第18話「え? 颯真君の顔色が? 良くなかったんですか?」

遥と学校中を駆け巡った『颯真そうま君捜索』が空振りに終わり、

更に彼が体調不良で早退したとも聞いて、午後の授業は全く身が入らなかった。


私の隣の席は、当然、誰も居ない……


気もそぞろで、全く集中出来ず、颯真君を心配する気持ちばかりが高まって来る。


あの元気な颯真君が早退したって、よほど具合が悪いのだろうか?

凄く心配だ……


そんなこんなで……

いつもより、とんでもなく長く感じた、授業がようやく終わった。


本日の最後の授業は、担任の里谷先生が行った。


やはり颯真君の事が気になる。

彼は早退する際、里谷先生に理由を告げ、OKを貰って帰宅したはずだ。


その時、颯真君がどんな様子だったのか……先生に聞いてみよう。


しかし教室で堂々と聞くと、ひどく目立ちすぎる。


なので、私は職員室へ先回りして、里谷先生を待った。


はるかも察して「付き合うよ」と、ついて来てくれた。


ありがとう! 遥!

嬉しい!

心強い!

凄く勇気が出るよ!


職員室の前で、待ち伏せするかのごとく、立つ私と遥を見て、

里谷先生は、とてもびっくりしていた。


「あらあら、どうしたの、山脇さん、田之上さん、ふたりそろって」


と、尋ねる里谷先生。


軽く息を吐き、私は言う。


「先生をお待ちしていました」


「え? 私を? 待っていたの? 一体何の用かしら?」


「はい、先生にお聞きしたいのですが、私の隣の席の颯真君……いえ、岡林君、今日早退しましたよね?」


私が単刀直入に尋ねると、里谷先生は「納得した」というように苦笑する。


「ああ、そういう事か。……ええ、確かに岡林君、私に直接、午後の早退を告げに来たわ。理由は体調不良だって」


「やっぱり!」


思わず声が出た。


クラスの女子から聞いた通りだ。


私はその時の、颯真君の様子が詳しく知りたい。


「そ、それで、体調不良って、どこが悪いとか、言ってましたか、颯真君」


岡林君と聞くべきところを、思わずフレンドリーに颯真君と言ってしまう私。


「いいえ。特に言ってなかったわ」


「そ、そうですか……」


身体のどこが悪いと言っていない。

微妙な答えだ。

……ちょっと不安。


「まあ、私が見るに、岡林君、少し顔色は良くなかったけどね」


顔色が良くない!?

うっわ!

私の不安、更に増大!


「え? 颯真君の顔色が? 良くなかったんですか?」


「ええ。これは先生の推測だけど、体調不良の原因は、メンタル面かもしれないわね」


「え? メンタル面?」


颯真君のメンタル面?

どういう事だろう。


私と遥は里谷先生の言葉を待った。


里谷先生は微笑み、言う。


「うん、メンタル面よ。だって岡林君、転入生でしょ? 今までとは違う全く新しい環境だから、慣れなくて、ちょっと疲れが出たのかもね……」


「ええっと……颯真君が今までとは違う全く新しい環境だから、慣れなくて、ちょっと疲れが出たんですか?」


「ええ、そういう事って、たまに聞くじゃない?」


「は、はあ」


「先生が見ていると岡林君は、クラス内で『過剰な人気』もあったし、この学校へ来てから、とても気をつかっていたんじゃないかしら。だから保健室へとかじゃなく、特別に早退を許可したのよ」


成る程。

里谷先生の判断はそうかあ。


ここで、考えていた質問をしないと!

頑張れ、私。


「先生、実は私、颯真君、いえ岡林君に助けて貰って……それでお礼を言いたくて探していたんです」


他クラスの男子に誘われたいざこざです、なんて正直に言えない。

なので、シンプルに助けて貰ったと告げた。


幸い、里谷先生はあれこれ深く追求せずに、そのまま納得してくれた。


「へえ、そうだったの」


「はい。私、岡林君の家へ、お礼も兼ねてお見舞いに行くとか、したいので、住所とか教えて頂けませんか? 無理なら自宅の電話番号だけでも!」


勇気をふるって、何とか言えた。


しかし、そんな私の苦労は無駄に終わった……

里谷先生はにべもない。


「駄目よ、山脇さん、申し訳ないけど、学校の規則でクラスメートといえど、住所や電話番号などの個人情報は教えられないの。万が一、何かあったら困るでしょ?」


個人情報かあ……


残念……まあ、そう言われると思った。

想定内の答え。

甘くはない。


それに私だって、見ず知らずの人に、

スマホの番号とか、住所などの個人情報が知られるのは絶対に嫌だ。


なので私は、先生に謝る。


「分かりました。先生、無理を言って、ごめんなさい! 明日、岡林君が登校したら、直接お礼を言います」


「うん、それが良いわね」


里谷先生は、にっこり笑い、大きく頷いていたのである。

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