


それから10年間も、お礼を言えなかったので……

今度こそ、しっかり、ちゃんとお礼を言わなくてはならない。


しかし、何と何と!

私が相原さんと話している間に、颯真君は何も言わず、その場から姿を消していた。


え!?

颯真君が居ないよ!?


ど、どこ!?

颯真君は、どこへ行ったの!?


取り乱した私は、焦りに焦って、声を張り上げる。


「遥! ごめん! ランチ一緒に行けない! 急いで颯真君を探さなきゃ!」


あわあわした私は『ごめんなさいポーズ』をして、遥に謝った。


対して、遥も、


「よし! 凛! 私も一緒に颯真君を探す!」


と言い、海斗君へ向き直ると、


「お~い、海斗! 今日一緒のランチは中止よ!」


「ちゅ、中止? お、おう、わ、分かった」


「海斗はず~っと見ていたから、状況は分かっているよね? 私は凛と一緒に颯真君を探す! 海斗はさ、相原さんと話してくれる? もう二度と凜にあんな事をしないよう、ちゃんと言っといて! 決着をつけてね! 必ずだよ!」


そう、ぴしゃりと言った。


今回の件は、海斗君が悪いわけではないと思う。


でも海斗君は責任を感じていたようだ。

遥の指示に素直に従った。


「わ、分かった! 話す! 俺、亮と話してくるよ」


「うん! お願い! 今日は相原さんとお昼ごはんでも食べて来て! 後は宜しく!」


そして、


「さあ! 凛! 颯真君を探そう! 一緒にお礼を言いに行こう!」


と、遥は私の手を取ったのである。


と、いう事で……

私と遥は、急いで颯真君を探した。


まずは教室へ!


居ない!


次に学食へ!


居ない!


売店へも行った!


居ない!


じゃあ、屋上へ!


う~、見当たらない!


校内をしらみつぶしに見て、校庭も隅から隅まで見たけれど……


……どこにも居ない。


あっちこっち走り回って、疲れたし……気が付けばお昼抜きでお腹も空いてきた。


うう~、どうしよ?


ここで、遥から提案が。


「凛、お腹ぺこぺこで、午後の授業を受けるのは避けよう。とりあえず、お腹にパンでも入れようよ」


さ、賛成!

授業中にお腹がぐうぐう鳴るのは避けたい。


「了解!」


と、返事をした私。


売店で菓子パンとブラック缶コーヒーを買い、再び学食へ。


ウチの学食は、売店で購入したパン、お弁当や

自前のお弁当も自由に持ち込み食べる事が出来るから。


私と遥は再び、学食を見回した。


……でも、やっぱり颯真君は居ない。


ここでハッとした遥。


「あ、凛、颯真君ファンの女子が何人か居るよ!」


と、遥のチェック。


ああ、そうだ!

何か、手がかりがつかめるかも!


と、私はひらめき、彼女たちが颯真君の行方を知らないか、尋ねてみる事にした。


ここは当然、私が突撃。


「あ、あのぉ……颯真君……知らない?」


すると!

颯真君ファンの女子から、衝撃の答えが戻って来た。


「颯真君、もう帰ったわよ。山脇、あんたを助けた後すぐ、体調不良で早退するって」


ひとりが言い、もうひとりも、


「そうそう! 早退して帰ったよ! 颯真君」


え!?

早退して帰った!?


びっくり仰天!

予想だにしなかった!


颯真君が早退するほど体調不良!?

さっき見た時、そんな様子は、全くなかったのに!!


心配!!

本当に心配だ!!


青くなったらしい私を遥が心配そうに見つめてる……


仕方ない!

とりあえず、お昼を食べよう。


颯真君が体調不良になったと聞き、食欲はなくなってしまったが……

私と遥は仕方なく、菓子パンをかじり、缶コーヒーを飲んだ。


……結局、颯真君を探し出し、お礼を言おうとした事が全くの徒労に終わり……

彼が体調不良で早退したという超心配な話も聞いて……


いつも苦いブラック缶コーヒーの味が、私には、ことさら苦く感じられたのである。

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